Kawakyun 革の魅力を語り合う、若手タンナー・スタイリスト座談会。
Fashion 2025.03.01
PROMOTION
革の産地・兵庫県姫路市を拠点にする若手タンナーたちと、革きゅんで数多くのレザーアイテムを紹介してきたスタイリストによる座談会を開催!
靴やバッグ、革小物など、私たちが愛用するレザーアイテムの素材である革をつくるのは、タンナーと呼ばれる製革業者の職人たち。そのなかでも若手のタンナーは、革がサステナブルな素材であることを広く伝えようと、情報発信にも積極的に取り組んでいる。姫路市のイサム製革の中島隆満さんと、坂本商店の坂本悠さんもそうしたタンナーたちだ。
そして、革きゅんのSLGとSHOESの企画でスタイリングを4年間にわたって担当し、これまでに124記事・372点もの日本産革でつくられた素敵なレザーアイテムを紹介してくれたのが、スタイリストの小笠原夏未さん。そんな3人による座談会が実現!革について深く知るそれぞれの立場から、革という素材の魅力や楽しみ方、パーソナルなレザーアイテムの思い出を語り合った。
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つくり方次第で、革の色や風合いの表現は無限大!
中島隆満さん(以下、中島) 姫路の高木でタンナーをやってます、イサム製革の中島隆満です。紳士靴に使われる「ガラスレザー」と呼ばれる革を得意としていますが、基本的にお客さんから「こんな革が欲しい」という要望に応じて、ほぼオーダーメイドで製造しています。
坂本悠さん(以下、坂本) 坂本商店の坂本悠です。「姫路黒桟革(ひめじくろざんがわ)」という、この姫路地区でもかなり特殊な革なのですが、漆を塗って仕上げるレザーを主につくっています。歴史的にも古く、もとは武将の甲冑に使われていた革で、いまでは剣道防具などに使用されています。
小笠原夏未さん(以下、小笠原) スタイリストの小笠原夏未です。ウィメンズのスタイリングをメインに、雑誌や広告、ウェブ媒体のほか、ファッションブランドのシーズンビジュアルなども手がけています。
先ほど見学した「ペレテリア」では、あれだけたくさんの種類の革を一度に見たのが初めてでした。「鞣し」という言葉は知っていましたが、鞣しの違いによってあそこまで表情を変えられると知り、新たな発見がありました。もう4年ほど革きゅんでSLGとSHOESのスタイリングを担当していても、まだまだ革の深いところまでは理解できてないんだなとあらためて感じました。
坂本 スタイリストというお仕事をされているので、「この色の少しくすんだ感じがいい」とか、僕らよりもちょっとした違いを感じていらっしゃった気がして、そうしたことは僕らも勉強していきたいなと思いました。
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小笠原 実は革きゅんに携わる前は、革にはメンズっぽいイメージがあったのですが、探してみると綺麗なペールトーン(*1)だったり、女性の好みそうな色味やデザインの革アイテムが想像以上にたくさんあって、革の見方が変わりました。女性ももっと革アイテムを持てる!と視野が広がった気がします。
革きゅんでは日本産革を使ったアイテムを紹介するので、いつも各ブランドに革の産地やタンナーさんを確認していますが、女性好みの色の革は「姫路レザーです」と言われることが多くて。いまではSNSで「#姫路レザー」で検索してアイテムを探しています(笑)。綺麗な色味は、姫路のレザーの特徴なのでしょうか?
