スーパー歌舞伎『もののけ姫』が7月から公演! 市川團子、主人公アシタカと『ヤマトタケル』に重ねる想いとは?
2026年7月から8月にかけ、スーパー歌舞伎『もののけ姫』が新橋演舞場で開演。歌舞伎界において「伝統と革新」の最前線を担い続けてきた澤瀉屋・市川團子が主人公、アシタカを演じる。

1986年、三代目市川猿之助(二代目猿翁)が、歌舞伎の伝統と現代的なスペクタクルを融合させ、現代語によるわかりやすいセリフまわし、ダイナミックで斬新な演出、『古事記』『日本書紀』に題材をとった『ヤマトタケル』は驚きを持って迎えられ、日本の演劇界に新たなジャンルを生み出した。その影響は、歌舞伎界の後進にはもちろん、舞台、映像、音楽などあらゆるジャンルに及ぶ。
それから40年——。スタジオジブリが1997年に公開、壮大な自然と人間の物語としていまなお愛される『もののけ姫』が、スーパー歌舞伎として新たに登場する。主人公、アシタカを演じる市川團子は、二代目猿翁の孫にあたる。2019年にも『風の谷のナウシカ』を新作歌舞伎として上映、その記者会見の席に立ったスタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫は、舞台化の経緯を「全然、覚えていないんです(笑)」と言いながらこう振り返る。
「『ナウシカ(歌舞伎)』の成功が大きかったんでしょうね。それから時間があまり経っていない頃、松竹の方から『次はもののけ姫を』、と多分言われたんですよ。それで首を縦に振ってしまった(笑)。スーパー歌舞伎にしたい、という話はおそらく去年でしょうか」
鈴木の友人でもある尾田栄一郎原作のスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』(2015年初演)を尾田本人と観に行っていた鈴木は、そのおもしろさを確信。「お話をうかがった瞬間、僕としては何の文句もない、だったらそれでやってください」と話がスタートしたのだという。
周囲からの反対を越えて成功させた『スーパー歌舞伎』と『もののけ姫』。
「『もののけ姫っていう企画を映画でやろうとした時、もういろんな方から反対されたんですよね。『映画で時代劇はもう流行らない』って。『ジブリとはいえ、宮崎さんとはいえ、時代劇を作るってのは違うんじゃないか』っていろんなご意見を伺いました。それをいろいろ一個一個クリアにして、映画にすることができて、おまけにそれがこうやって歌舞伎の世界で、もう一回再現できる。ちょっとね、感動してます」
そういう鈴木は、原作者となる宮崎駿監督のコメントも語る。
「『風の谷のナウシカ』そして『もののけ姫』にしろ、本格的にやろうとすると基本的には時代劇だよって、チャンバラなんだよね。それが歌舞伎になるっていうのは、ごくごく自然な流れじゃないかって、宮崎はこう言っていました」

「スーパー歌舞伎は、私の祖父が現代の人にも歌舞伎の魅力を伝えたいという精神のもと、命がけで創始したもの。今回、祖父がいない状態での初めてのスーパー歌舞伎の新作です」と語り始めた市川團子。
「『もののけ姫』という作品は、国内外でも本当に人気で、ジブリの代表作でもある本当に魅力的な作品です。 このふたつの大きな冠の中で新作を歌舞伎として上演するということに、正直怖さもあります。 ただ、しっかりと覚悟を持って、どうにかこの舞台で多くの方に感動していただき、そして明日を生きる活力となるような舞台になるように、皆で力を合わせて誠心誠意、舞台に向かっていきたいと思っています」
團子の言葉を受け、彼の父でもあり、今作では猪神である乙事主(おっことぬし)を演じる市川中車(香川照之)も、昔を思い出す。
「先ほど鈴木さんがおっしゃったように、86年に父(猿翁)がスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』で打って出た時も、周囲のほとんどから『やめた方がいい』という意見があったと聞いております。 しかし父が『ヤマトタケル』を成功させて 40年が経ちました。(父の)スーパー歌舞伎が最後に上演されたのは9作目『新三国志:完結編』の2003年。そして年が明けて04年の1月に團子が誕生しました。父が病に倒れたのも2003年の終わりから2004年の1月にかけてです。 『ヤマトタケル』を團子が主演しましたのが2023年、父が亡くなった翌年です」
父、祖父である猿翁への想い。

