南仏の穏やかな情景を纏うディオール パラダイス、フランシス・クルジャンが創香に込めた思い。

Beauty

クチュールと香水の密接な繋がりを表現する、ディオールのフレグランス コレクション「ラ コレクシオン プリヴェ」。クリスチャン・ディオールの歴史や価値、そして受け継がれる美的コードを現代に解釈した特別な香りのクリエイションを手がけるのは、ディオール パフューム クリエイション ディレクターのフランシス・クルジャンだ。彼はクリスチャン・ディオールの足跡を辿るように、探求への扉を開き、インスピレーションから香りの輪郭を描き出している。

フランシス・クルジャン|Francis Kurkdjian
ディオール パフューム クリエイション ディレクター。フランス・パリ生まれ。ヴェルサイユの香料国際高等学院を卒業。25歳で手がけた香水がベストセラーに。2001年、オーダーメイドのフレグランスアトリエをオープンし、メゾンやアーティストとのコラボレーションを展開。09年、自身のブランドを設立。21年より現職。

新作「ディオール パラダイス」は、クリスチャン・ディオールが過ごした南仏での日々にオマージュを捧げる香りだ。南仏グラース郊外に佇むラ コル ノワール城は、クリスチャン・ディオールにとって喧騒から離れて心を解き放つ“楽園”であり、創作の源泉でもあった。広大な庭園には、ジャスミンやセンティフォリアローズ、ラベンダー、オリーブ、葡萄など豊かな植物が育ち、とりわけ彼が愛したのが、冬の終わりに一斉に花開く何百本ものアーモンドの木々。その息を吞むような情景は、彼の記憶と感性に深く刻まれていたという。

ラ コレクシオン プリヴェ クリスチャン ディオール ディオール パラダイス 50ml ¥25,300、100ml ¥45,100、200ml ¥63,140(5/29発売)/パルファン・クリスチャン・ディオール

フランシス・クルジャンは「ディオール パラダイス」の創作にあたり、アーモンドに光を当てた。

「私が思い描いたのは、花々の開花、とりわけアーモンドの木が花を咲かせる瞬間を、いつも心待ちにしていたクリスチャン・ディオールの姿です。アーモンドの花には独特の香りがあり、その香りを通して“春の再生”のような感覚を表現したいと思いました。

そこに、柔らかなウッディノートのニュアンスを加えることで、白い花々の輝きや、光に包まれるような明るさを際立たせました。アーモンドの花が咲き誇る景色には、どこか日本の桜にも通じる美しさがあると思っています。実は今朝、日本人の友人が桜の写真を送ってくれたのですが、花が咲く瞬間を待ちわびる高揚感や、自然が見せる美しい光景に対して抱く感情は、日本の桜のスケールには及ばないものの、似たものを感じています。私は、そのエモーションをこの香りに込めたいと思いました」

クリスチャン・ディオールが愛した庭園と、そこに流れていた穏やかな時間を、香りというかたちで描き出した。この香りを創作するきっかけは、クリスチャン・ディオールの物語なのか、あるいは自身が城を訪れて出合った何かなのか……を尋ねた。

「香りのアイデアは、何かひとつの出来事から突然生まれるものではありません。さまざまな記憶や感情、願望、そして断片的なインスピレーションが幾重にも重なり合い、ひとつの世界観へと集約されていくのです。『ディオール パラダイス』において私が目指したのは、南仏の土地そのものへのオマージュでした。クリスチャン・ディオールが愛したラ コル ノワール城や、その庭園に息づく自然の記憶。その場所に残された空気や風景の中から、香りを構築するための“手がかり”を探していったのです。彼が特別な愛着を抱いていたアーモンドの花や、その柔らかな香り……そうした要素をひとつひとつ書き留め、最終的に“こういう香りを創りたい”という気持ちに繋がっていきました。表現したかったのは、陽光に満ちた季節の訪れを告げるような光り輝くフレグランス。自然が見せる儚くも美しい瞬間、その一瞬の輝きを祝福するような香りです」

