時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノにある、いい物語を語る連載「いいモノ語り」。
今回は、パルミジャーニ・フルリエの時計「トンダ PF オートマティック」の話をお届けします。
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PARMIGIANI
FLEURIER

スイスの名門時計マニュファクチュール、パルミジャーニ・フルリエが仕立てるウォッチは、目の肥えた時計愛好家たちの垂涎の的。なかでも人気の高い「トンダ」コレクションには洗練されたデザインのレディスウォッチが華やかに揃い、上質さを知る女性たちの憧れのまなざしを一身に集めている。
メゾンの創業者、ミシェル・パルミジャーニは"神の手を持つ時計師"と呼ばれるほどのレジェンド的存在。彼は歴史的に貴重なアンティークピースの修復にも腕をふるい、かつてロマノフ王朝の皇室の宝物だった「インペリアル・イースター・エッグ」と呼ばれる機械仕掛けの豪奢なオブジェを完璧に修復してみせて、時計界だけでなく世界中の美術コレクターを驚かせたのだ。
スイスの山あいにある小さな町、フルリエで彼が自身のメゾンを興したのは1996年のこと。彼は最高水準の職人技をレディスウォッチにも惜しみなく注ぎ、ハイエンドな時計を作り続けてきた。そんなミシェルの美意識を形にしたのが「トンダ」。ラインナップには時計界のオスカーとも呼ばれるジュネーブウォッチグランプリでレディスウォッチ部門の最高賞を獲得したモデルも含まれていて、高い評価を得ているコレクションだ。

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この「トンダ PF オートマティック」は温かみのあるローズゴールドとウォームグレーの文字盤、上質なダイヤモンドを組み合わせたシンプルなデザイン。磨き抜かれたフォルムは、どの角度から見ても隙がないほどオーセンティック。時計ケースとブレスレットが自然に一体化していて、なめらかなシルエットが美しい。
また、文字盤をシックに見せているのは、繊細なバーリーコーンのギヨシェ装飾。バーリーコーンは大麦の穂をモチーフにした彫り模様のことで、古くからの伝統にならい、オートメーション化はせずに職人が手作業で旋盤を動かして模様を彫っているという。
文字盤にはメゾンのロゴがあしらわれているだけで、ブランド名が大きくフィーチャーされているわけではない。でも時計を熟知する愛好家がひと目見れば、醸し出される気品とエレガンスですぐにパルミジャーニ・フルリエの逸品だと気づくのだ。それこそがこのメゾンの魅力。決してこれみよがしにひけらかしたりはしないけれど、自然にあふれ出る高級感で思わず見入ってしまう優雅な佇まい。クワイエットラグジュアリーの美学がここにある。
*「フィガロジャポン」2025年4月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko