シャルロット・ゲンズブールが10個のハートを付けた香りとは?【オーセンティックな香り】

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翻訳家、作家、ジャーナリストの村上香住子が、これまでの人生で出会ってきた“オーセンティック”なモノ・コトを綴る新連載がスタート。身近にありながら忘れかけていた香りや旅の記憶、そして本物の贈り物——日常を豊かにするエッセンスをお届けします。


夜になると、ふわふわしたグレイのかたまりが、私の首に巻きついて寝ていた愛猫「ピカビア」を見送ってから、もう4ヶ月になります。猫のいない生活には、いつまで経っても慣れません。

先日「ピカビアのご霊前へ」といってとてもいい香りのインセンス(シン ピュルテ)、箱入りの線香をもらいました。「レスト・オブ・マインド」と書かれていて、こころの休息という名前からして、ふわっとこころが浮いてくるようです。ピカビアもきっと喜んでくれるでしょう。

ベルガモットとカモミール、洋ナシとフリージアの織りなす繊細な香りが、部屋中に充満してくると、その懐かしく、心地いい香りに、すっかり取りつかれてしまいました。これまでの香りと、どこかちがっていて、とてもミステリアスなのです。

雨の昼下がりとか、ひとりで家にいる時に、この香りがゆるやかに漂ってきたら、きっとしあわせなヴェールに包まれて、「レスト・オブ・マインド」の虜になるかもしれない。そんな感じでした。

大脳に作用して、癒しの波を送ってくれるというエビデンスもあるそうですが、それはともかく、私はすっかりこころを奪われてしまったのです。

それで思い立って、シャルロット・ゲンズブールにプレゼントすることにしました。香りはシャルロットも大好きなので。

彼女は今パリを離れてロンドンに住もうとしているので、ロンドンの新住所に送ることに。数日後、シャルロットからショートメールが届きましたが、そこには10個のハートマークと、「レスト・オブ・マインド」が燃えている写真、そして素晴らしい、というワードの脇に幾つかのびっくりマークも添えられていました。

気に入ったものは、つい誰かに贈りたくなるものです。それも相手の反応がシャルロットみたいだと、余計嬉しくなります。

先日、梅里のプティ・カフェ「スピール」で、東京ではなかなか買えない海外の最新雑誌を扱っているエミさんに会ったら、ハーブの花束をもらいました。きれいな花束もうれしいけれど、ハーブの葉の束は、半透明の紅色の油紙に包まれていて、何かスペシャルな贈り物に見えました。近づくと、いい香りが漂ってきます。

こんなハーブ束が、花屋の店頭で売っていたら素敵だろうな、と考えたりして。

ローズマリー、バジル、ペパーミント、といったエミさんのハーブはどれも、スーパーの片隅で買ったものではなく、自宅のテラスで育てたものだそうです。長さも不揃いでばらばらですが、実にさりげなく、とてもハートフルな束になっていました。

「出かける前に摘みました」とエミさん。

たしかにまだピンとした張りがあって、フレッシュ感に溢れています。

早速自宅でフレッシュ・ハーブティーを飲むことに。ハーブと一緒に、私はよく春菊を千切って入れたり、ミカンの皮を入れたりします。春菊を入れると、野の草の香りがして、いい味になるのです。ミカンの皮はパリのレストラン「セプティム」で、ガラスのティーポットにハーブと一緒に入っているのをみて、私もそうするように。

コップの水に漬けておいたので、翌日もまだハーブたちはピンとしていました。それをみてふと思いついたのは、ハーブのスチームです。家の中のどこかを探せば、今では使わなくなったフェイスのスチーマーが出てくるかもしれないけど、あれはフレッシュではなく、オイル使用でした。

だったらフレッシュ・ハーブに沸騰したお湯をかけて、バスタオルをかぶって顔を湯気に当ててみよう。なんだかレトロ感満喫ですけど、新鮮なハーブの香りが直に伝わってきて、とても心地よく、想像以上に肌も潤った感じになりました。 

オイルではなく、フレッシュ・ハーブを使ったスチーマー、どこかでそんな製品を出して欲しいものです。

 「その本はなに?」

エミさんが持っていた、綺麗な淡い色調のフランス語の本の表紙には「ヴィオレット(すみれ)」もう一冊には「マグノリア(木蓮)」と書かれていました。

「これは香りが専門のフランスの出版社、ネ・ゼディッションというところが出しているもので、天然素材の魅力と奥深さを伝えるシリーズの本です。この他にラヴェンダー、薔薇、ジャスミンなどがあります。香りや植物が好きな人なら、きっと気に入る筈です」

手に取ってみてみると、その花に関する文化的な意味や、植物としての知識、などあらゆることがとても見やすく書かれています。

たとえば「マグノリア」の中には、この花の香りはエルメスの「ジャルダン・シュール・ラグーン」やゲランの「ランスタン」に使われているということを、図解で一目でわかるようになっています。

本棚に飾っておくだけでも、素敵な本です。

贈り物にしたり、贈り物をもらったり、香りは人を繋ぐようです。

『NEZ The Naturals Notebook』Nez Éditions刊 各¥4,510/レゾンド ウェブサイトから購入可

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翻訳家、作家、ジャーナリスト。訳書としてはアンリ・トロワイヤのロシア文豪伝三部作『ドストエフスキー伝』『ゴーゴリ伝』『チェーホフ伝』(すべて中央公論新社)を翻訳する。その他、ボリス・ヴィアンの『ぼくはくたばりたくない』(早川書房)など。1985年よりマガジンハウス、1996年より「フィガロジャポン」のパリ支局長に。20年間のパリ生活のエッセーやパリ文壇との交流記『反記憶』(幻冬舎)など多数。近著は2024年の『ジェーン・バーキンと娘たち』(白水社)。最新刊は『おしゃれなマナーAtoZ パリで暮らして知ったミューズたちの素顔』(CEメディアハウス、2026年)。バーキン、サガン、サンローランなど、本物のパリセレブとの知られざるエピソードと、目の当たりにした本物のマナーの数々を紹介。