主役となるのは、甘くほろ苦いビターアーモンド。そこにマンダリンやオレンジ、ライムといった陽光を感じさせるシトラスが重なり、まるでアーモンドビスケットを思わせる、どこか幸福感に満ちた香りへと昇華する。さらにラストには、ローストしたトンカビーンの温もりが重なり、柔らかな余韻を残す。

「アーモンドは、この香りを創作するうえで、もっとも早い段階から核となっていた素材でした。クリスチャン・ディオールが、自身の庭園に植えられたアーモンドの木々を深く愛していたことはよく知られていますし、1950~60年代当時、アーモンドの香り自体、とても親しまれていた存在でした。だからこそ、まずはそのアーモンドの香りを起点に香りの構成を少しずつ組み立てていきました。何週間もかけて、新たな香料を加えたり、時には削ぎ落としたり。香り同士のバランスを探りながら、徐々に理想の輪郭を描いていきました。こうしたプロセスは、このフレグランスに限らず、あらゆる香水創作に共通しています」

「ディオール パラダイス」の香りの核となったアーモンドの花。日本の桜にも似て、春の美しい情景を描き出す。

「ラ コレクシオン プリヴェ」のようなクチュール的な香りから、「ミス ディオール」のようなアイコニックなフローラル、「ソヴァージュ」のような力強いメンズフレグランスまで――次々と話題作を生み出すクルジャン。香りの創作において苦労することとは?

「クチュールフレグランスであってもメンズフレグランスであっても、創作の方法論やプロセスに本質的な違いはありません。違いを生むのは“その香りが持つストーリー”です。香水づくりにおいて、もっとも時間と労力を要するのは、“良いアイデア”を見つけることです。実際の調香そのものよりも、そのほうが難しいことも多いのです。幸いにも、技術的な部分に関しては、長年この仕事を続けてきた経験とノウハウがあります。しかし、“どんな香りを生み出すべきか”という根本のアイデアだけは、いまでも簡単には掴めません。けれど、核となるアイデアが本当に力を持っていれば、結果としていい香りが完成します。その逆で、技術だけではいいものはできないのです。クリエイションの難しさについてよく聞かれますが、私は必ずしも苦しみや葛藤の中から生まれるものだとは思いません。もちろん創作には難しさもありますが、軽やかな幸せな気持ちで楽しみながら向き合っています」

クリスチャン・ディオールに多大なるインスピレーションを与えたラ コル ノワール城が、クルジャンにもまた香り創りへのストーリーを授ける。

クルジャンが「ディオール パラダイス」で描いたのは、クリスチャン・ディオールの物語に彼なりの“新たな解釈”を投影して生まれた香りといえる。

「私はこの4〜5年を通して、クリスチャン・ディオールという人物像を少しずつ深く理解してきたように思います。そして今回、これまでとは少し違い、プルースト的に“ムッシュ ディオール”を解釈し、表現しようと思いました。彼は単にノスタルジーに浸る人ではなく、その感情と戦いながら、クチュールやドレスの創造、そして彼が心から愛した家や庭園づくりへと昇華していったのです。実際、彼自身も著書の中で、幼少期を過ごした庭園の美しさについて語っています。そして南仏のラ コル ノワール城を、“失われた幼少期の楽園”を再び取り戻す場所にしたいと願っていたのです。私にとって『ディオール パラダイス』は、そうした彼の記憶や感情、そして創造への情熱に寄り添いながら生まれた香りなのです」

自然の情景や記憶から、希望や活力を引き出すフレグランス。春の訪れを告げる最初の陽光のようにアーモンドやシトラスがやさしく肌を包み込む、幸福の記憶を呼び覚ます香りの旅へ、ぜひ。

問い合わせ先

パルファン・クリスチャン・ディオール
03-3239-0618
https://www.dior.com/

  • photography: ©Parfum Christian Dior
  • interview & text: Naho Sasaki