日本生まれの全幕バレエ『かぐや姫』が、2027年にパリ・オペラ座へ!

Culture
Four adults in formal clothing posing together in front of a grand building backdrop resembling an opera house.
パリ・オペラ座ガルニエ宮の写真を背景にフォトコール。左から、演出振付家の金森穣、東京バレエ団団長の斎藤友佳理、プリンシパルの秋山瑛、ファーストソリストの大塚卓。

東京バレエ団による全幕オリジナル作品『かぐや姫』が海外の劇場から招聘され、2026年12月にイタリア(詳細は5月上旬に発表予定)で、27年5月にはパリ・オペラ座で上演されることが正式に決定した。

4月9日の記者会見で登壇したのは、公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)の髙橋典夫専務理事、東京バレエ団の斎藤友佳理団長、『かぐや姫』の演出・振付を手がけた金森穣、メインキャストの同団プリンシパルの秋山瑛、秋山の相手役に抜擢された同団ファーストソリストの大塚卓の5名。

冒頭では髙橋典夫専務理事が、東京バレエ団の海外公演がちょうどイタリア公演の初日に800回目を迎えることに触れ、この節目のタイミングに「日本人が作り、日本人が踊る作品を世界へ」という創設者・佐々木忠次の悲願がようやく結実すると語った。これまでも『ザ・カブキ』(モーリス・ベジャール演出・振付)のように日本をテーマにした作品はあったものの、正真正銘の国産のグランドバレエは2023年に完成した『かぐや姫』が業界初である。

Man in a black suit speaks into a handheld microphone against a backdrop of ornate classical columns and architecture.
日本を代表する演出振付家の金森穣は、「借り物ではない日本のバレエを国際的に発信していく時代が来る」と述べ、ガルニエ宮で「ある種のルネッサンス(再生)を起こして新たな芸術として昇華させたい」と強い意志をのぞかせた。

東京バレエ団から委嘱されて『かぐや姫』を制作した金森穣は、エリアナ・パヴロワが日本でバレエを教え始めたとされる年から今年でちょうど100年目にあたることに触れ、「いまや世界中のバレエ団に日本人のプリンシパルがいるが、足りないのは振付家だった」と指摘。パ・ド・ドゥやヴァリエーションの形式など、西洋が磨き上げた伝統的なバレエの構造を踏襲したうえで、日本独自の表現手法で新しい芸術に昇華させたいと抱負を述べた。

また、自らが薫陶を受けたというベジャールやキリアンとの繋がりが深い東京バレエ団との縁の深さについても言及し、「『かぐや姫』をきっかけに、東京バレエ団がさらに世界に羽ばたいていってくれると非常に嬉しい。そして『かぐや姫』が成功を収めることで、若い振付家たちに新しいバレエ作品を作って世界に挑むという夢を与えられたら」と、本作品が次世代にとって一条の光になるよう期待を寄せた。

Smiling Asian woman in a white blouse with a striped vest, posed in front of a grand neoclassical building backdrop.
「日本生まれの作品を、いつかパリ・オペラ座で」と強い祈りを抱き続けたという斎藤友佳理団長。

また、『かぐや姫』初演時は東京バレエ団の芸術監督で、現在は同団団長を務める斎藤友佳理は、海外公演の度に現地で突き付けられてきた「日本人の作品はないのか」という”問い”が、今回のプロジェクトの原動力だったと説明し、「必ずいつか実現させたいという気持ちが強くありました」と振り返った。当初は「小さな劇場でもいい」と自分に言い聞かせていたが、心の底ではバレエの聖地への憧れを捨てきれなかったという。「やっぱりバスティーユではなく、ガルニエでという強い想いがありました。ガルニエ宮が改修工事に入ってしまうって聞いた時に、自分がバレエ界に携わっている間は無理だろうと諦めていたのですが、そんな矢先にオペラ座から招待を受けることができました」(斎藤)

2017年の構想開始から、金森とは対話を重ねてきたが、決して平坦な道ではなく、時には互いの芸術観がぶつかり合うことも。特に、日本最古の物語である『かぐや姫』に、フランス人作曲家ドビュッシーの音楽を合わせるという金森の提案に対して、当初驚きもあったようだ。「私が何を言ってもここは絶対に穣さんはブレない。前に進むつもりだなっていう”覚悟”を感じました。そこからは何ひとつ迷いがなかったです」(斎藤)

月に魅せられたドビュッシーの幻想的な音楽は、月と光に象徴される『かぐや姫』の世界感と見事にシンクロし、情感あふれる作品を構成するのに欠かせない演出となったことは記憶に新しい。

