白T&デニムに効く「究極のウォッチ」を探して。一生ものを徹底トーク!
腕時計探しとは、広大で深い海で宝物を求め続けるような途方もない作業。「人生の節目に」「頑張ったご褒美に」と足を踏み入れれば、待っているのは膨大な情報と暗号のように並ぶカタカナ。知るほどに惹かれ、惹かれるほどに迷うーーそれもまた、時計選びの醍醐味ではあるけれど。
今回、迷える3人が手にした羅針盤は「Tシャツ&デニムですら格上げする絶対的なピースは?」という問い。究極にシンプルなスタイルにはどんな時計が決定版となるのか? 徹底的に語る。

【スタイリスト】MASAMI TANAKA
ハンサムと大人のフェミニンの程よいバランスを得意とするスタイリスト。フィガロジャポンで長年ウォッチ&ジュエリーの新作記事に携わっており、造詣が深い。長く愛されるベーシックなデザインが好きで、自身の愛用ウォッチは「タンク ルイ カルティエ」。
【若手エディター】IZUMI
今年32歳。「若手」と呼ぶには少々無理が出てきたものの、本人はまだその肩書に縋っている。厄年を迎え、厄払いの一環として時計の購入を検討中。時計については、「定番モデルなら知っている」程度の完全なる初心者。骨格は自己診断でナチュラル。骨張って肉厚な手元に、運命の、そして一生の一本は見つかるのか(懐事情は無視)。
【エディター・時計担当】TERUMI
ファッションとカルチャーを中心に編集者歴25年。ウォッチ&ジュエリーを担当するも、マイウォッチ選びは彷徨っている状態。ドレスウォッチも気になれば、メンズライクな大きめフェイスも好き。大きな買い物だからこそ失敗したくない……もう誰か自分に似合うものを指定してくれ、と内心思っている。
レザーストラップとクラシカルな文字盤が醸し出す魅力とは?
エディター・時計担当TERUMI(以下、T):さてさて、今回探し出したいのは「Tシャツとデニムスタイルも格が上がるウォッチ」。ウォッチは毎日つけるものでもあり、一生ものにもなる特別なアイテムだと思うんです。価格だって決して気軽なものではないからこそ、自分好みで納得できるものを吟味したい、せねば、ですよね。
私はもう長いこと「自分がつけるなら何?」と決断できずにいるのですが、一生ものを見つけるならどんなタイプが良いですかね?
スタイリストMASAMI(以下、M):もちろん、好みや自分がどんなスタイルなのかによるけれど、ひとつはメゾンが長い歴史を重ねてきたタイムレスなコレクションは、間違いないんじゃないですかね。なかでも、クラシカルで知的なムードが漂うのは、端正なケースとレザーストラップを備えたタイプ。私も相棒には「タンク ルイ カルティエ」を選びました。
若手エディターIZUMI(以下、I):まさに、Tシャツとデニムのようなど定番スタイルを引き締めてくれる、圧倒的な安心感と品がありますよね。
M:歴史を重ねてきているのにブレず、これから先もその存在感は変わらない。受け継いできたデザインだから、まさに一生もの。服装を選ばないし、あまり考えずに着けても着こなしを律してくれるんですよね。
T:余白のある文字盤やレザーストラップは、ウォッチ自体が大きな声で主張するというより、装いの輪郭をきゅっと整えてくれるんだよね。ありがたい!
M:Tシャツが少しくたびれていても、レザーのウォッチをひとつ着けると、「だらしない」から「こなれている」へ、何段階も進化させてくれる。
I:それは、奇跡の所業! すこぶる助かります(笑)。余裕のないときこそ、ウォッチに身だしなみの最終調整をお願いしたい……。
【01】カルティエ「タンク」は、時計ではなくスタイルそのもの
T:タイムレスなウォッチの代表格といえば、カルティエの「タンク」! ということで、「タンク」はこれまでもたくさんモデルを輩出してきましたが、展示会で見て気になっていたのはこのプラチナケースに深いボルドーカラーのストラップを合わせた新作。
I:おお、フェイスもレザーも意外と大きくて存在感たっぷり。ボルドーのベルトとなると、クラシックというより、華やかな印象ですね。
M:でも、ケースが端正だから成立するんだと思う。すごく真面目な白シャツに、赤いリップを合わせるような感じ。キャワ。

T:そう、格好いいのにキャワなのです(笑)。「タンク」は、直線的なケースと、その両脇を縦に走るブランカードが特徴的で素敵なんですよね。腕時計の中でも、とても建築的なデザインでため息が漏れちゃう。誕生から一世紀以上、時代ごとの解釈を受け入れながらも、核となる形は変わっていない。
I:レクタングルのケースがストイックというか、甘さがないところもまた良い。
M:もう、ウォッチというよりスタイルとして浸透しているんだと思う。白Tとデニムに合わせるなら、ボルドーのストラップを唯一の色にしたいなぁ。バッグや靴まで赤系にせず、色は手元にだけ残す。
I:時計をきっかけに会話も始まりそうです。「その赤、素敵ですね」みたいな。「『タンク』お持ちなんですね」とかも。一目でわかるから。
M:そして、このルビーカボション……。控えめなのに、あまりにも特別。欲しい!(大声)
I:突然の大声! 分かる!(大声)
T:欲望が漏れで過ぎている! 落ち着け!(大声)。

