びっくり愉快なアレクサンダー・カルダーのサーカスを目指して、フォンダシオン・ルイ・ヴィトンへ。

Paris

8月16日までと終わりが近づいてきた、フォンダシオン・ルイ・ヴィトンの『Calder. Rêver en équilibre(カルダー 均衡のなかで夢見る)』展。全館を使って、アレクサンダー・カルダー(1898~1976年)の絵画、オブジェ、彫刻、写真など317点の作品を展示している。中にはパブロ・ピカソやパウル・クレーなどの作品も少し含まれているけれど、カルダーの作品がこれほど多数まとめて展示されているのは珍しい。その中でも、日頃目にすることの少ない作品をここで紹介してみよう。

左:エントランスホールにモビールを展示。 右:建物の外の庭にもカルダーの作品が展示されているので見逃さぬよう。photography: Mariko Omura
この会場では、カルダーの作品との対話としてアンジュラン・プレルジョカージュの『Gravité』の抜粋が6月上旬に踊られた。photography: Mariko Omura

アメリカのフィラデルフィアに生まれ、アートスクールを卒業した彼はイラストレーションの仕事を2年続けた後、1926年7月にパリにやってくる。この大規模な回顧展はその100周年を記念してのものだ。カルダーの仕事というと、彫刻作品に動きを取り入れたモビールを思い浮かべる人が多いだろう。この展覧会でももちろんモビールを多数みられるが、地下の会場(ギャラリー1~3)ではアブストラクトに向かう以前の彼の作品を展示している。そのメインは1926年に始め、“もう、うんざり!”となるまでの5年間に彼が取り組んだミニチュアのサーカスだ。1920年代のパリは藤田嗣治やフェルナン・レジェもそのテーマの作品を残しているように、サーカスブームだった。カルダーはパリで木、針金、廃材を利用して、機械仕掛けのミニチュア・サーカス団を製作。それらを動かしてサーカスのパフォーマンスを彼は無料で一般公開。2~3時間続く長いもので、音楽は妻が担当し、幕間にはピーナッツも配って……。パリだけでなくトラックで移動して、地方の住民にも見せていたそうだ。アーティスト仲間はサーカスを見るだけでなく、イサム・ノグチのように時に蓄音機を回して参加するアーティストもいた。現在、カルダー・サーカスはホイットニー・ミュージアムが所蔵していて、動物とキャラクターが69体、ランプや敷物などの小動具が90点、機械システムが8点、音響効果のためのエレメント、楽器、レコード、それに輸送用のスーツケースが5個という内容だ。フォンダシオン・ルイ・ヴィトンでのこの展示以降はホイットニー美術館から門外不出となるらしい。つまり今回が外部で鑑賞できるラストチャンスである。

アレクサンダー・カルダー作『Circus Scene』(1926年)。photography: Mariko Omura
カルダーが手作りしたサーカスの様々なシーンが会場に展示されていて、その魅力を堪能するには時間がいくらあっても足りない。photography: Mariko Omura
1961年、当時63歳のカルダーが空中ブランコを始め、再びサーカスを動かす映像がCarlos Vilardeboによって撮影された。会場ではこの約30分の映像で、カルダー・サーカスがたっぷりと楽しめる。photography: Mariko Omura

地下の会場では、彼が20年台半ばにサーカスと並行して手がけていた針金の彫刻も展示している。彼はこれを三次元のデッサンと表現していて、その最初の作品はジョゼフィン・ベーカーを描いたものだ。当時暮らしていたモンパルナスで、彼は「ワイヤーキング」という異名をとっていて、曲芸師やアスリートなどをテーマに制作。針金という素材によるアート作品は画期的で、批評家たちはこうした彼の作品を前に戸惑いを隠せなかったという。

左:ブラスワイヤーによる『Joséphine Baker IV』(1928年ごろ)。 右:『The Brass Family』(1929年) photography: Mariko Omura
地下会場ではカルダーによる動物をテーマにしたチャーミングな作品も展示している。左は、彼が11歳の時にブラスシートをカットして製作し、両親にクリスマスプレゼントした犬と鴨。右は、1925年のアニマル・スケッチより。photography: Mariko Omura

地上階から上、ギャラリー4からは1934年以降の作品の展示だ。多くはモビールで、途中、ギャラリー6の「ブロンズ」と題した部屋の一角では“身につけられる彫刻”と題して、カルダーが製作したジュエリーの数々を展示。彼は1906年、妹の人形のために初めてジュエリーを手がけている。1920年代後半からは真鍮の線に時に陶器やガラスを宝石がわりにして製作。その後数十年間の間には銀や金を使うこともあった。イヤリング、ベルト、ネックレス……妻を始め、ペギー・グッゲンハイムやシャルロット・ペリアンなど知人のためにもジュエリーを制作した。最後のギャラリー11では、亡くなる2年前の1974年に具象に戻った作品を展示している。モビールばかりではなくサーカスも含め、“均衡”を追求したカルダーの幅広い仕事を発見できる展覧会だ。

1940年代に制作されたブラスワイヤー製のネックレス。どちらもニューヨークのCalder Foundationの所蔵品だ。photography: Mariko Omura
廃材を使用したジュエリーはどれも一点もの。幾何学的フォルムや自然のネルギーを表現したジュエリーのインスピレーション源となったのは、オセアニア、コロンブス以前の時代やアフリカの美術品だ。photography: Mariko Omura
1974年の『Crags & Critters』。photography: Mariko Omura

『Calder. Rêver en équilibre』展
開催中~8月16日
Fondation Louis Vuitton
8, avenue de Mahatma Gandhi
Bois de Boulogne 75116 Paris
開)11:00〜20:00(月、水、木)、11:00〜21:00(金、第一金曜〜23:00)、10:00〜20:00(土、日)
休)火
料)18ユーロ
https://www.fondationlouisvuitton.fr/en
@fondationlv
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大村 真理子

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター

東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。2006年から「フィガロジャポン」パリ支局長を務めた後、フリーエディター活動を再開。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。