また斎藤は、今回の海外公演が単なる興行ではなく、日本のバレエ界の大きな転換点になるという、力強いメッセージを投げかけた。

強烈な光を放つ存在ゆえに孤独を抱えるかぐや姫をたおやかに演じ切り、観客の心を捉えた秋山瑛(左)が、再び同役に挑む。ⒸShoko Matsuhashi

初演に続いて再びかぐや姫をメインキャストで踊るのは、可憐でありながら強靭なテクニックを兼ね備える絶対的エースの秋山瑛だ。「バレエをやっている人なら憧れの舞台である伝統的なパリ・オペラ座の舞台に立つことは夢のよう」と前置きしたうえで、新作として一から作り上げてきたプロセスを振り返り、「この作品に携われたのは、本当に光栄なこと。幸せをかみしめて踊りたい」と挨拶。

また秋山は、2024年にバレエ界の世界的権威であるブノワ賞にノミネートされた際、モスクワのボリショイ劇場で開催されたガラコンサートで『かぐや姫』の1幕のパ・ド・ドゥを柄本弾(東京バレエ団プリンシパル)とともに披露したが、月の形を模したリフトでは観客からどよめきが起きたというエピソードを斎藤団長が付け加えて紹介する場面も。「バレエには言葉がないからこそ、踊りを通して拍手をいただいたり、時には笑いが起きるなどして、舞台上でお客様と心の交流ができるのがバレエのすばらしいところだと思います。その地によって反応もさまざまですが、皆バレエを愛しているんだなって感じられる瞬間が何より大好きです」(秋山)

Man in a navy blazer speaks into a microphone, smiling during a presentation.
近年、秋山とパートナーを組む機会が増えている大塚卓。初演時には高貴な帝役で存在感を放ったが、再演ではかぐや姫が心を寄せる幼馴染の道児役に抜擢された。衣装協力:ジョゼフ オム

また、男性の主役である道児を再演で演じるのは、日本人離れした体躯から繰り出される情感豊かな伸びやかな踊りで頭角を現している大塚卓だ。入団7年目にして、『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』のような古典作品をはじめ、ベジャール振付の『中国の不思議な役人』『M』といった現代作品において、主要な役を射止めてきたが、海外の大舞台でさらに大きなステップを踏むことになる。

金森と斎藤団長が『かぐや姫』の構想を練り始めた2017年当時、大塚はまだ入団しておらず海外にいたことに触れつつ、「そんなに前から始まっていたプロジェクトの重みを、いま痛感している」とプレッシャーが圧し掛かっていることを吐露。5月の東京公演での道児役デビューを控え、パリを見据えながらも「まずは東京文化会館で瑛さんと新たな『かぐや姫』を演じられたら」と決意を語った。

桜に葉が混じり始めた4月上旬、新緑のような爽やかなドレスを纏った秋山瑛。衣装協力:マックスマーラ

また会見後には、秋山からパリ・オペラ座公演への想いと、『かぐや姫』についてさらなるコメントをいただいた。

「バレエといえばパリ・オペラ座、というくらい象徴的な場所で、東京バレエ団のオリジナル作品を踊れることはとても光栄ですが、昔から映像や雑誌などで何度も繰り返し見ていたダンサーたちが踊ってきた、ガルニエの舞台に踊り手として立てる機会をいただけることが、まだ信じられない気持ちです。この作品は、従来のコンテンポラリー作品とも古典とも違う、(金森)穣さんによる日本発、東京バレエ団発の全く新しいバレエだと感じています。フランスのお客様に、『かぐや姫』の物語をどう受け止めていただけるのか、未知の怖さもありますがとても楽しみです」(秋山)

初演を観た人もまだの人も、世界に向けて発信される、新たな『かぐや姫』をぜひ劇場で見届けたい。

従来のクラシックでもコンテンポラリーでもない、独自の美学が貫かれた身体表現が、世界に向けて発信される。5月の東京公演は、「初演に少し手を加えた改訂版になる」(金森)ⒸShoko Matsuhashi

ジョセ・マルティネス(パリ・オペラ座バレエ団 芸術監督)からのメッセージ抜粋

「東京バレエ団を再びガルニエ宮に迎えることができ、心からの喜びを感じております。(中略)ガルニエ宮の改修を控えたいま、この特別な瞬間に再び皆様をこの舞台にお迎えできることは、格別な喜びです。とりわけ、全幕『かぐや姫』のヨーロッパ初演を主催できることに心躍る思いでいます。日本に古くから伝わる物語が、新たな解釈によって命を吹き込まれる様を目撃することは、パリの観客と分かち合うべき贈り物となるでしょう。

シーズンチケットの発売が開始されたばかりですが、パリの観客からはすでに驚くほどの関心と、『かぐや姫』を見届けたいという期待が寄せられています。この熱気こそが、東京バレエ団と我々の観客との間の強い絆を物語っており、今回の公演が今シーズンのハイライトとなることに疑いありません」

東京バレエ団『かぐや姫』全3幕 プロローグ付き

会場:東京文化会館(上野)
5月5日(火・祝)13:00~
5月5日(火・祝)18:30~
5月6日(水・休)14:00~

問い合わせ先

NBSチケットセンター
03-3791-8888
https://thetokyoballet.com/ticket/

  • photography: Yuji Namba
  • hair & makeup: Yuki Ishikawa(Three PEACE)(Akira Akiyama)
  • text: Eri Arimoto