◆知っておきたい時計ワード
【ブランカード】 ダイアル(文字盤)の両脇を縦に走る、ケースの帯状パーツ。「タンク」の名称は、この構造が戦車を上から見た姿を想起させることに由来する。
【カボション】 宝石をドーム状になめらかに磨き上げるカット。ファセットと呼ばれる平らな面を付けず、石の色や艶を柔らかく引き出す。
【プラチナ950/1000】 素材の純度を示す表記。全体の1000分の950がプラチナで、残りが強度などを補う他の金属で構成されていることを意味する。
【02】エルメス「ケープコッド」は、優等生の顔をした自由人
M:続いておすすめしたいのは、「ケープコッド」。エルメスといえばこの時計、的なイメージを持っている方も多いかも? ステンレススティールのケースにシルバー文字盤、バレニアカーフスキンのベルトをぐるっと二重にまけるストラップを合わせたモデルです。
I:ベルトもフェイスも、ザッツ・エルメスな感じですね。んで、長方形の中に正方形が入っているような、不思議なケース。
T:真面目そうに見えるのに、普通ではない。そこがエルメスらしいよね。インデックスのフォントもとっても素敵……はぁ(ため息)。

T:ケースの形は、メゾンを象徴するシェーヌ・ダンクルのリンクを半分に切り、向かい合わせたデザインから生まれたものなんです。
I:着想源だけ聞くと、かなり大胆ですよね。鎖を切って、時計のケースにする。
M:それなのに、こうも端正。だから白Tとデニムにも、さりげなく物語を足してくれるんだと思う。パッと見はベーシックだけど、ひねりがある。
I:シンプルな服でも、“初期装備のまま来ました”感が出ないですね。
M:そうそう! 課金というより、本人のセンスでレベルを上げている感じ(笑)。
T:知的には見せたい。でも、堅苦しい時計は苦手。ベーシックの中に少しだけユーモアが欲しい人に向く一本ですね。
I:基本優等生だけど、先生の見ていないところでは少しふざけていそう、グッドバッドボーイな感じ。
M:そのくらいが、付き合っていて楽しいよね。私はそういう人が好き……。

◆知っておきたい時計ワード
【バレニアカーフスキン】 エルメスが用いる仔牛革のひとつ。きめが細かく、しなやかで柔らかな質感が特徴。
【ダブルトゥール】 長いストラップを手首に二重に巻く仕様。腕時計でありながら、レザーブレスレットのような印象も楽しめる。
【クオーツ】 水晶振動子の振動を利用して時を刻む方式。電池で動き、精度が高く価格も比較的手が届きやすい。
【03】ブレゲは、声を張らずにすべてを語る
T:こういう人と仲良くしたい!の流れで、私がそう感じていたのは、ブレゲの「クラシック5177」。18Kローズゴールドのケースに、「グラン・フー」エナメルの白い文字盤を組み合わせた一本です。かっこいい……(惚れ惚れ)。仲良く、というか、いくつになっても自分がこういう人でありたい。
I:(HPを見ながら)写真だとかなり大きく見えますね。ケースは何ミリですか?
T:直径38mmで、厚さ8.8mm。正統派の丸形時計としてはしっかり存在感があるサイズ。けれど、佇まいはあくまで上品で削ぎ落としている。
M:上品ゆえに、一線をひくようなオーラもあるよね。敬語で話さなきゃ、みたいな(笑)。

