『ルネサンス女性になる方法 絵画の裏に隠されたリアルな美容生活』ほか、今月気になる新刊5冊。
美容史から現代小説、評伝まで。いま手に取りたい話題の新刊5冊をピックアップ。ルネサンス期の女性たちの美の知恵に迫る『ルネサンス女性になる方法』、不妊治療に向き合う女性たちを描く『ハロー、ベイビー』など、多彩なテーマを映し出す注目作をご紹介。
01.『ルネサンス女性になる方法 絵画の裏に隠されたリアルな美容生活』

美意識も手法も先進的だった、当時の女性たちに学ぶ。
文:齋藤 薫 美容ジャーナリスト
以前「フィレンツェの女性の美しさはどこか絵画的。美のお手本は聖母像なのではないか?」と書いたことがある。この地に生まれた人にとって、街の至る所で出合えるルネサンス絵画以上の“美の規範”はないと確信したから。本書は、その仮説を裏づける驚きの内容となっていた。当時出版された美容本の詳細な解説は想像を絶するほど先進的なものなのだが、お手本は紛れもなく絵画の中のヴィーナスたち。それは現代にも通じる、本質を突くものだった。しかもこの時代に発明された鏡が、それまで金属板などに映る曖昧でしかなかった自分の姿をはっきり映し出したことが、どれだけ美意識を高め美への貪欲さを高めたか。たとえばフェイスクリームの材料がカタツムリにヤギの油脂、子牛の髄、という急進的だったことに、先人の知恵と情熱に圧倒され、読み進むほどにひれ伏すしかなくなる。痩身についてもパーツごとのメソッドが提示され、16世紀には魔女狩りの危険を孕みながらも主流となったアンダーヘアの処理、膣の引き締め的な話題もあったりして、フェムテックはある意味いま以上に定着していた。水銀や鉛などを使った白粉で命懸けの美容を強いられた話もありつつ、意識から手法までがことごとく先鋭的。それも女性がただ男性の庇護のもとに生きるしかなかった時代、外見を磨く以外、幸せに生きる術が見当たらない現実があり、それこそ命懸けだったのではないか。巻末の手作り化粧品のレシピ集はもう圧巻と言うほかないが、その濃密さには恵まれた現代の美容以上に、生きていくための気概を感じる。しかしそういう努力は人に見せない「スプレッツァトゥーラ」という価値観から、化粧でも“生まれつき美しいかのように自然に見せる技”を磨いたとされ、それこそがルネサンス期に洗練がひとつの頂点を極めていた事実を物語る。まさにその引きの美学と他者の心を捉える優れた感性を、いま私たちはルネサンス女性に謙虚に学びたいのだ。フィレンツェの女性たちがいまも絵画のように、美しいように。
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齋藤 薫
Kaoru Saito
美容ジャーナリスト
東京都生まれ。女性誌編集者を経て独立、美容ジャーナリストに。 数々の女性誌で多数連載を持ち、 美容記事の企画、化粧品の開発・ア ドバイザーなど幅広く活躍。近著に『年齢革命 閉経からが人生だ!』(文藝春秋刊)など。
02.『ハロー、ベイビー』

不妊治療クリニックで出会った、6人の女性たちの希望と葛藤。
44歳のムンジョンはソウルにある不妊治療のクリニックを訪れる。コロナ禍を理由に最低限の協力しかしてくれない夫。気持ちを分かち合えるのは患者仲間で作ったSNS上のトークルーム、ハローベイビーだった。パートナーなしで卵子凍結を試みる人、避妊していたが子どもを授かり、好きな仕事を辞めた人、それぞれの事情を抱えて孤独だった女性たちが緩やかに連帯していく。不妊治療の経験者でもある著者が描く希望と葛藤の物語。
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03.『あなたに訊きたいことがある』

ミステリー仕立ての物語が暴く、ミソジニーが引き起こす闇。
人気ポッドキャスターのボディは、かつて母校で起きた事件を再検証することになる。当時ルームメイトだった少女はなぜ殺害されたのか。犯人は逮捕されたが、ボディには別の心当たりがあった。ピュリツァー賞の最終候補にもなった作家がミステリー仕立ての物語で描き出すのは単なる真犯人捜しではない。人種差別、スクールカースト、女性が性の対象として消費される状況、理不尽な価値観が引き起こす闇に分け入った告発でもある。
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04.『スナックふたり』

ふたりのママが営むスナックに、この世ならざる客がやってくる。
司と逸子が営む「スナックふたり」は、2時間3500円でカラオケは別料金。真冬なのにTシャツに半ズボンで現れた一見さんは、常連客しーやんの席に座ると本家しーやんと呼んでほしいと言う。ランドセルを背負った子どもがハイボールを注文して「ぼく、しんでから、もう三十年いきてるんだよ」と言い出す。この世ならぬ不思議な場所を描くのはこの作家の真骨頂。居酒屋小説の傑作『センセイの鞄』を彷彿とさせる新たな名作の誕生。
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05.『写真があってよかった。─森山大道伝─』

日本を代表する写真家・森山大道、創作の軌跡を振り返った初の評伝。
荒れた粒子、ブレ、ピンボケなどそれまで失敗とされていた表現を取り入れた写真で独自の世界を切り拓いた写真家の森山大道。グラフィックデザイナーとして出発した原点。横尾忠則、三島由紀夫ら同時代の表現者たちとの出会い。スナップショットにこだわり続けた路上のカリスマの創作の軌跡は戦後日本の写真史でもある。長年インタビューを重ねてきた著者が貴重な証言で掘り下げた初の評伝。
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- text: Harumi Taki
- edit: フィガロジャポン編集部
*「フィガロジャポン」2026年10月号より抜粋 *紹介した商品を購入すると、売上の一部がmadameFIGARO.jpに還元されることがあります。