創作の自由か、資本の支配か――右派ボロレ統括に揺れる仏文学・映画界。

Paris

カルチャーに触手を伸ばすメディア王に、
文学と映画界が反発。

4月14日、26年間にわたってグラセを率いてきた出版人、オリヴィエ・ノラの突然の解雇が報道された。グラセはフランスいちの規模を誇るアシェットグループの出版社だが、グループは2023年以来、メディア王ヴァンサン・ボロレの傘下にある。ボロレは極右政党に近いイデオロギーの持ち主として知られ、編集の現場への介入が問題視されている人物だが、彼がマスメディアの次に触手を伸ばしたのが出版界だ。

4月16日のル・モンドは、グラセ社長解雇を1面で報じた。

2年前に社長交代劇があったアシェットグループのファイヤール出版は、サルコジ元大統領や国民連合党首のジョルダン・バルデラらの著作を次々刊行して極右御用達のレッテルを貼られている。グラセ出版にボロレの影響が及ぶのも時間の問題とされていた中での社長解雇だが、これに反旗を翻したのは作家たちだった。4月16日の「ル・モンド」のオンラインには、『キングコング・セオリー』(柏書房刊)で知られるヴィルジニー・デパントをはじめとする作家100人以上が「オリヴィエ・ノラの解雇は出版の独立性と創造の自由を侵害する受け入れ難い行為」「我々は権威主義を課そうとするイデオロギー戦争の人質になることを拒否する」という公開書簡に署名し、今後のグラセ社からの著作刊行を拒否。署名人数はさらに増加している。翌日にはガリマール出版社長を筆頭に200人以上の出版関係者が署名する告発文が「ル・モンド」に登場。5月に入るとノーベル賞作家ハン・ガンやサンドロ・ヴェロネージら、同社から翻訳出版する作家の大多数が今後の出版を拒否する動きを見せている。

グラセ社長解雇への批判にボロレが自分のメディアJDD紙で反論。「この問題は上から目線の一部のエリートの騒ぎ」と一蹴。
カンヌ映画祭初日のリベラシヨン紙は“映画人の反撃”。「ザップ・ボロレ」共同体にはジュリエット・ビノシュ、アナ・ムグラリス、レイモン・ドゥパルドンの名も。

多くの作家が団結した反ボロレの動きは映画界にも影響を及ぼした。カンヌ国際映画祭が幕を開けた5月12日。リベラシヨン紙の1面に躍ったのは「ボロレに対し、映画界が反撃」の文字。編集、制作、広報も含む600人のさまざまな映画人が名を連ねる「ザップ・ボロレ」共同体の意見記事が掲載されたのだ。フランス映画界にとって最も重要な出資者であるテレビ局カナル・プリュスがボロレ傘下であること。昨年秋から同局が大手映画館UGCの買収に着手していること。また映画界への助成金を司るフランス国立映画映像センター(CNC)の解体を掲げる極右政党国民連合が、来年の大統領選に向けて快進撃していること。これらを踏まえて、「映画界を極右の経営者に委ねれば、映画の画一化の危機だけでなく、集団の想像力に対するファシスト的支配が行われる危険がある」と訴えた文章だ。これに対して、これまで出資作の選定にイデオロギーの影響を見せていなかった同局のトップが「ザップ・ボロレ共同体の600人とは仕事をしたくない」と発言。600名の署名リストはブラックリストに変わったことになり、映画界に不安が広がっている。

TMC局の人気情報番組「コティディアン」で作家の意見を代弁するヴィルジニー・デパント。

テレビ、ラジオ、新聞・雑誌ではすでに極右の編集方針を隠さないボロレ帝国は、出版や映画にもそのイデオロギーを持ち込む手段を得ようとしている。フランスのカルチャーは自由と創造性、多様性を守るためにどう闘うのか。今後の成り行きを見守るばかりだ。

「ラ・トリビューヌ・ディマンシュ」紙。レイラ・スリマニら300人の作家が出版契約に「価値観が合わなくなった場合は契約を破棄できる」条項の必要性を訴える意見記事。

Masae Takata
2017年より「フィガロジャポン」のパリ支局長。曇天続きだった5月のパリだが、後半から急に猛暑が到来。カフェのテラスもセーヌ河畔も、夏気分を満喫する人が鈴なり!

  • photography & text: Masae Takata (Paris Office)

*「フィガロジャポン」2026年8月号より抜粋