天職を見つけた女性たち。#03 【パリの素敵な仕事人】調香師に魅入られ、自らブランド創業。
Paris 2019.01.26
書籍の制作を通して出合った調香師に魅了され、香りのブランドを創業したクララ。思えば香水とは、5歳の時から憧れていた聖なる存在だった。
クララ・モロイ
「メモ・パリ」クリエイティブディレクター
カンボン通り、列車のオリエント・エクスプレスを思わせる外観のブティック。これがメモ・パリだ。クララが夫のジョンとこのコンフィデンシャルな香りのブランドを創設したのは、2007年。通りの並びに店を構える香水のキリアンとほぼ同時期だ。「真のリュクスとは何か、と人々が問いかけていた時代ですね。香りの世界でいえば、それは広告費をかけた高価な香水ではない。いい素材を用い、個性的で、想像力を広げてくれて、持ちがよく、使い手が愛着を感じられるものこそリュクスです。ブランドのコンセプトを旅にしたのは、私たち夫婦のパーソナリティを反映させるものとして最適だったからです。ふたりとも場所には魂があり、旅は私たちの内面に宿るもの、と信じています」
ブータンの巡礼地タイガーズ・ネスト、エチオピアの高地の村リベラ、ミャンマーのインレー湖など、アールデコ調のボトルに刻まれている香りの名前には地名が含まれている。どこもクララたちが旅をし、心に強く刻まれている場所だ。
「旅先の土地の名前は、私と調香師の架け橋なのです。その土地について私が調香師に語り、調香師とともに夢を描き、そこから素材のアイデアが浮かんできて……後は調香師のエモーションに任せるようにしています。香水の分野では女性が少ないので、あえて女性の調香師を選ぶよう努めているんですよ」
香水ブランドを起こすきっかけとなったのは、『22名の調香師たち』という本を出したことにある。その時期、芸術系雑誌を出していた彼女は、広告集めやスポンサー対策などに少々疲れていた。調香師たちが創香にかける情熱に接し、彼らの創造性を自由に発揮させられるブランドを持とう、と決めたのだ。クララにとってアイデアを持ち、それが芽生え、成長するのを見るのが、仕事においてかけがえのない喜び。2017年、ロンドンでふたつめのブランドをデビューさせ、パリでは最近ノンアルコールの香りのブランド Hermetica の店を開いたところである。
「香りとの出合いは5歳の時。母にギ・ラロッシュの香水フィジーをねだりました。買ってもらえたけれど、つけることは許してもらえませんでした。母の賢いやり方でしたね。というのも、眺めるだけの幼い私にとって、香水はフェミニニティを手に入れるための聖なる存在と化したのですから」
Clara Molloy
1972年 スペイン人の両親のもと、パリに生まれる
1990年 大学でフランス文学とジャーナリズムを学ぶ
1995年 卒業制作として月刊芸術誌『Création』を創刊
2006年 書籍『22 Parfumeurs en Création(22名の調香師たち)』を上梓
2007年 香水ブランド、メモ・パリを創立
2017年 ふたつめのブランドFloaïkuをロンドンで立ち上げる
2018年 3つめのブランドHermeticaのブティックをパリに開く
photos : JULIE ANSIAU, réalisation : MARIKO OMURA