我が愛しの、ジェーン・バーキン チームワークを愉しんだ女優、ジェーン・バーキン映画リスト。【1980年代】

Culture 2024.06.14

圧巻の作品リストだ。若い時は長い肢体で魅せるファッション映画、コメディエンヌとしても活躍し、芸術家のパートナー役や同性愛も演じた。錚々たる映画作家に起用され、残した軌跡がここに。

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1980年代〜

ウィーン史に残る芸術家を魅了。

『エゴン・シーレ/愛欲と陶酔の日々』

28歳で早世したオーストリアの画家エゴン・シーレの生きざまを描いた伝記で、ジェーンはシーレの愛人として知られたヴァリに扮している。17歳でシーレに見初められモデルを務めるようになった彼女は、そのもの悲しげでミステリアスな魅力で彼をインスパイアしていく。シーレを演じたのはドイツ生まれだがフランスにルーツを持つマチュー・カリエール。フェーゼリー監督は、当時の芸術の都ウィーンの華やかな雰囲気や、シーレの絵画の色彩を意識した映像美を構築。未成年のモデルの裸体を描くなどして、スキャンダルに追い込まれたエゴン・シーレだが、本作は扇情的な描写は控えられ、ジェーンも抑制された演技を見せている。

●監督・共同脚本/ヘルベルト・フェーゼリー ●出演/マチュー・カリエール、クリスティーネ・カウフマンほか ●1980年、オーストリア・西ドイツ映画 ●94分

ドワイヨンとのコラボレーション。

『放蕩娘』

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©️ Capital Pictures/amanaimages

ゲンズブールと別れ、次のパートナーとなるドワイヨン監督作への出演となった記念すべき1本。ミシェル・ピコリと近親相姦ぎりぎりの怪しげな父と娘の関係を演じた。「悪魔が全員解放され、私の中で踊っている」と呟くヒロインは、結婚をしたものの夫を愛することができず、父親に複雑な感情を抱き続け、嫉妬を寄せる。この監督らしい屈折した心理ドラマだ。ファムファタル的な妖艶さと危うさを行き来するジェーンと、受け身でも存在感を示すピコリの演技は高く評価されたものの、その困難なテーマゆえ、批評家受けにとどまった。

●監督・脚本/ジャック・ドワイヨン ●出演/ミシェル・ピコリ、ナターシャ・パリー、エヴァ・レンツィほか ●1981年、フランス映画 ●95分

ヴァカンススタイルでおしゃれに。

『地中海殺人事件』

007シリーズの監督で有名なガイ・ハミルトンによる、アガサ・クリスティの『白昼の悪魔』の映画化で、『ナイル殺人事件』同様、ユスティノフがポワロに扮する。地中海の島の瀟洒なホテルを舞台にした本作で、主要メンバーのひとりとして参加したジェーンは、ハンサムな夫を持つ有閑マダム役。彼女の纏うリヴィエラファッションがゴージャス。共演はボンドガールで知られるダイアナ・リグ、マギー・スミス、ジェームズ・メイソンら。ジェーンにとって国際的なエンターテインメント作品で大役を演じた初めての経験となった。

●監督/ガイ・ハミルトン ●出演/ピーター・ユスティノフ、ダイアナ・リグ、ロディ・マクドウォール、マギー・スミス、ジェームズ・メイソンほか ●1982年、イギリス映画 ●117分 ●アマゾンプライムビデオ、U-NEXTなどで配信中

ルコント作品でもコメディエンヌ真骨頂。

『愛しのエレーヌ/ルルーとペリシエの事件簿』

人気コメディ俳優ジャック・ヴィルレとミシェル・ブランがジェーンを迎えた、パトリス・ルコントお得意のコメディ。うだつの上がらない刑事ルルーとペリシエのふたりは、現代美術のギャラリーのオーナー(ジェーン)が盗難美術品の売買に関わっているとみて、執拗につきまとう。だがそうこうするうちにルルーが彼女に惚れ込んでしまい、事態は思わぬ方向に。ブランのノンストップな暴走を受けて立つジェーンの、コメディエンヌぶりが遺憾なく発揮され、楽しい。

●監督・共同脚本/パトリス・ルコント ●出演/ミシェル・ブラン、ジャック・ヴィルレ、ミシェル・ロブほか ●1983年、フランス映画 ●90分

芸術家と対峙する毒母役が新鮮。

『ベートーヴェンの甥』

アンディ・ウォーホルのファクトリーの一員で、『チェルシー・ガールズ』をウォーホルとともに監督したモリセイの、独立後の作品。ベートーヴェンの甥の母親で、悪妻と言われたヨハンナ(ジェーン)とベートーヴェンの争いを描く。