T:こちら、ケースの側面には、「コインエッジ」と呼ばれる細かな溝が刻まれているんです。裏蓋はサファイアクリスタルで、ムーブメントを構成する237個の部品を眺めることができる。
M:サイズ自体は大きいけれど、ミニマルな美しさが際立つ。休日には美術館へ行って、その後に静かな店でお茶を嗜んでいそう。
I:悪口も言わなそうです。
M:言ったとしても、語彙とタイミングを選ぶタイプ。
T:そうなの、そういう人が好き、私……。んま、そういう妄想トークは置いておいて、追加情報です。ムーブメントは自動巻きのキャリバー777Q。パワーリザーブは55時間で、ヒゲゼンマイにはシリコン素材を採用とのこと。伝統的な外見の中に、現代の時計製造技術がきちんと組み込まれてる。
M:ローズゴールドとアリゲーターストラップの柔らかい色味のおかげで、肌とレザーの色が柔らかくつながりそう。白Tとデニムに爽やかに馴染んで、時計だけを浮かせるのではなく、全身を穏やかなグラデーションにしてくれる感じ。
T:個性を主張しなくても、佇まいで人を惹きつけられる。そんな人に似合う時計ですね。
I:不満があっても、「ひとつだけ気になったことがあって」と美しく切り出せる人。
M:まだ言ってる……、でもその妄想、分かる(笑)。
◆知っておきたい時計ワード
【コインエッジ】 ケース側面に細かな縦溝を刻む装飾。古い硬貨の縁を思わせることから、この名で呼ばれる。
【グラン・フー エナメル】 「大火」を意味するフランス語由来の伝統技法。釉薬を塗って窯で焼き上げる工程を何度も繰り返してつくる文字盤仕上げ。
【キャリバー】 時計のムーブメント(内部機構)ひとつひとつに与えられた型式名・型番のこと。
【パワーリザーブ】 ゼンマイを巻き終えてから、時計が動き続けられる時間の長さ。「55時間」ならフルに巻いて55時間は着けなくても動く。
【ヒゲゼンマイ】 時計の心臓部にあたる、極細のバネ状パーツ。振動の周期を一定に保ち、精度を左右する重要な部品。
【04】パテック フィリップに求めるのは、静寂な存在感
M:私が永遠に夢見ているのは、パテック フィリップの「カラトラバ Ref.6119R」。ローズゴールドケースに、色みを抑えたアリゲーターストラップを合わせたモデル。
I:私も見たい!出したい!付けたい!とほんのり駄々をこねたモデルです(笑)。パテック フィリップと聞いた瞬間、背筋が伸びます(背筋シャキーン)。
M:分かる。でもこれで漂うのは「すごい時計を着けています」という華やかさではなく、ひたすら純度の高い品格だよね。凄みがある。

T:「カラトラバ」は、丸いケースとレザーストラップが穏やかにつながる、ドレスウォッチの原型とも呼びたくなる佇まい……。このモデルは、ベゼルに細かな「ホブネイル・パターン」を施して、シンプルな中に繊細な陰影をつくっています。
I:パッと見は静かなのに、近づくと情報が増えて来ますね。
T:パテック フィリップの魅力は、長〜い歴史や高度な技術だけじゃなくて、時計を世代を超えて受け継いでいくという考え方にもありますな。
I:「一生もの」って言われるとだいぶ構えるけれど、「何年後も自分のスタイルに似合う」と考えると、想像しやすくなりますね。
M:Tシャツとデニムは、10年後も20年後も着ている可能性があるもんね。その隣にずっといて欲しい、まさに相棒みたいな時計。
I:年齢を重ねた手元にも似合いそうです。
M:うん。節立って血管が少し目立つようになった貫禄のある腕にすごく似合うと思う。とても上品なのに、少し近寄りがたい重厚感もある。
I:私の手元も、将来こんな時計が似合うようになっていたら素敵です。
M:その頃までに、まず中身の貫禄を育てないとね。
I:(聞こえないよ⭐︎)
◆知っておきたい時計ワード
【手巻き】 リューズを手で回してゼンマイを巻き上げる方式。自動巻きのように腕の動きでは巻かれないため、日々の「巻く」所作も楽しみになる。
【オビュ型アワーマーカー】 「オビュ(弾丸・砲弾)」の名の通り、先端が丸くふくらんだ形の時字(インデックス)。カラトラバの伝統的な意匠のひとつ。
【ホブネイル・パターン】 ベゼル(文字盤を囲む枠)に施される、小さな突起が並ぶ格子状の彫り模様。「靴底の鉄鋲」に見立てて名付けられた。別名、クルー・ド・パリ(パリの石畳)とも呼ばれる。
タイムレスは「無難」ではなく、研ぎ澄まされた個性の頂点
I:タイムレスウォッチは、何にでも合うから総じて初心者向け、という理解でいいのでしょうか?
M:初心者にもいいけれど、服をたくさん着てきた人にもいいと思う。結局、毎日使えるものがいちばん強いから。レザーストラップなことで上品で女性的なムードがそこはかとなく漂う。
T:流行を避けた“無難な一本”ではなくて、長い歴史の中で形が磨かれ、さまざまな装いに耐えてきたデザイン。その蓄積が、選びやすさにつながっているんだよね。
I:毎朝の判断を、ひとつ減らしてくれそう。
M:でも、ストラップの色やケース素材を変えれば、その人らしさもきちんと出せる。完成されているからといって、個性を消してしまうわけではないからね。
T:むしろ、着ける人の服や生き方を受け止める余白があるね。最初の一本としても、何本か時計を持った後に戻ってくる一本としても、頼れる存在!
I:何も考えずに着けられるのに、何も考えていない人には見えない。
M:それ、今日の結論でいいんじゃない?
次回「Tシャツ&デニムに合わせたい時計——大きめフェイス編」へと続く。
エルメスジャポン
03-3569-3640
https://www.hermes.com/jp/ja/
カルティエ カスタマー サービスセンター
0120-1847-00(フリーダイヤル)
https://www.cartier.com/ja-jp
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
03-3255-8109
https://www.patek.com/ja
ブレゲ ブティック銀座
03-6254-7211
https://www.breguet.com/ja
- photography: Miki Takahira
- text: Izumi Akamatsu