秋を彩る話題作が続々登場! 今月の映画3選。

Culture

秋を彩る話題作が続々登場。ベルエポックの美しき幻想に誘う『モネと時間旅行』、現代社会の歪みを鋭く描く『ワンオペレーション』、劇場初公開となるクロード・シャブロルの『ヴィオレット・ノジエール』。9月、映画館で楽しみたい3作品をピックアップ。


『モネと時間旅行』

©STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques

埋もれていた冒険譚が綾なす“美しき時代”の光芒。

デジタル制作に携わるセブは、先祖のアデルがノルマンディに遺した古屋敷を開発のために売却するよう、突如自治体の要請を受ける。親族こぞって屋敷を探索すると、古い絵画や写真が時の層に眠っている。色彩と筆触に創意を重ねて刻々の光の変化をモネが画布に定着したのと呼応し、アデルは時代を拓く芸術家にひらめきと変化を与えるミューズの血を継いでいた。19世紀末~20世紀初頭のベルエポックの華やぎと活気、アデルの冒険譚が、AI時代のパリで迷うセブの背中を押す。『猫が行方不明』(1996年)ほか90年代フランス映画界の彗星となったセドリック・クラピッシュ健在。モネの『印象・日の出』の誕生秘話も、過去・現在・未来の遥かなエコーを庭の「睡蓮」が繋ぐのも見逃せない。

『モネと時間旅行』
●監督・脚本/セドリック・クラピッシュ
●2025年、フランス映画 ●126分
●配給/セテラ・インターナショナル
●9月18日より、 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://monetojikan.com/

『ワンオペレーション』

© 2025 Legs Film Rights LLC. All Rights Reserved.

ワンオペ育児の暴風を描くダークコメディの冴え。

夫は船舶の仕事で長期不在。やんちゃな性格に加えて摂食障害を抱えた10歳の娘の育児はすべて、リンダの肩にのしかかる。娘の体重増加目標を達成できず、主治医の叱責も母たるリンダに向かう。トイレの水漏れで賃貸住宅の天井に大穴が開くという、笑うに笑えない追い打ちも。精神的な孤立無援と身辺トラブルのドミノ倒し。セラピストを本職とするリンダこそがセラピーを要しちゃうブラックユーモアの猛威。その暴風の内側から育児にまつわる現代の制度的な欠陥も照らし出される。心身を追いつめられ、見えなくなっていく娘の“顔”が、胸をえぐるドラマの肝をなす。母親のジェットコースター的苦境を演じきるローズ・バーンが、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(主演俳優賞)を受賞。

『ワンオペレーション』
●監督・脚本/メアリー・ブロンスタイン
●2025年、アメリカ映画 ●113分
●配給/東京テアトル、シンカ
●9月18日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開
https://synca.jp/oneoperation/

『ヴィオレット・ノジエール』

© 1977 ‒ Filmel Production / Edition René Chateau.

寒色の中に真紅が映える、サスペンスの臨界点。

仏ヌーヴェルヴァーグの発火点『いとこ同志』(1959年)と老年期の円熟作を除き、日本では不当に遇されてきた大監督の業績の掘り起こしがいま進んでいる。本作は「クロード・シャブロル傑作選2」の劇場初公開作だ。30年代のパリ、奔放な18歳の少女ヴィオレットは手狭なアパートで義父と母が情を交わすだらしなさに窒息寸前となり、毒殺を図る。この実話ベースの事件をシャブロルは、一命を取りとめた母と娘が合わせ鏡みたいに対峙する法廷サスペンスへと舵を切る。虚言癖のある悪女か? それとも旧弊な道徳観と不穏な時代相に歯向かう反逆のアイコンか? ヴィオレットの底知れない魅力を、イザベル・ユペールが氷のような光彩を纏って体現、カンヌ国際映画祭で女優賞に輝く。

『ヴィオレット・ノジエール』
●監督/クロード・シャブロル
●1978年、フランス映画 ●124分
●配給/コピアポア・フィルム
●8月28日より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて順次公開
https://claudechabrol2026.jp/

  • text: Takashi Goto

*「フィガロジャポン」2026年10月号より抜粋