宮沢氷魚と訪ねる「あしたの畑」。シャネル「le19M」から丹後へ、職人とアーティストが紡ぐ新しい風景。

Culture

シャネルのメティエダールを紹介した『la Galerie du 19M Tokyo』から生まれた物語が、京都・丹後の間人(たいざ)へ。宮沢氷魚とともに、新たなアート拠点「SEI TAIZA」と「間人プレイス」を訪ね、手仕事とアート、土地の記憶がつなぐ再生の風景を見つめた。


京丹後市指定文化財にも指定されている「大成古墳群」。徳田佳世が構想した集落構想アートプロジェクト「あしたの畑」は海に向かって弔いを捧げ、安らかな死後の世界を願う人々の思いが感じられる、この古墳群を訪れたことから始まったという。

シャネルが2025年に開催したメゾンの職人技、メティエダールに焦点を当てた『la Galerie du 19M Tokyo』展。記憶に新しいこの展覧会のひとつの核は、日仏職人の対話から生まれた、日本の伝統工芸の新しいプレゼンテーション、「Beyond Our Horizons」だった。同展示のキュレーターのひとりであった徳田佳世は、京都、丹後地方の間人(たいざ)を拠点とする、NPO法人TOMORROWを主宰。2020年からリジェネラティブ(再生型)で、従来の美術館のあり方からもうひとつ先の集落構想アートプロジェクト、「あしたの畑」を展開している。その活動は、「手仕事・アート・食」を媒介として地球と文化、そして人との関係を再生することを目的とし、国内外のアーティスト、建築家、職人、料理人らが協働し、古民家や織物工場などを改修した空間で、アート作品の展示や食の会、ワークショップなどを開催するユニークなもの。シャネルは徳田佳世率いるTOMORROWの理念に共感し、多面的なサポートを行っており、今秋、ギャラリースペース、「SEI TAIZA」と創造と学びの拠点「間人プレイス」が新たに完成した。

日本海に面した京都府京丹後にある港町、間人。「丹後は初めて」という宮沢氷魚と集落へ。

光をたたえた海の京都に生まれた、このふたつのアートの新デスティネーションには、『la Galerie du 19M Tokyo』展からの物語が引き継がれているという。エキシビジョンのオーディオガイドを担当した俳優、宮沢氷魚と訪れた。

京丹後市間人に初めて誕生したアートギャラリー。作品と人、そして地域を結ぶ新たな場。かみ添の嘉戸浩、藤田雅装堂の藤田幸生、金沢 木制作所の金沢健幸そしてルマリエによる「花衝立」(2025年)を見つめる宮沢氷魚。

築60年超の丹後ちりめん工場を改修して作られた現代アートギャラリー、「SEI TAIZA」に一歩足を踏み入れると、アトリエ「パロマ」と漫画家の五十嵐大介の絵画が視界に飛び込んできた。さらにシャネルを象徴するカメリアやコサージュを手掛けるアトリエ、「ルマリエ」と京都の唐紙工房「かみ添」の協働による衝立や、お馴染み「ルサージュ」のツイードが縁取られた畳もこの地に。オープニングには「かみ添」の嘉戸浩も来場。「唐紙は電灯のない江戸時代に栄えました。朝から夜へと移ろう光を計算して配された唐紙の壁は、時間とともに表情を変え、その豊かな変化を楽しむことができます」と、時の経過を愛でる嗜みを教えてくれた。また舟文化との歴史が深い間人ゆえに、山水画から漕ぎ出すようなストーリーを考えて徳田は再展示、絵画の前には木桶職人、中川周士作の『舟と櫓』が鎮座する。予想以上の迫力に宮沢は、「建物は新しく作ることの方が楽かもしれない。でも何十年とそこに建ち続けたものだからこその魅力を強く感じました。土地の歴史が、骨組みも柱だったり、屋根だったり、地面、いろんなところに刻まれてると思うんです。その生命を伸ばしていきながら、新しいものを生み出していく力強さと、人のエネルギーや温かみが溢れている空間ですね」と語る。

SEI TAIZAの奥では企画展「SEA BRIDGESー茶」も開催。今秋は丹後と韓国の植物をモチーフに、舟形の彫刻作品を制作した浅野友理子によるインスタレーションが展示されている。