*1 淡く澄んだ色味。シャーベットカラーとも呼ばれる。
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中島 そうなんですね。姫路はやはりタンナーの数が多く、いろんな革をつくるタンナーが集まっているので、それで確率が高いのかもしれないですね。
小笠原 逆に「パートナーに贈りたいメンズアイテム」といったテーマで探すと、栃木レザーさんなど、植物タンニン鞣しの革が多い印象です。
坂本 栃木レザーさんだと、おそらくピット槽(*2)を使って、長い時間かけてタンニンを入れていく鞣し方ですね。姫路でも山陽さんや新喜皮革さんがその手法で鞣しています。革が比較的硬めに仕上がるので、確かに女性よりは男性が使うイメージかもしれません。
仕上げ方にもよりますが、植物タンニン鞣しの革は革そのものの色や風合いを生かすことが多く、たとえばそこに綺麗な青の染料を入れたとしても、染料自体の色が出ないこともあります。でも使っていくうちにどんどんなじんで、自分だけの色になっていく魅力があります。その点ではクロム鞣しのほうが染料の付きがよく、綺麗に仕上がることが多いと思います。たいていはその後さらに仕上げの工程があるので、一概には言えないのですが、それぞれの革のよさがありますね。
*2植物の樹皮から抽出したタンニンを含む溶液に原皮を漬けこんで時間をかけて鞣していくための、プールのような形状の桶。
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中島 鞣し方によって強度も違いますよね。革は工程が多い素材なので、とても複雑で、言葉だけではなかなか伝えきれない部分が多いんです。
小笠原 確かに、実際に見てみないと想像ができないですね。デザイナーやファッション関係者がタンナーさんの工場を訪れることはありますか?
坂本 うちはどちらかというと多いほうかもしれません。東京のブランドの方が来られたり、年に1~2回海外の展示会に出ているので、その時にぜひ現場を見てみたい、と海外から訪問されることもあります。
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それぞれが愛用する、思い出の詰まった革アイテム。
坂本 3点ほど持ってきました。まずこの財布の緑の革は、僕が入社して初めて色などを自分で調合してつくった革で、いまでも流通している素材なので、その意味でもすごく思い出があります。
中島 いいエピソードもってますね。羨ましいです(笑)。自分が手がけた革を使った製品が店頭に並んでいるのを見ると、「わあ、これ俺がつくった革や」ってテンション上がりますよね。
小笠原 そういう実感が湧く機会があるの、いいですね!
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坂本 この革の上の黒い部分が漆で、ライトを当てるとキラキラ光るのが特徴です。京都のメーカーさんにつくってもらった、お札を折らずにぐるっと巻き込むように入れられるコンパクトなサイズです。もうひとつの黒い財布は、漆を塗った象革で、独特のシワ感のある革なのではじめはうまくいくか不安でしたが、意外と綺麗に漆が乗りましたね。
小笠原 象の革、初めて見ました!
坂本 そして、スマートウォッチ用の替えのベルトです。これはうちで制作も手がけている自社商品なんです。コロナ禍にお客さんと直接会う機会がなくなってしまい、革はどうしても写真だけではよさが伝わらない、実際に触ることで初めてわかる部分があるので、製品化してしまえば消費者の方とも繋がりができるなと思ってつくった商品です。それ以来販売しているので、思い出があります。
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中島 僕が持ってきたのは、妻が誕生日に買ってくれた財布です。神戸でいいものを探そうと一緒にいろんな場所を回って、たまたま入ったお店で見つけました。はじめはもうちょっと明るいグリーンやったんですけど、いまはくすんだグリーンになってきて、手にもすごくよくなじんでいます。たぶん牛革で、銀(革の表面)を軽くペーパーで擦って後処理をしている革だと思うので、肌目がすごく細かくて綺麗なんです。
小笠原 プロの視点ですね(笑)
中島 はじめは色に惹かれました(笑)。マチの部分が剥がれてきたので、修理に出そうかと思っています。たぶん修理しながら使うことで、もっと思い入れが深くなっていくんだろうなと思います。
