ゴダールの『勝手にしやがれ』はこうして生まれた——。映画『ヌーヴェルヴァーグ』、ヒロインにインタビュー。
ゾーイ・ドゥイッチ/俳優

Zoey Deutch/ゾーイ・ドゥイッチ
俳優
1994年、アメリカ合衆国・ロサンゼルス生まれ。幼い頃から演技とダンスを学び、ロサンゼルス郡芸術高等学校で演劇を専攻。ディズニー・チャンネルのドラマなどに出演した後、映画に進出。出演作に『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(2017年)など。
セバーグが『勝手にしやがれ』に見いだした光を、映画に残したかった。
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995年)や『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年)で知られる映画監督リチャード・リンクレイターの最新作『ヌーヴェルヴァーグ』は、ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(1960年)誕生を描いた愛すべき作品だ。同映画のヒロインであるジーン・セバーグを演じたゾーイ・ドゥイッチは、映画監督ハワード・ドゥイッチを父に、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのリー・トンプソンを母に持ち、クリント・イーストウッドの『陪審員2番』(2024年)などで存在感を発揮してきた。
「リック(リンクレイター監督)はこの企画を15年間温め続け、彼の『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016年)の撮影中、『いつかゴダールについての映画を作りたい。その時には君にセバーグを演じてほしい』と言ってくれたんです。実現することを願い続け、可能性が見えてきた撮影の2年前からフランス語の勉強を始めました」
フランソワーズ・サガン原作の映画『悲しみよこんにちは』(1958年)でセシルカットのヒロインを演じ、時のスターとなったジーン・セバーグ。だが当初は、気難しい新人監督との仕事にそれほど乗り気ではなかったという。それでも白Tシャツに黒のカプリパンツ姿でシャンゼリゼ大通りを歩く姿は、ボーイッシュな魅力と都会的な愛らしさを放ち、時代のアイコンとなった。映画の中のドゥイッチは、そんなセバーグの瑞々しい魅力と複雑な内面を体現してみせた。
「言語やアクセントを身に付けること、髪を短く切ることは、パトリシアという人物を自分の中に取り込むうえで大きな助けになりました。もちろん衣装の力もそうだし、映画を何度も観返してリサーチを重ねました。でも、何より助けになったのは、驚くほど完璧に再現されたセットの中に身を置けたこと。さらに『勝手にしやがれ』が撮影されたパリの通りをはじめとするロケ場所で演じることができたことは本当に特別な体験でした」
『勝手にしやがれ』の成功により、セバーグはヌーヴェルヴァーグのミューズとなった。しかし、その後の政治の季節は彼女に悲劇的な晩年をもたらした。
「セバーグの人生は確かに悲劇的で、とても辛い結末となりましたが、リックと私は彼女の人生の特定の瞬間を描くことに集中しました。まだ物語の序盤を読んでいるのに、終盤の内容を明かしてしまう見せ方はしたくなかったから。それに『勝手にしやがれ』の頃の彼女には、喜びや好奇心、そして未来への希望がありました。ゴダールの演出手法に懐疑的になったり、苛立ちを覚えたりすることはあっても、彼女の中には確かに光が宿っていた。私はその輝きを、この映画の中に残したいと思ったのです」

ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』製作の舞台裏を映画化。シネマの歴史に革命を起こしたヌーヴェルヴァーグの若きシネアストたちの自由と革新に満ちた現場を愛情込めて描く。●『ヌーヴェルヴァーグ』は7月10日より新宿ピカデリーほかにて公開中。
- photography: REX / Aflo text: Reiko Kubo
*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