話題作が目白押しな2026年秋、映画館で観たい3選!
実りの秋は、心を豊かにする物語に浸りたい季節。鶏の視線から人間社会を映し出す『雌鶏』、創作と再生の時間を静かに描く『ナギダイアリー』、そして古代神話の世界を壮大なスケールで蘇らせた『オデュッセイア』。それぞれ異なる表現で想像力を刺激する、芸術の秋にぴったりな3本をご紹介。
01.『雌鶏』

逃亡する鶏の目が映す人間界の悲喜こもごも。
主人公は1羽のメンドリ。黄色いヒヨコたちの中で黒毛が目立つ彼女は、出荷されるご難寸前に逃亡、未知の世界へ旅立つ。アンデルセンの童話『みにくいアヒルの子』を連想させる設定だが、ハンガリーの鬼才はあくまでリアルな実写表現を追求。走攻守と各々得意分野の違う8羽が名トレーナーのもとで試技し、緻密な編集技術によってそれが一役に束ねられる。流転の末、彼女は田舎町でオンドリと一期一会の出会いを果たす。けれど産んだ卵を育てようとする矢先、鶏小屋の主の爺さんに毎朝採っていかれちゃう。人の世に関わると、こっぴどい目に合うばかり。なのに涼しげでへこたれない鶏の目線を通すと、人間の残酷さも不思議な滑稽味を帯びてくる。クセになるおもしろさだ。
『雌鶏』
●監督・共同脚本/パールフィ・ジョルジ
●2025年、ギリシャ・ドイツ・ハンガリー映画
●96分 ●配給/ハーク
●9月25日より、シネマート新宿ほか全国にて順次公開
https://hark3.com/mendori/
02.『ナギダイアリー』

凪いだ日常、時の静まりが告知する創作の日誌。
松たか子演じる彫刻家の寄子は、弟の元妻である友梨を木彫のモデルとして招く。石橋静河演じる建築家の友梨は、しばしの休暇をとって山裾の町「ナギ」を訪れる。寄子が生まれ育った場で地元産の銘木にノミを振るう、その一彫りごとに旧居を改造したらしい工房の気が張りつめる。以前の想い人の霊がその覇気に打たれ、目覚めの挨拶を送ることも。人生の喪失感をも愛しく抱きとめる。そんな態度がここでの創作の原動力だと、観ていて胸を突かれる。大都市での折衝に消耗していた友梨の渇きも潤う。平田オリザの代表的戯曲『東京ノート』に触発され、縁の深い深田晃司が構想を新たに仕上げた、原点回帰にして新境地の意欲作。叙景詩のように撮られた町の佇まいもやわらぎがある。
『ナギダイアリー』
●監督・脚本/深田晃司
●2026年、日本・フランス・シンガポール・フィリピン映画
●110分 ●配給/スターサンズ
●9月25日より、新宿ピカデリーほか全国にて順次公開
https://starsands.com/nagidiary/
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『ナギダイアリー』はじめ、カンヌ国際映画祭で注目された日本作品。
03.『オデュッセイア』

写実と創意を極め、古代神話世界が現代に蘇る。
特撮映画の先駆『アルゴ探検隊の大冒険』(1963年)の海の怪物退治や岩礁の航海など、このギリシャの神話的叙事詩は名高い逸話を抽出し映画化されてきた。放浪・冒険譚の元祖。イタケ島の王オデュッセウスの漂泊の旅に、帰らぬ父を探す王子の成長物語を並行させたホメロスのプロットを生かし、その全容がスクリーンに召喚される。帆船や宮殿や「トロイの木馬」のセット美術も圧倒的。マット・デイモン好演のオデュッセウスはトロイア戦争に勝つも無数の民を犠牲にし、文明の落日を招く。その後遺症が旅の試練と相まって智将を苛む迫真性が凄い。世界が岐路に立ついま、これを撮らねばという巨匠の気魄がこもる。王子と妃のもとに王が帰還する終局は、名シーン揃いで落涙必至!
『オデュッセイア』
●監督・脚本/クリストファー・ノーラン
●2026年、アメリカ映画 ●172分
●配給/ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
●TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開中
https://odyssey-film.jp/
- text: Takashi Goto
- edit: フィガロジャポン編集部