「結婚指輪です。結論ファーストで男性的な発言や行動をしがちな私に、寄り添うといった女性らしさを思い出させてくれる存在です」と大塚が語るお守りジュエリーは、ハリー・ウィンストンのエタニティリング。一度なくしてしまい、実は二代目だそう。
母の更年期をきっかけに起業を決意。HerLifeLab 大塚響子が目指す、多くの女性を救う未来。【女の生き方、働き方】
自らの感性を大切にしながら働き、暮らすことをとおして、より良い未来を築いていく──そんな女性たちが紡ぎ出す印象的な言葉とともに、さまざまな働き方と生き方の物語を紹介します。

更年期は、すべての女性に訪れるにもかかわらず、いまだ十分に理解されているとは言い難い。心身の不調を抱えながらも、適切なケアにたどり着けない人も少なくない。
そんな現状を変えるために、更年期女性向けオンライン診療サービス「Vivalle(ビバエル)」を展開するのが、HerLifeLabだ。更年期専門の看護師や助産師によるカウンセリングから医師の診察、処方、薬の配送までを一気通貫でサポートする。
共同創業者でありCOOを務める大塚響子は、ベンチャーキャピタルやスタートアップの世界でキャリアを築いてきた。しかし意外にも、「起業したいと思ったことはなかった」と振り返る。
彼女を突き動かしたのは、家族との会話のなかで感じた違和感だった。

スタートアップ企業でマネージャーとして働いていた頃、後にHerLifeLabをともに立ち上げることになるエリセーバ・オリガと出会う。オリガは自身の更年期の経験をもとに「女性に対する正しい医療とは何か」を調査・研究し、それを広める活動を続けていきたいと考えていた。
大塚はもともと女性のヘルスケアに関心があり、いつかはその分野に携わる仕事がしたいと思っていた。しかし更年期についてはあまり知見がなかったため、まず母に尋ねてみたという。
「『更年期ってあったの?』と聞いたら、『あったよ』って。 実はうつ病と診断されていたと話してくれて、とても驚きました。あの時は別人みたいだったよね、と母は言っていました」
母が苦しんでいた当時、自分はその変化に気づけなかった。なぜ誰も適切な支援に繋げられなかったのだろう。女性の人生の半ばで訪れる更年期によって、その人らしさまで失われてしまうような現実に、大塚は強い違和感を覚えた。

その経験が、大塚の問題意識を大きく変えていった。
「私の行動原理は、反骨心とか怒りみたいなものが強いんです。更年期を取り巻く現状を知った時も、『これはあまりにもおかしい』と思いました。このまま見過ごしたくなかったんですよね」
女性ヘルスケアという関心のある領域で、自身のキャリアも生かせる。そして社会的な意義だけでなく、持続可能な事業として成長させられる可能性もある。長い時間をかけて議論を重ねた末、大塚はオリガとともに起業という決断をした。
親が反対する道を選び続けた、“反骨精神の塊”だった頃。
大塚は自身を「反骨精神の塊だった」と振り返る。
自営業の父と専業主婦の母のもと、厳格な家庭で育った。地元・名古屋で過ごした学生時代は、親への反発心が常にあったという。
「反抗期がすごかったんです。親に、東京の大学に行ってどうするの?資格をとってそれを生かせる仕事に就いたら?とよく言われていて、そういう考え方と、何かに挑戦したいという自分の思いに大きなズレがあって。でもうまく表現できなくて、反抗ばかりしていました」
東京工業大学(現・東京科学大学)への進学を決めたのも、「親がいちばん反対した選択肢だったから」だった。
新卒で入社したNTTドコモでも、もっと挑戦したい、もっと成長したい、その向上心は変わらなかった。大企業ならではの安定よりも、自ら動き、成果を生み出すことに喜びを感じていた。
転職を考えたタイミングでシリコンバレー駐在の機会を得ると、スタートアップ投資や協業推進に携わることになる。
だが、それでも満足できなかった。