●監督・共同脚本/ポール・モリセイ ●出演/ウォルフガング・ライヒマン、ディトマール・プリンツ、ナタリー・バイほか ●1984年、フランス映画 ●102分

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男と女、両側への愛の間に揺れて。

『ラ・ピラート』

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©️ Capital Pictures/amanaimages

『放蕩娘』に続きドワイヨン監督と組んだ2作目。愛する夫がいながら、若い女性キャロルへの情熱を止められないヒロイン、アルマに扮する。ドワイヨンの眼差しによってすくい取られるジェーンの追い詰められた表情、熱に浮かされたような横顔、愁いを帯びた瞳が、観る者の感性に突き刺さる。キャロル役は、ゴダールの『カルメンという名の女』(1983年)でデビューしたばかりのマルーシュカ・デートメルス。夫役にはジェーンの兄、アンドリュー・バーキンが扮している。本作はカンヌ国際映画祭のコンペティションに出品され、とりわけ主演のふたりが高い評価を受けた。

●監督・脚本/ジャック・ドワイヨン ●出演/マルーシュカ・デートメルス、アンドリュー・バーキン、フィリップ・レオタールほか ●1984年、フランス映画 ●88分

自ら出演熱望、リヴェット監督作。

『地に堕ちた愛』

演劇と映画を絡め、常にどこかに謎と秘密をもたせた"不思議空間"の創作に長けたリヴェット監督の真骨頂。『セリーヌとジュリーは舟でゆく』を観てリヴェットのファンになったジェーンが、出演を熱望して実現した。相手役にはジェラルディン・チャップリン。エキセントリックな演出家から呼び出され、彼の邸宅で演出家自身の人生を反映した未完の戯曲の稽古をすることになった役者たち。だが、ふたりの女優に対して、女性の役はひとつしか存在しなかった。リヴェット特有のどこか現実離れした迷宮的な空間の中で、火花を散らすふたりの女優の演技から、目が離せない。

●監督・共同脚本/ジャック・リヴェット ●出演/ジェラルディン・チャップリン、アンドレ・デュソリエ、ジャン=ピエール・カルフォンほか ●1984年、フランス映画 ●125分

極限に置かれた欲望を演じて。

『熱砂の情事』

砂埃の吹き荒れる南アフリカの人里離れた土地で、父親と黒人の使用人たちと暮らすマグダ。父親に禁断の愛情を寄せるマグダはある日、父と若い使用人の女性との関係を目撃し、嫉妬のあまり父を殺してしまう。やがてひとりになった彼女は、男性の使用人に犯され、それがきっかけで欲望に目覚める。極限状態の女性の孤独、欲望、自己喪失を、ジェーンが体当たりで熱演し、俳優としてさらなる飛躍を遂げた。本作が長編2作目にあたるハンセル監督は、ヴェネツィア国際映画祭で見事銀獅子賞受賞。

●監督・脚本/マリオン・ハンセル ●出演/トレヴァー・ハワード、ルネ・ディアズ、ナディーヌ・ウワンパほか ●1985年、フランス・ベルギー映画 ●85分

夫婦愛のさまざまなカタチ。

『孤独な果実』

D.H.ローレンス、ヴァージニア・ウルフらと同時代に生きた不遇の作家キャサリン・マンスフィールドの半生を描いた伝記映画。キャサリンが34歳で没した33年後、夫で自身も作家であったジョン・ミドルトン・マリーが彼女の書簡と日記の再出版のため、パリの出版社を訪れる。そこで若きキャサリンを彷彿させるような女性、マリーに出会う。マリーは書簡に目を通し、ジョンがキャサリンの意向を尊重していないことに気づくのだが......。ジェーンがキャサリンとマリーの2役を演じ、イギリスの名優ジョン・ギールグッドが夫役を務め、夫婦の愛の形を浮き彫りにする。

●監督・共同脚本/ジョン・リード ●出演/ジョン・ギールグッド、サイモン・ウォード、フェオドール・アトキンほか ●1985年、ニュージーランド映画 ●88分

夫を愛する執念の妻を熱演。

『悲しみのヴァイオリン』

『インドシナ』で知られるレジス・ヴァルニエの初監督作。才能あるヴァイオリン奏者でありながらアルコールに溺れていく男と、彼を愛する妻の苦悩を描く。流麗な演奏シーンと主人公の張り詰めた心理、夫婦の衝突がリズミカルに繋げられ、重厚なドラマを織り成す。クラシックな作りのなかで、人間の脆さをじっくりと見つめる。愛ゆえに夫を救おうとする妻の情熱、執念を浮き彫りにしたジェーンの姿が胸に迫る。ヴァルニエ監督は本作でセザール賞の最優秀新人監督賞を受賞した。

●監督・脚本/レジス・ヴァルニエ ●出演/クリストフ・マラヴォワ、ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・ブランほか ●1986年、フランス映画 ●102分

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ゴダールの世界で弾けろ!