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小笠原 私が持ってきたのは、20歳の時に両親が連れていってくれた旅先で出合ったブーツです。シンプルで長く使えそうだなと思って購入しましたが、実際にそれから10年ほどずっと愛用しています。おふたりには怒られちゃいそうですけど、メンテナンス全然していないんです(笑)。雨の日も雪の日も履いていて、もう自分の足にすごくなじんでいて、これからもずっと履き続けるだろうなと思っている一足です。
中島 見た感じだとたぶんガラスレザーですね。ガラスって撥水性が高いので、水が浸透しにくいんだと思います。
小笠原 そうなんですよ。本当に土砂降りでも大丈夫(笑)
中島 できればその後よく乾かしていただいて(笑)。やはり革は水に弱くて、水が浸透したままだと、表面の塗膜が剥離しやすくなってしまうので。まあ、よほど水にずっと漬けっぱなしでなく、普通に履いているぶんには大丈夫だと思うんですけどね。
小笠原 今後は気をつけます!あと私、仕事で使う大容量のレザーバッグを探しているんです。ウィメンズだと大きいものがあまりなくて、メンズも視野に入れています。革は丈夫だから、旅行バッグとしても重宝しそうですよね。さらに希望を言えば、置いてもくたっとならない、自立するバッグを探しています。きっと大人の女性はそういうレザーバッグを求めていると思います(笑)
中島 革は重さがネックになってくるので、大きくて軽いウィメンズのバッグがあったら、けっこう売れるかもしれないですね。見つかることを願っています!
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日本のタンナーがつくる、日本産革の魅力。
中島 革は生き物からいただいた素材なので、日々のちょっとした湿度の違いや天気によって状態が全然変わってきます。そこをきちんと革を触って見極めつつ、細かい調整をして、1日100枚という単位で安定して革をつくっていけるのは日本のタンナーならではだと思います。
小笠原 日本には四季がありますが、その時々の温度や湿度をすべて調整してつくっているんですね。
中島 実は四季のある日本で革をつくるのはけっこう難しいんです。たとえば寒い地域の国なら、工場全体を暖房管理して、一定した条件でつくれたりするんですけど、日本は梅雨の時期は湿気も多いですし、大変です(笑)。漆はどうですか?
坂本 漆は、梅雨の時期がいちばんいいんです。湿度と温度がないと漆は乾かないので、専用の部屋で1年中梅雨のような環境をつくって調整しています。革は夏と冬で乾燥する日数も変わりますよね。革の水分量によって、硬さや風合いもすべて変わってくるので、そうした調整もタンナーさんそれぞれが独自のやり方で管理しながらやっています。
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革は余すところなく使える、環境に優しい素材。
中島 消費社会においてひとつのものを長く使うというのはエコなことなので、その意味で長く使える革はベストな素材だと思います。
坂本 革は食肉の副産物を活用してつくっているので、それ自体がエコですし、長く使うことで、さらに環境に優しいですよね。タンナーである僕らは、命に近い部分にいて、その大切さを深く感じているので、そうしたことも発信していけたらと思っています。
小笠原 SLGで紹介したアイテムのなかには、バッグや財布をつくるときにどうしても出てしまう革の端材を使ったアイテムがたくさんあったのが印象的でした。余すことなく、使えるものはすべて使って、デザインとして生かしたり、アイテムをつくったりできるところが革のよさだと思いました。レザーを使ったリングを紹介したこともあって、革の部分は本当に小さいけれど、すごく素敵でした。
中島 革は小さくても存在感を出してくれる、いい素材ですよね。
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革のプロたちが、お互いに聞いてみたかったこと。
小笠原 先ほどペールトーンの色味の話をしましたが、いまとても薄いクリームと黄色の中間のような色のトレンドが続いていて、特にファッション感度の高い子たちが好きなのですが、そういう色の革もつくれますか?
中島 ご依頼があれば全然つくれますよ!うちはメンズ寄りの商品が多く淡い色は少ないのですが、お客さんの依頼があれば製造できます。小笠原さんは、スタイリスト目線で「このアイテムで、革製があったらいいのにな」と思うもの、何かありますか?
