Co. 山田うん、舞台『楽興の時』の配信に向けて出演者インタビュー。

この2026年2月28日、3月1日に世田谷パブリックシアターで上演された「Co.山田うん」による舞台『楽興の時』は、セルゲイ・ラフマニノフの楽曲を用い、音楽・ダンス・言葉が交差する場を立ち上げた作品である。それぞれの要素は意味を説明するのではなく、互いに響き合いながら、観る者の内に時間やイメージを立ち上がらせていく。配信に向けて、山田うん(演出・振付・ダンス)、志人(詩)、川合ロン(ダンス)の3名に話を聞いた。

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第一部では21名のダンサーがステージに登場し、第二部から詩を詠み、歌い上げる志人もステージに上がる。

ラフマニノフの音楽から立ち上がるイメージ

――昨年12月に稽古場に伺った時、山田うんさんは「"言葉があるけど演劇的ではないもの"を制作しようとした」と話し、ラフマニノフ『楽興の時』について「"曇り空の日に見る、水面から反射した美しいハレーションの光"を感じたので、今回使うことを決めた」とも話していました。ヲノサトルさんに演奏をお願いする際、アレクサンドル・ギンジンの演奏を基盤にしつつ、意識してもらったことはありますか?

山田:ギンジンの演奏を軸として共有しながら、ただの再現ではなく別の層を考えてもらいました。その音色の選択という点で、ピアノが感情や意味を持つ手前にとどまれるかどうかも、試行錯誤していただきました。 

志人:ギンジンの音には屋根裏で埃を被ったようなピアノの音のような懐かしい、古びたサウンドというのがあり、あのタッチでないと生まれてこない世界観があったと思います。

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川合は、「みんなが不安の中に身を投じないと成立しないものを目指していたような気がするので、そこがチャレンジングでした」と話す。

――舞台装置で意識した点を教えてください。 

山田:今回は、「見えすぎないこと」を意識しました。前半の舞台は地の層(ピンク)と水の層(ブルー)に分かれて、ふたつの層が並行してズレて存在し、後半はその地層時間が変化して、ピンクの層は隆起し、それ以外は溶岩のように黒く覆われています。時間が圧縮されて、堆積していくような感覚です。照明は、「観客が舞台上の人間をただ信じられる状態」を目指しました。

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山田うんと志人、その出会いと創作のプロセス

――当時、第一部と第二部は合わせ鏡のような構成で、第一部は音楽とダンスで「解いていく様子」、折り返す第二部は「言葉が表れることで全部回収していく様子」と、話していました。この視点は変わっていませんか?

山田:はい、変わっていません。水鏡のような構造です。でも、改修というか、「言葉が表れることで意味に回収される前のこと」と、「意味として立ち上がってしまったこと」とがあったような気がします。 

――山田さんと志人さんの出会いは?

山田:20年ほど前に志人さんの音に触れ、TABOO1さんの「禁断の惑星 feat. 志人」以降、志人さんが発表する作品を追うようになりました。言葉なのに言葉に閉じない、音なのに身体に触れてくる、重さと軽さ、強さと余白が同時にある、輪郭があるのに、一瞬でほどけていく、そのあり方に惹かれ、いつかご一緒したいと長く思っていました。 

志人:自分が作った作品『心眼銀河−SHINGANGINGA−』を山田さんが注文してくださって、お送りしたのですが、その後に直接メールをいただいて、作品で踊ってくださっているということや、ラフマニノフの『楽興の時』でひとりで踊られている映像を送ってくださったんです。それが最初の接触ですね。

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衣装は古着から立ち上げ、ラフマニノフという過去の素材に触れながら、誰かの記憶のようなヴィンテージの層を引き寄せ、箔をプリントすることで、反射の群れが、身体のまわりに立ち上がるようにしたという。中央に立つのが志人。

――創作はどのように進めたのですか? 

山田:最初にあったのはラフマニノフです。詩が先でも、振付が先でもなく、ラフマニノフ「楽興の時」を通して、ズレた場所から互いの眼差しを交わしていったように思います。

志人:最初に書き始めたのが「客星」という曲は、山田さんにお送りした時に、「第二部のいちばん最後の曲に持ってきては?」と提案していただきました。実際に稽古場で皆さんのダンスを初めて生で拝見して、そこからインスピレーションを受けて、より筆を走らせていった感覚があります。

――詩の世界観は早い段階で決めていたのですか?

志人:最初から統一していたわけではなく、書きながら見えてきました。ただ筆を走らせる前に、山田さんとラフマニノフの楽曲について、どういうような印象を受けているのか深く話し合う時間はありました。

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「気配」をどう立ち上げるか

――今回のテーマのひとつ「気配」は、どのように扱ったのですか?

