アンソニー・ヴァカレロが描いた、サンローランの10年。
10月9日朝、ケリングは、サンローランを10年率いたアンソニー・ヴァカレロの退任を発表した。ベルギー人デザイナーが築いた華麗なる一時代は、ファッション史に深く刻まれる。

エッフェル塔を背景に繰り広げられるセンセーショナルなショー。力強く、映画の登場人物さながらのサンローランの女性像——その傍らには、官能的で、何ものにも囚われない男性がいる。アンソニー・ヴァカレロ、44歳。
かねてサンローランを去ると報じられていたヴァカレロ。10月9日朝、ケリングの最高経営責任者ルカ・デメオと、サンローランの最高経営責任者セドリック・シャルビによって、その退任が正式に発表された。
9月29日、ゴールド一色で染め上げられたサンローラン 2027年春夏コレクションが、彼の最後のショーとなった。きらめくエッフェル塔のもと、壮大なシャンデリアの下で披露されたそのコレクションで、彼は有終の美を飾った。
ブルジョアの気品とセックスアピール
フランスのラグジュアリー界の巨匠、イヴ・サンローランが創設したメゾン。その舵取りを担った10年間、アンソニー・ヴァカレロはブランドをさらなる高みへと導いてきた。

ブルジョアの気品と、既成概念を揺さぶるセックスアピール——その間を行き来する彼が描くサンローランの女性像は、彼自身の言葉を借りれば「上はクラシック、下はピガール」。そこには常に、創設者のビジョンが息づいていた。
同時に、ベルギーのラ・カンブル国立美術学校で学んだヴァカレロは、サンローランのスタイルに、シチリアのルーツに由来する官能性への鋭い感覚と、構築的なフォルムやミリ単位で計算されたカッティングへの強いこだわりを吹き込んだ。
ネイキッドドレスと黒のブルゾン
サンローランこそが現代のパリを体現するクチュールメゾンである——ヴァカレロは、在任期間を通じて、そのことをあらためて印象づけた。創設者が残したコードを探求し、独自の視覚的な緊張感を生み出す。その鮮烈なイメージは、インスタグラムで世界中に拡散された。

ブラックレザー、セクシーなカットアウト、目がくらむほど高いヒールを合わせたメンズのスモーキング、肩幅を広く取ったブレザー、ラテックスのシルエット、レースのネイキッドドレス、黒のブルゾンを合わせたイブニングドレス……。彼のスタイルは確固たる存在感を放ち、人々の目を引き、ほかとは一線を画していた。
「アクション!」
彼のコレクションには毎回、シナリオと映画的な視点が宿り、ベティ・カトルー、カトリーヌ・ドヌーヴ、ルル・ド・ラ・ファレーズ、シャルロット・ゲンズブールといったメゾンのミューズたちの面影が浮かび上がる。言葉で語られずとも、その背景にある物語を感じさせる人物への、彼の偏愛が息づいている。
ヒロインはいつも、力強く、ミステリアスで、グラマラス。自らの道を切り拓いていく。
ヴァカレロは在任中の2023年、映画製作を手がける「サンローラン プロダクション」を立ち上げた。同プロダクションの製作作品には、アカデミー賞で2冠に輝いたジャック・オーディアール監督の『エミリア・ペレス』や、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『The Shrouds(原題)』などが名を連ねる。
火山をバックに。
パンデミックによるロックダウンのさなか、パリを離れて発表された壮大なショーも忘れがたい。アイスランドの火山と氷河が織りなす風景をバックに現れたのは、ツイードのジャケットとメタリックなスカートを纏ったモデルたち。モロッコの砂漠では、巨大な砂丘の稜線をピンヒールで歩く美しい女性たちが登場した。
また、ロックとボヘミアンの精神が息づくメンズコレクションは、マリブのパラダイス・コーブのビーチや、マンハッタンのスカイラインと自由の女神を望む場所で披露された。
そこにあるのはいつも、鮮烈なイメージ。美しく、いつまでも記憶に残る。
新たなチャプターへ。
成功に彩られた10年間。その歩みが、美しいフィナーレを迎える。彼の退任が発表されて以来、多くの人が「私たちは彼を心から愛していた」と語る。そのとおりだ。

サンローランは近く、新たなクリエイティブディレクターを発表する予定だ。現在クロエを率いるシェミナ・カマリの名が、これまでもたびたびメディアで取りざたされてきた。しかし、いまなお後任は謎に包まれている。
一方のアンソニー・ヴァカレロは、雑誌『The Wrap』でパメラ・ゴルバンのインタビューに応じ、サンローランの後は、まったく違うことをするかもしれないとほのめかしていた。
新たな夢、新たな挑戦。ア・ビアント! また逢う日まで、ムッシュ・ヴァカレロ。
- text: Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr)
- translation: A. Fuji
- edit: フィガロジャポン編集部
From madameFIGARO.fr ※この記事は、フランスの新聞社「Le Figaro」グループが発行する「madame.lefigaro.fr」で掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。