現地では積極的に現地の人たちとコミュニケーションをとり、YouTube配信にも挑戦した。登録者1,000人という目標を達成すると、迷いなく次へ進んだ。
常に次のステージを求め続ける。そのエネルギーが、後のキャリア、そして起業へ繋がっていく。
結婚と出産が、怒りを原動力にしていた私を変えた。
大塚の人生には、明確な目標設定がある。
仕事も、結婚も、子どもを持つことも。できるかぎり自ら計画を立て、その実現に向かって進んできた。
「何でもスケジュールを決めて、タスク化して進めたいタイプなんです」
シリコンバレー駐在中に、学生時代からの友人と結婚した。しかしながら、妊娠だけは計画通りには進まなかった。
不妊治療を経て授かったふたりの子ども。その経験は、彼女の価値観を大きく変えた。
「仕事でどんなに大変な出来事があっても、大好きな人の妻という人生、そして子どもたちの母親という人生がある。もうそれ以上のものはないので、何が起きても別に大したことじゃない。そう自己肯定できたことで、深く悩まなくなりました」
かつては反骨心や怒りが原動力だった。
しかし結婚し、母になったことで得られた自己肯定感と安心感が、大塚のエネルギーの質を少しずつ変えていったのかもしれない。
価値観が正反対の共同創業者と、何度もぶつかりながら。
そんな「悩みがほとんどない」と話す大塚でも、HerLifeLabを起業した当時を振り返り、頭を悩ませたことがあったという。共同経営者となるオリガとの関係だ。
「オリガとの関係性が最初は本当に大変でした。まったく意見が合わなかったんです」
社会主義時代のソ連出身(現ベラルーシ)のオリガは、医療は本来無料で提供されるべきものという価値観を持っていた。一方、大塚はスタートアップや投資の世界でキャリアを積み、事業の持続性や収益性を重視してきた。育った環境も、人生経験も、物事の捉え方も違うからこそ衝突は避けられなかった。

それでもふたりには共通する目標があった。更年期に苦しむ女性を支えたいという思いだ。
「ぶつかるたびに話し合いました。コーチングも一緒に受けましたし、お互いを理解する努力を続けました」
徹底的に対話を積み重ねたふたりの思いは、いまのHerLifeLabの強固な土台になっていった。
大塚には、仕事をするうえで大切にしている言葉がある。
「『Just say yes』です。オリガにはその姿勢を批判されるのですが」と笑いつつ、顧客から「こういうことはできますか」と相談を受けたとき、できません、と答えたくないという。
「たとえばオンライン診療を行う中でも、なぜそうしたいのか、その背景を聞くようにしています。そのうえで、私たちならこういう形でできます、と提案したいんです」
もちろん、その姿勢が自らを追い込むこともある。それでも、大塚は「できない」と言われると、むしろ方法を探したくなる。その性分は、幼い頃から変わらない。違うのは、そのエネルギーが、いまは目の前の女性たちのために向けられていることだ。
50万人の女性を救う。その目標だけは揺るがない。
HerLifeLabは今年で4年目を迎え、事業の軸となるオンライン診療サービス「ビバエル」は順調だ。
「治療を継続してくださる方が95%います。自費診療のため保険の3倍は費用がかかりますが、 それでも続けようと思っていただける。そんなサービスをつくることができて本当によかった。『人生が救われた』というコメントをいただくことも多いんです」
今年6月にはプレシリーズAラウンド*で総額1.3億円の資金調達も実現した。「時間もかかったし、大変でした。でも資金調達はやるべきことだから、どうクリアするかだけを考えました」と大塚は笑う。
*スタートアップの資金調達において、プロダクトの改善を重ね、本格的な市場展開に向けた「シリーズA」に向けた実績を積む段階。

そしてその視線は、未来へ向けられている。
「50万人の女性の人生を救うという目標があります。医療だけではなく、食事や運動、リトリートなども含めて、更年期女性のライフスタイル全体を支えていきたいんです」
かつて母の苦しみに気づけなかった娘はいま、多くの女性たちに寄り添っている。「おかしい」と感じた違和感を見過ごさず、行動に移してきた大塚響子。その反骨精神は、いまでは誰かの人生を支える力へと姿を変えた。
更年期によって可能性を閉ざされる女性を、ひとりでも減らしたい。その挑戦は、着実に、実を結び始めている。
お守りジュエリー。
マリッジリング
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- text: Kaoru Ueno(Routusworks)