クリエイターの言葉 閉塞感漂う暗闇で生まれた、オペラの可能性を押し広げたミュージカル映画『ラ・ボエーム ニューヨーク 愛の歌』。

インタビュー 2024.08.04

疎外された人々を看過することはできない。

レイン・レトマー|ビジュアルアーティスト、オペラ監督

コロナ禍は世界中に大きな爪痕を残したが、怪我の功名とでもいえばいいのだろうか、この『ラ・ボエーム ニューヨーク 愛の歌』は、閉塞感漂う暗闇で生まれた、オペラの可能性を押し広げたミュージカル映画だ。製作したモア・ザン・ミュージカルは2016年に「非白人の才能に光を当てた、現代のライフスタイルに合った90分の凝縮版オペラ」をコンセプトに香港で創設されたオペラカンパニー。予定していた舞台はすべてキャンセル、スタッフと途方に暮れていたロックダウン時期に、映像作品として芸術を人々に届けようと映画制作に着手した。監督は本作で映画監督デビューを果たしたビジュアルアーティストでオペラ監督のレイン・レトマーである。

「オペラ界ではこれまで人種差別や偏見により、才能ある非白人の俳優たちに光が当たっていなかったのは事実です。私は白人女性ではありますが、どの活動においてもノンバイナリーでクィアな演出家としての意識を持って活動しています。この作品においてもバイポック(BIPOC=黒人・先住民・有色人種といったマイノリティ)のキャストで固めることは私にとってもカンパニーにとっても大事なことでした。『ラ・ボエーム』を題材に選んだのも、若い芸術家たちが文化の垣根を越え、アパートに集まって切磋琢磨しながら暮らしている様によって、多文化の共生を描けると思ったからです」

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『ラ・ボエーム』は、貧しい若き芸術家たちが、自分たちの道を切り拓こうとする物語。普遍的な若者たちのドラマは、大ヒットミュージカルで映画化もされた『RENT/レント』やバズ・ラーマン監督の『ムーラン・ルージュ』の元ネタでもある。

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パンデミックで閑散とした、大晦日のニューヨークの街。画家のマルチェッロや詩人のロドルフォ、哲学者のコッリーネ、ミュージシャンのショナールは、薄暗い屋根裏部屋で共同生活をしている。突然の停電時に、ロドルフォは同じアパートに住むミミと出会い、恋に落ちて......。プッチーニの名作オペラを基に、舞台を19世紀のパリから現代のニューヨークに置き換えて描いたミュージカル。●『ラ・ボエーム ニューヨーク 愛の歌』はTOHOシネマズ シャンテほか全国にて10月6日より公開。

「今回の映画を作るうえでおおいに影響を受けたのが『RENT/レント』なんです。マンハッタン特有の若いアーティストのライフスタイルを背景に意識的に取り入れています。登場人物の再構築や階級制度、ジェンダーなどについても工夫が必要でした。プッチーニの素晴らしい曲を基に、息遣いや、階段の軋む音、騒音など環境音などを取り入れ、リアリティのある表現を取り入れています」

小規模の映画にもかかわらず、企画意図に賛同した世界的なカウンターテナー、アンソニー・ロス・コスタンツォがパルピニョール役で出演。また、コンテンポラリーアートを代表する米国作家マシュー・バーニーが彼のロフトを撮影場所として貸し出してくれた。

「彼らと仕事ができたのは、私にとって幸運以外の何物でもありません。やはり"社会から疎外されている人々"というテーマはいま、最も関心のあるテーマです。看過することはできませんよ」

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LAINE RETTMER/レイン・レトマー
1985年、アメリカ生まれ。演出したオペラ『セビリアの理髪師』がニューヨーク・タイムズで2014年にクラシックミュージックトップ10、『ラ・ボエーム』はオブザーバー紙で、この10年におけるベスト・オペラに選出されている。

*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

text: Atsuko Tatsuta

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