定年は42歳、オペラ座ダンサーたちのしなやかな生き方。産後舞台へ復帰したロレーヌ・レヴィ。

Paris

オペラ座ダンサーの定年は42歳だ。それまで舞台を続けながら高等教育を受ける、家庭を築く、資格を取る、カンパニーを移籍するなど、77名の女性ダンサーそれぞれにダンス人生がある。


出産後、身体を戻して舞台へ復帰! 先輩ダンサーが素晴らしい模範に。

Laurène Levy
ロレーヌ・レヴィ

Ⓒ Julien Benhamou / OnP

ロレーヌ・レヴィ
パリ・オペラ座バレエ学校を卒業後、2003年に入団。16年と19年に出産。キャリアの後半はコンテンポラリー作品のクリエイションに多数参加している。

『Etude』Ⓒ Yonathan Kellerman / OnP

踊りたい作品を逃したくない。こう考える女性ダンサーにとって、出産のタイミングを決めるのはとても難しいが、現在9歳と7歳の女児のママであるロレーヌ・レヴィの場合は異なる。
「30歳で結婚したのは家庭を築くという将来の見通しを持ってのこと。だから出産はカップルの暮らしでは理にかなったことで、自分のキャリアとの関係で子を持つ、持たないといったことは考えませんでした。妊娠後、次のシーズンのプログラムを見た時にイリ・キリアンの『ベラ・フィギュラ』があったので、『ああ、これ踊りたかったのに残念!』とはちょっと思いましたけど。確かに妊娠にせよ怪我にせよ、クラスレッスンやステージから離れることはダンサーにとって不安なことですね。でも、オペラ座ではエトワールも含め、大勢のダンサーが出産後まもなくステージ復帰する良いお手本を示してくれています。3~4人の子持ちのママも踊っているくらいで、こうした前例には安心させられました」

 妊娠中でもお腹が目立たず、体調が許せばステージに立つダンサーも少なくない。ロレーヌもそれを体験してみたかったのだが、妊娠初期に胎盤剝離の危険があったためしばらく休養。その後、スタジオに戻ってからは出産直前までバーレッスンを続けた。
「身体を動かすのは気持ちいいし、復帰しやすくなるのではと考えて。でもアラベスクのように脚を後ろに引く動きはできませんでしたね。妊娠中は温水プールで助産師が指導するバルネオセラピー(入浴療法)にも通っていました」

 出産後にバーレッスンを再開したのは、長女が3カ月を迎えた頃。経産婦の復帰を担当するオペラ座のフィジカルトレーナーの存在が何より心強かった。
「すっかり緩んでしまったお腹周りの筋肉を元に戻すために、呼吸法と合わせたエクササイズを教わりました。これはダンスのためではない特別なトレーニングでした。内転筋や腕、背中なども元に戻さねばならず。私の場合は育児のせいか年齢のせいか、背中がものすごく硬くなっていました」

 復帰のステージは出産7カ月後、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの『ドラミング・ライヴ』だった。この作品はポアントではなく素足での踊りだったので、ストレスなく舞台復帰。11公演を務めるハードな日々ではあったものの、その後に夏休みが控えていたので緩やかな復帰だったと振り返る。もっともこの復帰の際に、ひとつ困ったことが起きてしまったそうだ。
「ダンスに戻りたいという気持ちがあった一方、授乳をやめるつもりがなかったのが原因なんです。リハーサルの時に母乳で胸が張ってしまって、まるで石の塊のようにコチコチで耐えきれない痛さに。同様の経験をした仲良しのダンサーが、乳が出るようになるまでマッサージして助けてくれました」

 復帰後のロレーヌが頼りにしたのはベビーシッター、テレワークの夫、パリ市内に住む両親。とはいえ、スケジュールが毎日異なるロレーヌの仕事ゆえ、子どもたちの就学前、そのやりくりは大変なものだった。オペラ座に託児所があったら! ……これは、一日の大半を劇場内で過ごす多くのママさんダンサーが夢見ること。実際過去に何度かこの計画について話し合いはあったらしいが、残念ながら実現の難しさからか立ち消えとなってしまった。

 2歳半違いのふたりの子どもはオペラ座で踊るママのステージを見て、また稽古など劇場の裏側の日々も知ったことでロレーヌの不在をある程度受け入れられるようになった。オフの日、彼女は子どもたちと近くの森で自転車や散歩を楽しみ、自宅で料理をしてと一緒の時間を満喫している。エネルギーと幸福感をもたらしてくれる子どもの存在はいまも喜びそのものだという。ロレーヌはオペラ座のコンテンポラリー作品に不可欠なダンサーのひとり。マルコス・モラウ創作『Etude』でもメインのダンサーを務めるなど活躍を続け、今シーズン末に少し時期を早めてオペラ座を引退する。そんな彼女に娘たちが願っているのは、次は夜に家族が一緒に過ごせる仕事に就くこと。彼女はこれをしっかりと頭に刻んだそうだ。

  • editorial direction & text: Mariko Omura
  • editing: Eri Arimoto

*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