今回、記者会見の会場となった八芳園も中車にとって所縁の深い場所だった。父猿翁との思い出を、中車が語る。
「2012年に(猿翁、中車、團子の三代)襲名があったわけですけれども、今回と同じ新橋演舞場でございます。前年ごろから父と『僕は中車になりたい。許してもらえるかな』という話を、ずっとずっとしておりました。 その話をしていた場所が、実はこの八芳園の隣のマンションです。父は当時そこに住んでおりました。……八芳園の周りは駐車場がないんです。タイムスを見つけるのが本当に大変(笑)。八芳園のちょっと裏に2台分だけあったり、白金の方まで行かないとなかったり。何度も何度もここに通っていて、いまそのことを思い出しておりますが、私はいま、父がここに来てくれていると思っています。 父もこの会見にいると思います。 その熱を感じます。ですから、我々は本当にこの父の遺志を継いで、この 2026年の7月、8月の公演を伝説にしなければならない、そういう気持ちがしております」
共演する中村壱太郎が演じるのは、タイトルロールでもあるもののけ姫、山犬に育てられた少女サン。ファー素材が襟のアクセントになったディナージャケットで登場した壱太郎は、「僕の人生でいちばん大きな歌舞伎の記者会見になってます、こんなに人がいるの初めて見ました(笑)。それだけ注目されているということに、改めてワクワクとドキドキを感じています」とコメント。

「僕も歌舞伎のいろんな会見で『初めて歌舞伎を見る方、来てください』とか『歌舞伎が好きな方、すでにすでに観た事ある方もおもしろいです』って言ったりするんですけど、それだけにとどまらない壮大な世界がこの舞台で広がると信じています。『もののけ姫』のドキュメンタリーの中で『時代冒険活劇』という言葉があって、まさに我々歌舞伎の歴史を脈々と時代として感じながら、僕らいま冒険してるんですよね。初日、そして千秋楽まで活劇として冒険をしていく。舞台で生身で、ありがたいことに『もののけ姫』というタイトルロールを表す。その使命感も纏いながら、常にアンテナを張ってこの役を務めたいと思っています」
アシタカは「ヤマトタケル」に似ている。
「アシタカは、スーパー歌舞伎第1作の『ヤマトタケル』の主人公であるヤマトタケルに似ている人物だと僕は思っているんですね」という團子。
「ヤマトタケルは王子という身分(その後「兄殺し」という罪を着せられ、彼は都を追放されることとなる)。アシタカも、あのままいけば村の王になるべき存在だった。そして呪われた運命を背負って、それでも腐らずに前を向いて進むという点において、アシタカとヤマトタケルというのは共通するところがあると思うんです。ヤマトタケルを務めた経験を生かして、このアシタカに挑めるということは大変ありがたいことだと思っています」
そして、アシタカの「根本」だと團子が語るシーンは、物語のラストだという。
「『シシ神様がすべてのことを破壊して、そして新たな形で再生をする』というストーリーだと思うんですが、この『全てを破壊して、そして新たに再生する』という流れは、どんなに人が手を尽くしたとしても変わらない運命だったと思います。 それをただ諦めて見過ごすのではなく、アシタカという人物はどうにか共生の道がないか、みんながより良くなる道はないかと奔走したわけです。この奔走した姿が人々の心に残っていると思うんですね。この先何年、何百年、何千年と経っていった時に、そのアシタカの行動一つひとつが大きな影響を及ぼしていて、実は未来を大きく変えているんじゃないかなと僕は思っています」
スクリーンの魔術を超え、「いま、ここ」の舞台に紡ぎ出される、人、自然、魂の物語。新しく描き出される伝説を、決して見逃す手はない。
スーパー歌舞伎『もののけ姫』
2026年7月3日〜8月23日
新橋演舞場
⚫︎原作/宮崎駿
⚫︎出演/市川團子、中村壱太郎、中村時蔵、市川中車ほか
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