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マリア・グラツィア・キウリがローマで描く、フェンディの新たなクチュールの物語。

Fashion

故郷のローマ、そしてデザイナーとしての原点でもあるフェンディへ。26年ぶりに帰還したマリア・グラツィア・キウリが、初のクチュールコレクションに込めた思いとは――。新たなビジョンを本人が語る。


SHOW REPORT

マリア・グラツィア・キウリによる新生クチュール。

フェンディのコレクションが発表されたローマ国立近代美術館の外観

マリア・グラツィア・キウリがフェンディのチーフ クリエイティブオフィサーに就任して約9カ月。クチュールコレクションとしては初となるショーを、ローマ国立近代美術館で発表した。フェンディのルーツでもあり、本人自身の故郷でもあるローマにてお披露目されたコレクションは、人間の身体に宿る「欲望」が出発点となっている。服そのものではなく、感情や意思、姿勢など、身体を構成するさまざまな要素に新たな価値を見出そうというものだ。それは自分の感情に正直に振る舞い、人生を謳歌し、自由に、時には官能的に生きるローマの人々にも重なるかのようだ。

着想源となったのは、1977年にカール・ラガーフェルドがフェンディ初のプレタポルテコレクションを発表した際に制作した、ジャック・ドゥ・バシェールによる映像作品「イストワール・ドオー」。ポーリーヌ・レアージュの『O嬢の物語』をアイロニカルに引用し、70年代後半のローマを舞台に、無垢でありながらセンシュアルな自由を描き出した作品だ。

ローマ国立近代美術館にて開催された2026-27年秋冬クチュールコレクション。黒と白で幾何学模様を描いたマキシコートやファーコート、刺繍やレースを施したドレスからメンズとウィメンズが呼応するようなジャケットまで、身体の動きに合わせた流れるようなシルエットで展開。
ローマ国立近代美術館にて開催された2026-27年秋冬クチュールコレクション。黒と白で幾何学模様を描いたマキシコートやファーコート、刺繍やレースを施したドレスからメンズとウィメンズが呼応するようなジャケットまで、身体の動きに合わせた流れるようなシルエットで展開。

コレクションにおいて全体的に強調されているのが軽さとしなやかさ。身体を締め付けることなく、その動きに自然に寄り添い優しく包み込むようなシルエットがメインだ。オープニングのペカン柄のインレイを施したシフォンのカフタンドレスに始まり、ベルベットやサテンなどさまざまな素材を用いた、ウエストを締め付けないAラインのドレスが登場する。また、着物のようなシルエットのケープ風のジャケットやローブジャケット、ダブルフェイスのカシミアにレザーでアーカイブのジオメトリック柄を施したコートなど、羽織ることで身体の動きに合わせて流れるようなシルエットを生むアイテムも多い。チュールにレザーや花や葉などの立体的モチーフを施したドレスや、アールデコ調の精巧な刺繍を施したトップ、シフォンとレースをあしらったスリップドレスなど透け感のあるアイテムに官能性が漂う。フェンディの象徴でもあるファーは、ほかの素材とともにレースのようにあしらわれたマントやピースとフリンジで構成されたベストとして登場し、あくまで軽い印象だ。

コレクションでは、いわゆるオートクチュールにありがちな豪華絢爛さではなく、シンプルな中に秘めた職人技が静かに強調されていた。しかしながら本来、オートクチュールとは、それを着る人のためだけに作られるもの。マリア・グラツィア・キウリは、着る人が輝くための最高傑作をイタリアだからこそ、そしてフェンディだからこそ生み出すことができる究極の手仕事を駆使して、現代的に美しく表現した。

EXHIBITION REPORT

カール・ラガーフェルドから受け継ぐ、フェンディの創造と職人技。

ショー会場となったローマ国立近代美術館で開催中の『After - 仕事を通じた歩み / カール・ラガーフェルド 1985』の様子。1985年にフェンディとカール・ラガーフェルドによる20年間の協業を記念して開催された展覧会を再考察したもので、アーカイブピースやそのスケッチなどが一堂に揃う。
ショー会場となったローマ国立近代美術館で開催中の『After – 仕事を通じた歩み / カール・ラガーフェルド 1985』の様子。1985年にフェンディとカール・ラガーフェルドによる20年間の協業を記念して開催された展覧会を再考察したもので、アーカイブピースやそのスケッチなどが一堂に揃う。

