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MAX MARA
私が私である理由 with マックスマーラ vol.6 チェリスト、河内ユイコ「自分を手放したときに、自由な音が生まれた」。
ピアニストの母の影響で音楽に触れ、チェロを手にしてから約30年。大いなる努力で磨かれたそのたぐいまれなる才能は、いま、実に伸び伸びと自由に音を奏でている。時にはファッションブランドと組んでインスタレーションや楽曲制作を行い、時には映画音楽に携わり……と、彼女の人生とクリエイティビティにとってかけがえのないチェロという存在は、最強の武器であると同時に、枷となっていた時期があったのだそう。その枷にどう抗うか。それこそが、チェリスト河内ユイコが向き合ってきたテーマだ。
河内ユイコを紐解く3つのこと
「チェロがあるからこそ、自由になれた」
時代やジャンルといった音楽の境界線を取り払い、純粋に音楽の楽しさ・素晴らしさを届けようと、さまざまなチャレンジを行っているチェリストの河内ユイコ。その表現、そして自分自身の根底にあるのは、「正直であること」だと話す。
「嘘をつかず、直感に従って正直でいることが、常に念頭にあります」。物事は、一方向から決めつけず、あらゆる角度から見つめ直す。自分自身についても、「私はこういう人間だ」と簡単には定義しない。
「ある時から、『自分って何だろう』と考えるのをやめたんです。『私はこういう人』と決めたり『こうでありたい』としてしまうと、その時点でそれを演じてしまう。そして、何かを演じようとすればするほど、どんどん重たい鎧を身につけているような感じになる。自分を守っているようで、実は自分の足取りをどんどん重くして、本当に動きたいときには動けなくなる。いちばん自分らしくいられるのって、こうやって『自分』というものを手放したときなんじゃないかと思うんです」。この言葉は、そのまま彼女のチェロとの歩みにも重なる。

気負わず、焦らず、
自我を手放すことで
心からの演奏が届けられる
チェロを選んだのは、オランダに住んでいた9歳のときのこと。母がピアニストだったことをきっかけに音楽の道へ進むなかで、いつしかチェロは自分の軸になっていった。
「ある時まで、『自分にはチェロしかないのでは』という、少しすがるようなものになっていた時期がありました。もちろん、自分とチェロは切り離せないものではありますが、それ以上に『これがないと私は私でいられない』というくらい、自分の中心になっていたんです」
そんな彼女に転機が訪れた。あるとき、一度チェロを弾くことから離れるという、思い切った決断をしたのだ。
「このまま続けていても、私はどこにも向かえない。楽器を弾いていて幸せな未来が想像できなくなったんです。だったら、いまは弾かなくてもいいかと思って、弾かなかった時期がありました」
ところが、離れてみると、失うどころか新しい発見があった。
「弾かなかったら弾かなかった分だけ弾けなくなると思いきや、その間に自分がどんな生活を送って、どんなことを感じたかということが演奏に生きてきた。離れた分だけ、何か別の豊かさが戻ってきたんです」

かつては、4本の弦をもつこの相棒を使って、何か大きなことをしなければならないと思っていた。それがいまでは、自分を縛るものから、自由にしてくれるものへと変わった。
「チェロで何かを成し遂げないといけないと思っていたんです。明確な目標がなくても、『このチェロという私の武器を使って、何かすごいことをやらないと“ならない”』と思っていた。その気負いというか、思い込みを手放したらいまは、チェロが弾けるからこそ自由に表現ができる。想いのままに表現するための最強のツールなんです。特別なものではなく、言葉を喋れることや歩けることのように身近で、その延長にあるような感覚です」。
その変化は、演奏そのものにも表れている。以前の自分の音を聴き返すと、そこには「足りないもの」を埋めようとするような緊張感があったという。
「昔は、ちょっと息苦しくなるような弾き方をしていた気がします。でも、いまはきちんと自分のなかに音を取り込んだり、呼吸を取り込んだり、音を味わったり、音のなかに自分自身が一部になったり……、そういう瞬間をやっと味わえるようになってきたと思います」。

しかし、この「自由」は、何もしないこととは違う。長年積み重ねてきたものを信じることで得られた結晶なのだ。
「以前は、『向上心を持って練習しなきゃいけない』『いい音を出さなきゃいけない』『うまくないといけない』と思っていました。『まだ足りない、まだ足りない、もっとこうしなきゃ』と、ある種の強迫観念のようなものがあったんです。それがここ数年で、『思ったより弾けるんだな』という、肩の力が抜けた状態で楽器と向き合えるようになってきた。自分を信頼できるようになったんですよね、楽器と自分との関係を。それを経て、少しずつ自由が手に入ったような感覚があります」
「これが絶対に欲しい」祖母が教えてくれた純粋なパワー