小笠原 実は考えてみたんですが、これが革だったらいいのに、というものはもうだいたい革でつくられてました(笑)。でも、さっき革は水に弱いという話が出ましたが、きっと革の傘はまだないですよね。以前、コム デ ギャルソンというブランドが紙袋をコーティングしたバッグを出して、すごく流行ったのですが、紙も水に弱い素材です。弱点があってつくれなかったものができたら、新しいものを生み出せそうな気がします。
中島 実は、傘用の革の依頼は以前あったんですよ。傘の内側に革を貼って、そこに絵を描きたいという方がいて、すごく薄い革をつくったことがありました。
小笠原 そうなんですね。傘の持ち手の部分がレザーなだけでも可愛いかもしれない。つくるのが難しいからいままでなかったものを、革でつくれたらいいですね。
中島 ありがとうございます。いいアイデアをいただけました(笑)
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革アイテムを大切に使い、育てていく。
小笠原 スタイリングでも私服でも、革は重厚感をプラスしてくれるもの、というイメージがあります。服がシンプルでカジュアルでも、たとえばレザーバッグを持っていたら全体が引き締まる、そんな存在です。靴やバッグ、ベルトなど、革アイテムをスタイリングのポイントに取り入れて、楽しんでいただけたらと思います。
中島 いま若い人たちはファストファッションに目が行きがちで、流行のサイクルが早いと思うんですけど、そのなかで靴やバッグなど、何か一点でも心に響くような、お気に入りの革アイテムを見つけて買ってみてほしいですね。革は自分と一緒に育っていく素材なので、まずは実際に触って、そのよさを味わってほしいです。
坂本 ひとつでも気に入った革アイテムが見つかれば、そこからどんどん興味が出てくるのではと思います。ほかの素材と比べると高価なイメージはあるかもしれませんが、小笠原さんもブーツを10年履かれているように、長く使えるものですし、使うほど愛着も湧いてくると思います。
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中島隆満 Ryuma Nakashima さん
1993年生まれ。姫路市出身。幼少期から絵を描くことなど、ものづくりを得意とする。神戸の芸術系の大学でイラストを専攻し、さまざまな文化を学ぶ。その後アメリカに約3年留学。2018年からイサム製革にて現場で働きだす。現在は牛革をメインにガラスレザーやクリスタルレザーなど多様な革素材を製造・販売している。
https://www.kawa-ichi.jp/tanner/isamu/index.html
@isamu.leather
坂本 悠 Yu Sakamoto さん
1992年生まれ。姫路市出身。物心ついた頃から家業を見て育ち、自然と革に対する興味が芽生える。大学卒業後は一般企業に勤務し、社会経験を積んだ後、2019年より坂本商店にて本格的に革づくりに携わる。日々革づくりの現場にて、職人としての技術を磨くために試行錯誤を重ねている。現在は牛革に加えてエキゾチックレザーの鞣し・加工にも挑戦し、革製品の多様な可能性を追求。休日には趣味の野球でリフレッシュしている。
https://himejikurozan.net/
@himejikurozan.tannery
小笠原夏未 Natsumi Ogasawara さん
1993年生まれ。金沢市出身。文化学園大学服装造形学科にて服作りを学び、卒業後はバンタンデザイン研究所スタイリスト科に入学。卒業後スタイリスト山口翔太郎氏に師事しアシスタントとして国内外のさまざまな媒体に関わる。2020年秋に独立。東京を拠点として「フィガロジャポン」や「シュプール」などのファッション誌、タレント、広告を中心に活動中。いま興味があることは陶芸と古道具。
@natsumi.ogasawara
ペレテリア
兵庫県姫路市花田町高木124
https://pelletteria.uniters.co.jp
@pelletteria.official
*日本タンナーズ協会公式ウェブサイト「革きゅん」より転載
photography: Shin Ebisu(portraits), Kae Homma(SLG)