今回のクチュールコレクションのショー会場となったローマ国立近代美術館では、『After-仕事を通じた歩み / カール・ラガーフェルド 1985(After Steps Through Work. FENDI / Karl Lagerfeld 1985)』展が開催されている。ショーの際に招待客用にプレオープンし、翌日から一般公開されている本展は、1985年にこの場所で、フェンディとカール・ラガーフェルドの20年間の協業を記念して行われたエキシビション『仕事を通じた歩み / カール・ラガーフェルド 1985』を、マリア・グラツィア・キウリが再構成したものだ。85年のエキシビションは、カール・ラガーフェルドとフェンディによる衣服づくりのプロセスを可視化することをテーマに、カール自らが展示構成を行い、ファー作品が生まれるまでの構想、デザイン、そして制作に至る一連のプロセスを来場者が体感できる仕組みになっていた。今回のエキシビションはそのリメイクではあるが、タイトルに冠された「After」という言葉に表されるように、単なる復元ではなく、当時の展示を現代の視点から再解釈された。

たくさんのデザインスケッチ

当時の作品すべてが現存しているわけではないため、現存しないキャンバスやファー作品については、フェンディのヘリテージ資料に基づく精巧なレプリカを用いて補完するなど、オリジナルの展示構成を可能な限り忠実に再現し、紙製モデル22点、試作用キャンバス7点、サンプルボード50点、スケッチ180点、ファー作品25点を展示。今回のクチュールコレクションの着想源ともなった、77年のフィルム「イストワール・ドオー」や、創業ファミリーの5姉妹のひとりであるパオラ・フェンディのインタビューなどの映像も流れる。

展示されたデッサンとトワル

イタリアの美術館がファッションブランドを主題とした展覧会を行うことはなかった時代の画期的な試みだったため、展示の最後には、85年の開催当時に掲載された新聞や雑誌などの報道資料を紹介し、ファッションを美術館で展示することを巡って交わされた議論を振り返る。当時の作品やイメージをもとに、デザイナーだけでなくパタンナーや職人などチーム全体の創造性を称えるとともに、その歴史的価値や意味を再考し、創造・技術・職人技・展示そのもののあり方を問い直すエキシビションだ。

『After – 仕事を通じた歩み / カール・ラガーフェルド 1985(After Steps Through Work. FENDI / Karl Lagerfeld 1985)』
会期:開催中~2026/10/25
ローマ国立近代美術館
開)9:00~19:00
休)月
http://lagallerianazionale.com

INTERVIEW

過去を未来へ繋ぐ、マリア・グラツィア・キウリの信念。


アワ・オディアンをはじめ、いまをときめくモデルたちがランウェイに登場。ショーモデルたちと、チーフ クリエイティブ オフィサーのマリア・グラツィア・キウリ(中央)。
アワ・オディアンをはじめ、いまをときめくモデルたちがランウェイに登場。ショーモデルたちと、チーフ クリエイティブ オフィサーのマリア・グラツィア・キウリ(中央)。

マリア・グラツィア・キウリの輝かしいキャリアは、1989年に24歳でフェンディのアクセサリーデザイナーとなったところに端を発する。彼女はデザイナー人生の初期の12年間、フェンディ家2代目であるパオラ、アンナ、フランカ、カルラ、アルダの5姉妹の元で仕事をした。その後、99年からヴァレンティノへ移籍し、そして2016年より昨年まで約9年間、ディオールのウィメンズ コレクションのアーティスティック ディレクターを務めたことは記憶に新しい。そんな彼女が昨年10月、チーフ クリエイティブオフィサーとして、自身のルーツともいえるフェンディに26年ぶりに凱旋した。今年2月にはミラノファッションウィークにてデビューコレクション、5月にはクルーズコレクション、そして今回、初のクチュールコレクションを、フェンディが生まれた地であり、自分の故郷でもあるローマで発表するにいたった。

ショーの当日、この後にはリハーサルが控えているという緊迫したタイミングで、マリア・グラツィア・キウリに話を聞いた。長い経験を積んできたベテランとはいえ、大きなショーの前には神経質になったり、ほかのことには集中できなくなったりしそうなものだが、まったくそんな様子は見せない。真摯に話を聞き、要点を押さえながら的確に、そして聞き手に合わせて答える様子は、ちょっと意外なほど(イタリア人は往々にして自分が話したい方向に勝手に話を逸らしてしまいがちなのだが)。先日発表されたデビューコレクションで、彼女がテーマとして掲げた「Less I, more us(私よりも、私たち)」というフレーズが一瞬頭に浮かぶ。

