『君たちはどう生きるか』(中)『ころんで学ぶ心理療法』(右)は失敗からも学び続け、善いと思うことをしていくための勇気を与えてくれる2冊。『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』(左)はメンターとしての自分に誇りを持ち、実際のスキルを思い出すために適宜見返す本です。と語る。
AIを活用し挑戦を加速。関澤裕理がバッターボックスに立ち続ける理由。【女の生き方、働き方】
自らの感性を大切にしながら働き、暮らすことをとおして、より良い未来を築いていくーーそんな女性たちが紡ぎ出す印象的な言葉とともに、さまざまな働き方と生き方の物語を紹介します。

企業に社外メンターを提供するMentor For。同社でエンタープライズセールスとして活躍する関澤裕理は、AIを駆使して営業の仕組みをつくり、チームへ定着させることに取り組んできた。そんな功績が評価されたのが、「AI時代の新たなロールモデル」を表彰する「Woman AI Award 2026」。関澤は、企業や組織の“中の人”としてAI変革を起こした人を対象とする「カンパニー・イノベーター賞」にノミネートされた。
「ロールモデルと言われると、雲の上の人のようなキラキラした存在を思い浮かべてしまいますが、私自身、完璧な人間ではありません」と語る関澤。
「でも、自分が自信を持って取り組んでいる何かが、誰かを励ましたり、誰かの参考になったりするかもしれない。そんな“パーツ”を持つことで、“パーツモデル”として誰かの役に立てたらいいなと思うんです。今回のノミネートはそんな考えを後押ししてくれました」
では、関澤が持つ“パーツ”とはどのようなものなのか。そのヒントは、これまでのキャリアをたどると見えてくる。

人の可能性を広げる仕事へ。辛い経験がキャリアを変えた。
昔から好奇心が強く、知らない世界を見ることが好きだった。新卒で総合電機メーカーに入社し、経営企画を経験。海外の仕事に関心があり、さまざまな世界に触れられる環境が刺激的だった。結婚を機に東京から地方へ移住し、リクルートで求人広告の法人営業を任されると、地元企業への営業を通して、知らない土地で新たな繋がりを持つことがやりがいになった。しかし8年前、関澤は私生活で大きな転機を迎える。
「当時、流産を経験して、深く落ち込んでいました」
そんな関澤を救ったのが、メンターとしての自分だった。
「コーチングやメンタリングの勉強は、営業職や後進育成に生かすために始めたものだったのですが、メンターとして人と向き合っていく中で、自分の経験を共有することが、誰かに寄り添い、支えることに繋がると知ったんです」
辛い経験からどう立ち直ればいいのか悩んでいる人に、自分の経験を話すことで信頼関係が生まれたり、「励まされた」という声をもらった。自分が関わった相手の前向きな変化がうれしかった。
この経験から関澤は、メンタリングを通じて人の可能性を広げる仕事に関わりたいと考えMentor Forに入社。地方在住、リモートワークという環境の中、メンタリングの価値を企業に届けるエンタープライズセールスとして、新たなキャリアを歩み始めた。
未知のエンタープライズ営業。0からのフロー作りに苦戦した日々。
もちろん、壁はあった。前職と同じ営業職ではあるものの、Mentor Forでは、扱う商材も、営業先も、それまでとはまるで違った。
前職での求人営業は「この1年でどう採用するか」という短期的な提案が主だった。一方、現職で扱うのは、企業の人材育成や組織づくりに関わるメンタリングサービス。
さらにエンタープライズセールスでは、企業の中期経営計画や組織課題を踏まえ、「数年先にどんな組織をつくるのか」まで見据えて提案する必要がある。関わる相手も担当者だけではなく、社内の意思決定者へと大きく広がっていく。一方で、直接会いに行くことができない環境が、商談相手との距離を縮めるうえでの新たな課題にもなった。
「毎回毎回、一から関係を構築していく苦労はありましたね」
顧客によって課題も、提案の切り口も、関わる相手も違う。これまでの営業経験をそのまま当てはめるのではなく、商談先に合わせてひとつひとつ、営業の進め方を組み立てていく必要があった。
加えて、関澤にはMentor Forで一人目の営業という重圧もあった。前職では当たり前に用意されていた営業フローも、自分が整備する必要がある。案件管理の方法を考え、マニュアルを整え、メンバーが誰でも使える形にする。売るだけではなく、「売るための仕組み」そのものをつくることが求められた。

