シャネルのクラシック ハンドバッグ「11.12」が生まれる、サヴォワールフェールの工房を訪ねて。

Fashion

マドモワゼルが考案したクラシック ハンドバッグ「2.55」、カール・ラガーフェルドが生んだクラシック ハンドバッグ「11.12」。リュクスとクリエイティビティを象徴するアイコニックなバッグが生まれる工房は、パリの北60キロの町ヴェルヌイユ=アン=アラットにある。

繊細な手仕事を行う職人たちのために、採光とアコースティックにも最大の注意が払われている。新作のプロトタイプから各種のバッグ開発、修理も司る。

ダイヤモンド形のキルティングが施された柔らかなラムスキン、両手を自由にしてくれるチェーンストラップとさまざまなオブジェを収納する7つのポケット、中味を見つけやすくしてくれるバーガンディカラーのレザーライナー。1955年、自由で活動的な女性たちのためにガブリエル シャネルが考案した「2.55」は、時を超えて愛されるアイテムとなった。83年にカール・ラガーフェルドによって再解釈された「11.12」とともに、ブランドのエスプリを凝縮したアイコニックなバッグだ。

クラシック ハンドバッグ「11.12」。80年代、カール・ラガーフェルドは「2.55」のコードを踏襲しつつ、ダブルCのクラスプとレザーを編み込んだチェーンのストラップで伝説のバッグを再解釈した。

このバッグの故郷は、コンピエーニュに程近いヴェルヌイユ=アン=アラットの工房。ガブリエル・シャネルの恋人だったエティエンヌ・バルサンゆかりのこの地方で、シャネルは1986年以来バッグを作り続けてきた。2021年に完成した2400平方メートルの工房では、300人の職人を含む500人が働いている。

シルクやツイード、羽根や刺繍の装飾を施したものなど、コレクションごとにさまざまなバリエーションが提案される「11.12」。カーフスキンのクラシックモデルでもその工程は180ステップを数え、最大15時間の手作業が必要だという。工房ではシャネルのバッグに特有のサヴォワフェールを身につけるための教育も行われており、4年から5年をかけて完璧なテクニックを身につけてゆく。

ラムスキンは厚さ0.9〜1.0mm、カーフスキンは1.2〜1.4mm。手触りと視覚で強度や肌理の均一性をチェック。

クオリティへのこだわりは素材から始まっている。高い技術を持った提携なめし工場から届くレザーは、まず厚さや肌理、染めの均一性などの品質コントロールを受ける。職人の目と手触りによる入念なチェックをパスしたレザーだけが、縫製工程に送られていく。

ことに強度を必要とする底やフラップ部分を背の部分に置き、バッグ全体の調和を考慮しながら効率よくパターンを配置するカット職人。

バッグは大小50ものパーツから構成されている。縫製部門ではまず、キルティングやダブルC、ポケットの縫製や金の刻印など、各パーツの準備を整える。キルティングの幅、刻印のムラ、バッグの背面とポケットの柄合わせなど、手がけた職人自身によるセルフコントロールも徹底されている。

左:ダブルCをステッチ。 右:ゴールドでmade in Franceとシャネルのレタリングを刻印。

全てのパーツの準備が整ったら、いよいよバッグの縫製へ。マドモワゼル・シャネルのバッグは、ジャケットを縫うのと同様の手法で縫製された“クチュリエのバッグ”。手袋に使われていた柔らかなラムスキンを使い、表から縫い目の見えないシャネルのバッグは、“バッグ・イン・バッグ”と呼ばれる独特の縫製方法で作られる。キルティングの施された外側のバッグとライニング、二つのバッグを別々に縫い上げて中表に合わせ、最後にくるりと手早く裏返す。ミリ単位で正確に裁断され、縫い合わせられたパーツだからこそ、別々に縫製された表と裏がぴたりと重なり合う。内側からヘラで形を整え、槌で縁をトントンと叩いて、バッグのクリアで美しいフォルムが出来上がる。

バッグ・イン・バッグの手法で縫製した本体を手早く裏返す作業はまるでマジック。

表に返したバッグをヘラで内側から整え、縁を槌でトントンと叩き美しいフォルムに仕上げていく。
形が整ったバッグに、最終のステッチを施す。

レザーを編み込んだチェーンストラップは「11.12」のシンボル。縫い上がったバッグは、クラスプやホック、ハトメなどの金属パーツとチェーンストラップを取り付けて、いよいよ最終コントロールに臨むことになる。

三つ折りにしたレザーを手早く、正確にチェーンに編み込んでいく。少しのたるみもひきつりも許されない。

完成したバッグは、1点ずつ綿密なチェックを受ける。キルティングの柄合わせ、背面ポケットの位置、ハトメのバランス。ファスナーとクラスプの開閉。そしてレザーチェーンの仕上がり具合。最後に吊り下げたバッグのチェーンから本体までの長さをチェックして、バッグはようやく、顧客の元へと旅立っていく。

最後にストラップから本体までの長さを測って、コントロールが終了する。

館内には耐久テストを行うラボや、アフターケアプログラム「シャネル・エ・モア」の一環であるリペア部門も併設されている。まさにバッグの全てに捧げられた工房だが、単にサヴォアフェールを受け継ぐだけではない。カンボン通りのクリエイションスタジオやメティエダールのメゾンと連携する開発チームを持ち、年8回の新作コレクションのために、絶えずアイデアが生まれる場所でもあるのだ。

マドモワゼル・シャネルのオリジナルに立ち返り、マチュー・ブレイジーが再解釈した2026年春夏コレクションで登場の「2.55 クラッシュ」。

表情の「2.55 クラッシュ」も、この工房で生まれた。マチュー・ブレイジーがデビューコレクションのために望んだのは、オリジンに立ち返ってそのコードを再解釈することだったという。クラスプ、ビジューチェーンはそのままに、持ち主が愛用し使い込んだバッグの姿を表現したい。その要望に応えるため、開発チームはレザーにパティーヌを施し、持ち主の望むフォルムを実現するメタルシートを入れたバッグを作り上げた。

誕生から70年を経て新しい息吹を得た「2.55」は、世代を超えて愛用され伝えられていくバッグの姿を象徴する。ヴェルヌイユ=アン=アラットの工房は、クチュリエのバッグのサヴォアフェールを伝え、明日のクリエイションを支える場所なのだ。

問い合わせ先:
シャネル カスタマー ケア センター
0120-525-519(フリーダイヤル)

  • photography: Courtesy of Chanel
  • text: Masae Takata (Paris Office)