「音楽的におもしろい」ことをやった自信作。
メイ・シモネス/シンガーソングライター、ギタリスト
2000年、ミシガン州アナーバー生まれ。バークリー音楽大学ではギター演奏法を中心に学び、独創的なテクニックや音楽性に注目が集まる。シングル「Hfoas」(20年)でデビュー。EP『Kabutomushi』(24年)が音楽専門誌等で高評価を受けた。現在はブルックリンを拠点に活動中。
「誰かが演奏しているのを聴いた時に、すぐに誰なのかわかるようなミュージシャンが好きです」
そう言って、ジョン・コルトレーンやセロニアス・モンクの名前を例に挙げてくれたメイ・シモネス。彼女も、すぐに誰の演奏なのかわかってしまう個性的な歌と音楽を演奏する。ジャズやボサノバ、インディーロックにポップスなど、彼女の愛する音楽が思うままに奏でられ、メロディの上で日本語と英語のふたつの言語が軽やかに交ざる。しかも、曲を作りながら「ここがちょっと違う拍子だったらおもしろいな」と感じたら、11拍子などの変拍子に変えていくという。
「いろんな曲を少しずつ作っていたんだけど、自分が本当に好きだと思える曲を作ったのは大学2年の時。生まれてから日本語と英語の両方を話してきているから、両方とも歌に入れることで自分らしい感じが出てきて、そこが好きだったんだと思う。それが最初にリリースしたシングル『Hfoas』です」
4歳からピアノを始め、11歳の時に映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てきたチャック・ベリーを見て、ギターを始めたいと思ったそう。カート・コバーンが好きでニルヴァーナなどロックを演奏していたが、高校に入ってジャズに出合う。「すごく好きになって、一生頑張れるものだと思い始めて......。いまもそう思ってます」と、力強く話す。
バークリー音楽大学の寮で一緒だったノア・レオンに曲をプロデュースしてもらっていたが、ヴィオラでも参加してもらったことで音楽の幅が広がった。いまではバイオリンやドラム、ベースも加わり、5人編成で冒頭に書いたような独創的でユニークな音楽を描く。「このアルバム『アニマル』で、もっと自由になっている気がするし、どの曲も音楽的におもしろいと思うことをやっています」と、笑顔を見せた。
これまでも愛あふれる歌が多かったが、アルバムは「音楽に対しての愛や、友だちなど他者に対しての愛に加えて、生きることや自分への自信をもっと強くしようという内容が多い」と、歌詞の変化についても説明する。
「自分の本能を信頼して生きていくことが『Animaru』という曲のテーマで、それがアルバムの全体的なテーマにもなっています。やっぱり本当に頼れるのは自分だけだから、自分が強くいられるように頑張っていたいんです。もちろんほかの人にサポートしてもらうのはいいことだけど、いちばんは自分で自分をサポートできるようにしたほうがいいと思う」
「小説では、村上春樹の初期の作品が特に好き」と教えてくれたシモネス。柔らかな表情の奥にある揺るがない意思も、彼女の魅力のひとつ。夏には母の故郷である日本での、フジロックフェスティバルに出演が決まっている。

『アニマル』
小鳥のさえずりのような歌声に、表情豊かな楽器演奏が描き出す、エレガントなのに冒険心にあふれたチャーミングな一枚。「Dangomushi」「Donguri」「Zarigani」など日本語を使った曲名が多いことも特徴だ。
『アニマル』ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ ¥2,750
*「フィガロジャポン」2025年7月号より抜粋
photography: Alec Hirata text: Natsumi Itoh