純粋な創造性がこもったものには
淀みのない想いがこもる
音楽と同じように、河内にとってファッションも、自分の感覚を伝えるための表現のひとつだ。
「芸術には必ず、作った人がどんなことを感じていたのか、どんな思いを持っていたのかというものが漂っているんですよね。空気感として感じ取れるというか。私は、そういうものを感じ取るのがとても好きなんです」
そんな彼女とマックスマーラをつなぐのが、祖母との思い出だ。
「以前、とある雑誌に出させてもらったときに、その雑誌を祖母に渡したんです。そうしたら、雑誌のなかから祖母が『このコートが絶対に欲しいから買ってきて』と言ったのが、マックスマーラの1着でした。『このお金で買ってきて』と頼まれて、母と一緒に買いに行ったときに、『これが絶対に欲しい』と思える、その純粋なパワーってすごくいいなと思ったんです。迷いなく『これ』と思える力って、何にも代えられない。その力を見せてくれたのがマックスマーラのコートだったので、それは祖母との思い出として残っています」
自分が何を好きで、どんなものに心が躍るのか。そこに正直であることは、彼女が音楽にも人生にも求めてきたもの。だから、服をまとうこともまた、新しい自分を知ることにつながる。
「服を着ることも、旅をするのと一緒なんです。自分の知らない世界を知ったり、身につけてみて初めて知る自分があったり、『こんなのも私、着られるじゃん』と思ったり。知らない自分と出会わせてくれるのが、お洋服の素敵なところだなと思います。今日みたいにしっかりしたコートやスーツを着ると、普段はゆるっとした服をたくさん着る私は、『シャキッと、きれいに身につけさせてもらいたいな』と背筋が伸びますし」
自我を手放した先に、「共有」がある

音楽もファッションも、彼女にとっては「自分を表現するためのもの」だ。けれど、それを誰かに押しつけることはしない。
「音楽はどんなふうに捉えてもらっても、全然いいんです。私が『こういう気持ちを届けたい』と弾いたものと、まったく違って受け取ってもいい。逆に、自分が『どうにかしないといけない』と思っている限りは、人を感動させるとか、何かを共有して分かち合うとか、そういう世界はないんだなと気がついたんです」。その境地にたどり着くためには、長年の積み重ねがある。
「当然、しっかり準備はするけれど、いざ人に届けるとなったときには、余計な自我は捨てる。そこにいちばん澄んだ何かがあるんだと思います」。
その「澄んだ何か」を誰かと分かち合うことこそが、いまの彼女が音楽を続ける理由になっている。
「そんな特別な時間をどれだけ味わえるかはいまの私には未知数だけど、一回でも多く、心から何かを共有できるその時間のために、一生音楽を続けていくんだろうなと思っています。音楽には正解もないし、感じ取り方にも正解はない。だから、諦めずにずっと音楽を続けていこうと思っています」

その正直でしなやかな強さから生まれる音は、一朝一夕のものではない。自分を手放すことで、表現の自由を手にした河内ユイコは、まだ見ぬ未来でどんな音を奏でるのだろう。
Information
ブランド創業75周年を記念したエキシビション「THE MAX!」が開催。

マックスマーラが創業75周年のアニバーサリーイヤーを記念し、2026年11月3日(火・祝)から11月9日(月)の期間、東京・銀座ソニーパークにてブランドエキシビション「THE MAX!」を開催。創業以来、卓越したテーラリング技術や、革新的なテクノロジー、そしてものづくりへの飽くなき探究心で歩みを重ねてきたマックスマーラ。会場では、ブランドを象徴するTeddyが案内役として登場し、長年に渡るクリエイティブヘリテージを紐解く体験型の世界へと誘う。過去から現在、そして次の時代へと絶えず進化を続けるマックスマーラの創造の旅を、ぜひ会場で堪能して。
「THE MAX!」
会期:2026年11月3日(火・祝)~11月9日(月)
会場:銀座ソニーパーク(東京都中央区銀座5丁目3-1)
Yuiko Kawauchi
1990年生まれ。幼少期をシンガポールとオランダで過ごし、オランダ在住中の9歳の頃よりチェロを始める。日本へ帰国後、東京音楽大学付属高等学校を経て、同大学をチェロの首席で卒業。大学在学時より、クラシックにとどまらずチェロの可能性を多方面で発信。現在も、チェロの多重録音を中心とした楽曲制作や映画音楽に携わり、数々のファッションブランドと共にインスタレーションを行うなど、さまざまなプロジェクトに取り組みながら活躍の場を広げている。今回のインタビュー動画では、オリジナル楽曲「磊」を披露。
Recommend
- model & music: Yuiko Kawauchi
- photography: Seiji Fujimori
- styling: Rena Semba
- hair: Takayuki Shibata(Signo)
- makeup: Ayana Awata(Ota Office)
- director: Yuuna Funaki
- director of photography: Yusuke Tokimitsu
- 2nd AC: Shunki Ito
- 3rd AC: Mana Shina
- lighting director: Takahide Sakai
- lighting assistant: Yoshiya Yamamoto
- colorist: Ayaka Sugimoto(Artone Film)
- mixer: Hiroyuki Kiriyama
- production: Tokyofilm
- text: Rieko Shibazaki