AIは、自分らしく前向きに働き、暮らすための手段。
そんな時に、関澤が着目したのがAIだった。
きっかけは、上司がAIを活用していたこと。その姿を見て、「AIを使いこなせば仕事の進め方が変わる」と感じた。
関澤はまず、顧客企業の中期経営計画や経営者の発信、外部の記事など、商談に必要な情報をAIで整理した。情報収集を効率化して生まれた時間は、“自分にしかできない仕事”に使う。集めた情報から、企業が抱える課題や取り組みの背景について仮説を立て、「この企業にとって、メンタリングがどんな価値を持つのか」を熟考して商談に臨んだのだ。すると、商談準備を効率化しただけではなく、会話そのものが驚くほどに変わっていった。
「以前は、経営層の方を前にすると気後れしてしまうこともありました。でも、いまはしっかりリサーチしたうえで仮説を立てているので、自然と踏み込んで質問できるようになったんです」

さらに、自分が試して効果を確かめたAIの使い方を営業フローとしてマニュアル化し、チームにも展開。チーム全体の提案件数は前年比200%、受注率は前年同月比で約300%に増加したという。
そんな功績が認められての「Woman AI Award 2026」へのノミネート。こうした経験は、関澤にとって仕事への向き合い方を変えるきっかけにもなった。
「効率化して余白が生まれたことで、仕事に対して能動的になってきたと思っています」
以前なら、「これも私がやるのか」と感じていた仕事も、「これもやってみよう」と前向きに取り組めるようになった、と関澤は話す。
変化は、私生活にも現れている。業務が効率化したことで残業時間が短くなり、子どもと過ごす時間が増えたほか、プライベートでもAIを壁打ち相手として使うようになった。
「私はわからないことを構造的に理解したいタイプなので。子どもの言葉や行動についても、どういう心理で起きているのか知るために、AIに壁打ちしているんです」
AIは、公私を超えて関澤の挑戦を加速させている。
自分の“エネルギー源”を知ることが、最初の一歩になる。
自分にとって未知のことでも「まず、やってみる」。そんな関澤の姿勢は、AIを使い始める以前から通底していた。
「関澤さんは、バッターボックスに立つ回数がすごく多いよねって言われたことがあるんです」
失敗しない方法を探してから動くのではなく、トライアンドエラーを繰り返しながら自分なりのやり方を見つけていく。知らない土地での新しい仕事も、未知だったエンタープライズセールスの仕事も、関澤にとっては「まず、やってみる」の一環だった。
なぜ関澤は未知のことを恐れず、常に新しい一歩を踏み出しつづけることができるのか。そんな問いに、彼女はこう答える。
「メンターを世の中に広めることはもちろん、身近な人に自分の経験をシェアすることで、誰かが元気になったり、ポジティブに変化していったりする姿が私自身のエネルギー源になるんです」

不安や失敗があっても、その先にある「人の変化」を見たいという思いが、関澤を突き動かしている。そんな関澤は、人生に悩む読者にこう語りかける。
「まずは 自分のエネルギー源を知り、それを糧に自ら動くことが大切です。自分が何に心を動かされるのかを知っている人は、迷った時にも自分で進む方向を決めて、一歩を踏み出せる。そうやって育てた自分の強みが、誰かにとっての『こんなふうになってみたい』『この人のように挑戦したい』と思える“パーツ”になっていくのだと思います」
バッターボックスに立ち続ける関澤の姿もまた、誰かが自分らしい一歩を踏み出すための“パーツモデル”になっていく。
※所属・肩書きは取材当時のものです。
影響を受けた本。
左から
『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』
『君たちはどう生きるか』
『ころんで学ぶ心理療法』
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