ショー直前のバックステージで捉えたフラヴィ・サマルタノ。
ショー直前のバックステージで捉えたフラヴィ・サマルタノ。

そんなマリア・グラツィアは、まずはフェンディについて、そして今回の就任についてこんなふうに語った。

「私にとって、フェンディで5姉妹やカール・ラガーフェルドとともに働けたことは大きな幸運でした。当時はいまとは時代が違い、会社は家族経営だったので、直接創業者ファミリーから、さまざまな角度でファッション業界のすべてを学びました。いまほどの大規模なブランドではなかったので、クリエイションの部分だけでなく、ショップや広報などのほかの部門まで見ることができましたからね。今回再びお声がかかった時はとても光栄ではあったものの、私のその後のデザイナー人生を左右するほどの教えを与えてくれた重要な会社だけに、大きな責任を感じました。また、それと同時に、なんだか若い頃に戻ったようなワクワクする気持ちもありました(笑)。いまは違うポジションから自分が働いていた当時を見直して、ここまでの教えと経験をブランドの未来に繋げていくのが課題ですね」

リズミカルで明るく、流れるようなローマ風のアクセントでマリア・グラツィアは話を続ける。フェンディ復帰後の初のオートクチュールを発表する場所として、オートクチュールウィークが行われるパリではなく、あえてローマを選んだ。

バックステージにはフェンディのアトリエの職人たちも待機し、モデルの着付けなどを行った。
バックステージにはフェンディのアトリエの職人たちも待機し、モデルの着付けなどを行った。

「このショーをローマでやりたかったのは、フェンディの本拠地であり、ものづくりの原点であるアトリエがある街だからです。歴史的な意味もさることながら、フェンディが最も大事にしている職人の手仕事の象徴である、アトリエや素材がある場所だということも大事でした。通常は交流のない、生地、ファー、レザーといった素材ごとを専門にしているアトリエ同士が協力し合ってマテリアルを融合させることで、創造的で革新的な作品ができると考えたのです。たとえばダブルフェイスのカシミアコートに施されていたラビリントというレザーの製法をはじめ、素材のミックスはこのコレクションの各所で展開されています」

併せて、ローマ国立近代美術館でショーを行うことも重要だったと言う。今回、ショーと同時に1985年にフェンディとカール・ラガーフェルドとの協業20周年記念で行われた展覧会のリニューアル版が開催されたが、同美術館は当時のオリジナル展覧会が行われた場所なのだ。その頃はまだ、イタリアの美術館がファッションを文化として捉えていなかった時代なので、ファッションの展覧会をやることについて、批判や議論があったそうだ。ゆえにこの展覧会を再構成して開催することを通じて、ファッションは芸術であることをあらためて発信し、伝統と革新が融合して衣服が完成することを強調するという目的もあった。また、フェンディの比類ない職人技と、それを生み出しているチームの結束など、この展覧会が物語ることは、今回のコレクションと強く連動している。

「このコレクションで最も重要視したのは軽さです。フェンディ5姉妹もカールも、50年代当時は重たかったファーを解体して再構築することで、素材の質の良さは守りつつ、より軽量化することに尽力していました。そして当時からシフォンやジョーゼットなどの生地と組み合わせることで、アイテムにさらに柔らかさや軽さを加えることを目指していました。今回のコレクションではそれを受け継ぎ、ソフトで軽やかなカシミアやレザーを使ったり、レースやシャンティリーを、レザーのレースにミックスしたりして、革新的なアプローチを入れ込んでいます」

シルエットやデザインの部分にも、伝統と革新が同居している。マリア・グラツィアは続ける。

「シルエットに関しては、ファー部門の責任者だったパオラ・フェンディが参考にしていた着物のアイデアを入れ込みました。彼女はファーのアイテムにおいて、平面的な着物の要素に西洋の伝統的なアウターのようなディテールや構造を入れ込み、着る人の身体にフィットしたシルエットを作っていました。またデザインに関しては、カール・ラガーフェルドが好んだストライプやジオメトリックなモチーフを使いました。たとえば、一見プリントのように見えるインターシャのオーガンジーのドレスとか。目に見えないくらいの細かい縫い目によって結合されたダイヤ形のラインで構成されていて、立体的になっているため、着る人の体形に合わせて作らなければなりません。まさに、オーダーメイドでなければできない逸品なのです」

それこそがオートクチュールの醍醐味だとマリア・グラツィアは言う。オートクチュールにおいては、洋服が身体にフィットするのが当然であり、大量生産されるプレタポルテのようにもともとあるサイズに人が合わせるわけではない。また、オートクチュールはデザインだけではなく、職人との絆から生まれる唯一無二のものだ。アトリエと連携して、ステップバイステップで作り上げていく職人技の極みであり、プレタポルテでは実現できないようなクリエイティブで実験的な作業に挑戦することができる、と。話が職人技に及ぶと、マリア・グラツィアは言葉に俄然熱を込める。