『右側に気をつけろ』

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©️ 1987Gaumont/VegaFilmAG/TSR

ゴダール・ワールドに初めてジェーンが身を置いた新鮮な作品。ドフトエフスキーの『白痴』からインスパイアされた本作についてゴダールは、「俳優、カメラ、録音機のための17もしくは18景のファンタジー」と記しているが、フレンチポップデュオ、リタ・ミツコの音楽がフィーチャーされているだけに(出演も)小気味好いテンポと、ゴダール自身が演じる「白痴公爵殿下」こと、自身の映画を売り込む監督の醸し出す自虐的ユーモアに牽引される。ジェーンの役名は「蝉」で、ジャック・ヴィルレが「蟻」。これは映画内で引用されるジャン・ド・ラ・フォンテーヌの『寓話』のなかの一篇、「蟻と蝉」に由来する。理解しようとするより、感じることが大切な作品。

●監督・脚本・出演/ジャン=リュック・ゴダール ●出演/フランソワ・ペリエ、ジャック・ヴィルレほか ●1987年、フランス映画 ●81分 ●Blu-ray¥6,380 販売・発売:アイ・ヴィー・シー

娘の同級生に恋する中年女。

『カンフー・マスター!』

もともと『アニエスv.によるジェーンb.』のためにジェーンが思いついたストーリーを膨らませたのが本作。40歳を迎える女性がミドルエイジ・クライシスに陥り、娘の学友である14歳の少年に恋をしてしまう。ジェーンの娘役をシャルロット・ゲンズブールが演じ、少年役にはヴァルダの息子、マチュー・ドゥミ。どこかユーモラスで教訓話めいているのが、インモラルな物語を救っている。当時のジェーンの自宅で撮影したり、子役はみんな素人でドゥミの学友だったりと、本作でもリアルな日常を織り交ぜたドキュメンタリー的な雰囲気。

●監督・脚本/アニエス・ヴァルダ ●出演/マチュー・ドゥミ、シャルロット・ゲンズブール、ルー・ドワイヨンほか ●1987年、フランス映画 ●80分 ●8月23日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開予定

ヴァルダとのユニークな共作。

『アニエスv.によるジェーンb.』

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©️ Ciné-tamaris/ReallyLikeFilms

ジェーンを映画に収めたいと思ったヴァルダ監督が彼女のために企画した作品で、さまざまなシチュエーションのスケッチから成る。それぞれのパートでジャンヌ・ダルク、カラミティ・ジェーン、ターザンの恋人ジェーンなど、異なるキャラクターに扮する彼女の七変化が観られる。ドキュメンタリーとフィクションを混ぜながら、まさに題名どおりヴァルダの視点を通したジェーン・バーキンという女優の魅力を謳いあげたオマージュとも言える。本作のためにジェーンが考えたショートストーリーが、独立した長編となったのが『カンフー・マスター!』で、2作は同時に作られた。

●監督・脚本・出演/アニエス・ヴァルダ ●出演/フィリップ・レオタール、ジャン=ピエール・レオほか ●1987年、フランス映画 ●95分 ●8月23日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開予定

閉ざされた空間で演じ始める夫と妻。

『ふたりだけの舞台』

人気歌手としても知られるアラン・スーションと夫婦を演じた、舞台劇のような物語。ある新婚カップルが夫の持ち家である別荘にやってくる。ふたりだけの寛ぎの場になるはずだったが、彼の昔の女たちの痕跡が刻まれた場所に、妻はヒステリックに反応する。やがてふたりは現実に即して自分自身を「演じる」ことで、ふたりの愛を確かめ合おうとする......。閉ざされた空間と感情的な摩擦が、映画に緊張感をもたらす。

●監督・共同脚本/ジャック・ドワイヨン ●出演/アラン・スーション ●1987年、フランス映画 ●82分

戦争の悲劇を追うジャーナリスト。

『フォース・オブ・ラブ』

ジャック・ペランが自ら企画、監督、主演し、ジェーンと共演したテレビ映画。1979年にベトナムと中国をめぐる中越戦争が勃発して以降、ベトナムから脱出するボートピープルが拡大したことを背景に、彼ら難民を救おうとする医者の団体と、彼らの活動を追いかけるジャーナリスト(ジェーン)の姿を描くヒューマンドラマ。

●監督・出演/ジャック・ペラン ●出演/サミュエル・フラー、ジャン=フランソワ・バルメ ●1988年、フランス映画 ●98分

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▶︎ジェーン・バーキン、永遠のファッションアイコンの魅力を紐解く。

*「フィガロジャポン」2024年3月号より抜粋

texte: Kuriko Sato

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