彼がシャネルの展覧会でよく見知った作品は、ギャラリーだけでなく、工房の「間人プレイス」にも息吹いており、さらなる感動は続く。

8ヶ月かけて改装したという「間人プレイス」は、サステナビリティを起点に、年齢やジェンダー、経験の有無を超えて、誰もが創造の担い手になれる空間。将来的に廃棄物を生まない「ゼロ・ウェイスト」も見据えた試みも行われている。

日本海を一望する高台に位置する「間人プレイス」は、職人やクリエイターが集い、この地に滞在しながら制作と交流を行う場。エントランスで出迎えてくれるのは木桶職人、中川渾身の6000枚のへぎ板を合わせて作った循環棟と、『la Galerie du 19M Tokyo』展の資材を再利用したウォータータンク、プランター、コンポストの3つの大きな木桶。

左:益田芳樹による海波をモチーフとした沓脱台 右:ルサージュと髙室畳工業所によるコラボレーションから生まれた畳。
天井は藤森工務店による網代張り、壁のプリーツはアトリエ ロニオンと織物工房であるデザイン橡(とち)によるもの。床は何層にも貼り重ねられた和紙に油と豆腐で磨き仕上げられた。

「循環」のメッセージをしかと受けとめ、いざ中へ。「間人プレイスの奥間天井に貼られた網代張り。シャネルの展覧会から形を変えているんですが、とても印象に残りました。クリエイションの用途というか、フォルムを変えて残すということもひとつの手法なんですね」と宮沢が感心するように、網代張り、「ロニオンのプリーツ」、「ルサージュ」のツイード畳ほか、『la Galerie du 19M Tokyo』展からの作品や資材は、遠く丹後の地で変化し生き続けていたのだ。

漫画家五十嵐大介と十八代 永樂善五郎による板戸絵。

正面扉には、浦島太郎が語り継がれる地元からのインスピレーションを得て、漫画家の五十嵐大介が再生資材に新たに描き下ろした丹後に伝わる乙姫と天女伝説をモチーフとした絵画。その扉に絶妙なアクセントとなっている、京焼の茶道具を担う十八代永樂善五郎による陶器の引き手に至るまで、関わった職人たちと、TOMORROWの建築家の橋詰隼弥のこだわりが垣間みえる。

旅の終盤には、今回のプロジェクトの中心メンバーとなった木桶職人、中川にも出会い、彼の情熱を直接聞く貴重な瞬間も。「環境問題は、大きなテーマすぎてどこから始めていいのかわからないかもしれません。自分は木桶職人だから考えられることを実践しています。それぞれが未来を考え、諦めずによいことをやり続ければ、それぞれの1ミリずつが大きくなって、世界は必ず変えられる」。

ひとの良心と原点に立ち返り、よりよい未来を信じて生きる。間人の新しいデスティネーションで感じられる、この胸の高鳴りを是非体感して欲しい。
2026年10月12日より一般公開開始に。鑑賞はガイドツアー制。お申込みは以下ホームページへ。

間人の注目スポットをご紹介

  • 京丹後の名所「立岩」。近くには聖徳太子の母である間人皇后と幼少期の太子の母子像もある。間人という名前はこの聖徳太子の母の名前から由来しているという。
    畠山直哉「立岩」2022年
    Naoya Hatakeyama “Tateiwa” 2022
    Courtesy of TOMORROW

  • アーティスト、テレジータ・フェルナンデスと木工作家・中川周士、TOMORROWの橋詰隼弥、若松晃平らによる「Field of Stars」。世代を超えた協働から生まれた本作は、土地や権力、歴史をめぐる複雑な物語を素材と風景を通して描き、従来のランドスケープの概念を問い直す。Courtesy of TOMORROW

  • 竹野神社の向かい側に建つ、「宮ティーハウス」。陶芸作家のマーティン・ローチ、建築家アンナ・ヘリンガーとTOMORROWが共同制作をした自然と共存する半屋外のアートインスタレーション。Courtesy of TOMORROW

  • 宮ティーハウスの中に入ると、ひんやりと静かな空間が広がる。100%地球に還る素材でできている。Courtesy of TOMORROW

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  • photography:Satoshi Nagare
  • stylisme:Rena Semba
  • hair & makeup:KOTARO
  • text:Amy Tatsubuchi