ショーはオリジナル短編映画『ラブ・モンスター』で幕開け。マリア・グラツィア・キウリも真剣にモニターを眺める。
ショーはオリジナル短編映画『ラブ・モンスター』で幕開け。マリア・グラツィア・キウリも真剣にモニターを眺める。

一方、コレクション全体に流れるテーマとしては、感情、そして官能性を表現したと語る。ショーの前には、ヴィラ・ボルゲーゼの庭園とコレクション会場のローマ国立近代美術館を舞台に夢と現実の間に揺れ動く欲望を描いた『ラブ・モンスター』という短編映画が上映され、没入的にショーへと誘導した。このテーマについては、フェンディが得意としていたファーは、「それ自体が官能的なものであり、五感を刺激するものだから」だと言う。そして、その雰囲気をシフォンやシルク、ジョーゼットなどの異素材でも表現したそうだ。また、メンズとウィメンズ両方に同じジャケットやアウターを合わせるスタイリングなど、ワードローブの共用という点にも重きを置いたと言う。

最後にフェンディをどのように進化させたいかを尋ねると、マリア・グラツィアは、まずフェンディの歴史が凝縮されたこの展覧会を成功させたいと語った。

「初のクチュールコレクションの発表と展覧会を本拠地であるローマで開催し、さまざまなフェンディの要素を多面的かつ総括的にお見せできると思っています。展覧会はカール・ラガーフェルドとの協業にまつわるものですが、同時にフェンディのアトリエの歴史や、今日も続くその職人技の進化の様子も物語っています。カールはフェンディ5姉妹にとっても、ブランドにとってももちろん重要な人物でしたが、私は彼の偉業を称えるとともに、フェンディ5姉妹の懐の深さも称えたいと思います。まだ有名ではなかったパリ在住の若いドイツ人デザイナーのカールを選んで、彼にブランドの未来を託すというのは、当時のコンサバティブなローマではなかなかの勇断だったと思うのです」

フェンディはいまや100年を超える歴史を誇る老舗中の老舗だが、実は創業当初から常に革新的な姿勢があったのだ。そんなブランドの歴史を知り、それを未来に繋げていきたいという強い思いがある。

「カルラ・フェンディも、ヤヌス(ローマ神話に登場する物事の始まりと終わりを司る守護神)の言葉にある『過去を知ることで未来に向かうことができる』という教訓をとても大事にしていました。そんな過去と未来の良いバランスを見つけることが必要ですね。若い人たちはいまのことはとてもよく知っていますが、昔のことは知らない人が多いので、私が若い頃に見てきたフェンディ、そして私がフェンディ以外のブランドで経験してきたことを、若い人たちに繋げていきたいと思います。そして過去を大事にしつつ、今後もクラフトマンシップと伝統に繋がったイノベーションを続けていきたいと思います」

薄く柔らかな生地をベースにすることで、本来であれば重量感のあるレザーに羽のような軽やかさを吹き込む。
薄く柔らかな生地をベースにすることで、本来であれば重量感のあるレザーに羽のような軽やかさを吹き込む。
上段:繊細なチュールに手刺繍で蔦の模様を描く。 下段:まるでレースのように見えるマントは、ファーやレザー、布地で作られた花や葉を手作業で縫い付けることによって実現。
上段:繊細なチュールに手刺繍で蔦の模様を描く。 下段:まるでレースのように見えるマントは、ファーやレザー、布地で作られた花や葉を手作業で縫い付けることによって実現。
レザーの花々が美しいマントは、遠目にはレースのよう。
レザーの花々が美しいマントは、遠目にはレースのよう。
ショーの冒頭に放映された短編映画の主人公を演じた女優レイラ・ジョージが纏った、ファーストルックで登場するストライプのカフタン風ドレスは、プリントではなくバイアスに裁ったシフォンを細かな手仕事で縫い繋いだもの。
ショーの冒頭に放映された短編映画の主人公を演じた女優レイラ・ジョージが纏った、ファーストルックで登場するストライプのカフタン風ドレスは、プリントではなくバイアスに裁ったシフォンを細かな手仕事で縫い繋いだもの。
画家のグスタフ・クリムトの生涯のパートナーであったクチュリエのエミーリエ・フレーゲが着用していたドレスに着想を得たカフタンは、自由な女性の精神性を象徴している。
画家のグスタフ・クリムトの生涯のパートナーであったクチュリエのエミーリエ・フレーゲが着用していたドレスに着想を得たカフタンは、自由な女性の精神性を象徴している。
問い合わせ先

フェンディ ジャパン
0120-001-829(フリーダイヤル)
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  • photography:Zelinda Zanichelli_Fendi Group Shots Images
  • text:Miki Tanaka