山田:形じゃないものに触れようとしたので、明確な言葉で方向を固定することはしませんでした。定義しすぎないことで生まれるズレも、そのまま受け取っていく時間でした。

川合:この音に対してこの動きを当てようみたいなデジタルな感じではなくて、音楽と踊りを合わせてみて、実際どういう雰囲気を持っているかみたいなものをうんさんが見ていてくれたので、作っては壊しの繰り返しの中で、みんなで振り付けや意識、ヴィジュアルを共有したりしました。「こういう言葉だからこういう動きだよ」ということではなかった気がします。実際には具体と抽象の間をずっと行き来しているような、みんなが有機的に動く中で音を聴きながら絵を描いているような試みだった気がします。

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志人は、稽古場でダンサーたちの踊りを初めて見た時に、宇宙の構成であったり、天文的な惑星や星々の止められない運動であったり、土壌中の菌類の活動など、さまざまなことが頭に想起されたという。

――志人さんの関わり方は?

志人:あまりダンサーの方を目視して動きに対して何か投げかけることを意図的にしないようにしていました。誰のものとも言えない、所在の曖昧な声として関わること、直接的にあまり説明的にも感情的にもならない表現ということを意識しました。ダンサーの方の一人ひとりから表現者として勇気をもらって、私は特にとらわれずにやっていったと思います。


舞台上で発声される死生観が意味するもの

――志人さんのパフォーマンスでは、「鳥総立」が特に印象的でした。客席から登場しますが、ポエトリーリーディングの様子は能のようでもあり、言葉からは伝統伐採技法である「三ツ緒切り」をイメージしました。ここで描きたかったものは何だったのでしょうか?

志人:そうですね、各曲にそれぞれ込められた生死観というものがあるのかもしれません。「鳥総立」では人が全く寄り付かなかった鎮守の森に人が入り込んでくるところを描いていて、木の命と向き合う場面です。人もまた、木の痛みに心を寄せた瞬間に木(の気持ち)になるなど、他者に心を寄せた瞬間に憑依し、"なり変わる"ことができる。木を切ることも単なる破壊ではなく、御神木が寝かされた(倒された)あと、神輿の材に使われて生き続けるように、命を受け継ぎながら形を変えていくことでもあり、そこには畏敬の念や感謝の気持ちがあります。環境破壊だというところもあるかもしれませんが、自分の命よりも長生きする板を引き、それを大切に使うということで家族の団欒も生まれるなど、失うことと甦りの景色が同時に存在している感覚を描いています。

――先ほど話していたように、ダンサーの皆さんからインスパイアされた部分は大きいですか?

志人:霊的な何かをラフマニノフの音源から感じましたし、『楽興の時』のメロディから言葉が生まれたというのは確実にあるんですが、やはりダンサーさんたちの動きを見て、それを説明的にはせず、もしかしてこういう動きに見えるんではないかとかそういうことを想像して書いていくというなかで、インスパイアされていますね。「鳥総立」でいえば、ロンさんが御神木のように見えたんです。あと、私は第二部の方で下から湧き上がってくるエネルギーを感じています。ヲノさんが用意してくださった音も「これは下から上に来ている方だな」とか「これは上から降っている感じだからちょっと違うかな」というように、それが曲を選ぶきっかけにもなりました。

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志人と川合ロン。第二部「楽興の時」第6番「鳥総立」の場面より。

――ダンサーの皆さんは志人さんの言葉をどのように共有されていたのですか?

川合:詩が完成した時に全部シェアしてもらいました。志人さんの詩はどこか懐かしい風景を想起させる言葉や、哲学的な重大な意味が軽快なテンポを持っていたり、意味と音とリズムの間をず〜っと遊んでいるような感じがあり、聴く度に取れる意味が異なっているけど、韻も踏んでいるので、言葉を意味だけに回収しないという選択肢が全編を通してあったので、こちらはすごく自由に楽しめました。

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圧縮されたり引き伸ばされたりする時間の感覚のなかで踊る

――うんさんにとって、今回いちばん苦労されたこと、新しい世界が開けたと感じたことがあれば教えてください。

山田:苦労したのは自分が踊る場所を作ることでした。全員が一人ひとりでありながら、集団でも個でもない。群れの中で立ち上がるひとりの人間。その立ち方だけを、ひたすら掘り下げていきました。踊りを見せる身体とただの人間、その両方を抱えたまま、身体を合わせ鏡のようにしていく。形を整えるのではなく、自ずと立ち上がってくる状態を作り続ける。これが今回、この時代に見えた、振付の在り方、です。

――周囲の方々からの感想はいかがでしたか?

山田:長く私の作品を見てくださっている方の多くから、振付を始めた頃の作品を思い出したと言われました。挑戦し続けていたら、最初の場所に触れていた、という感覚です。また同時に、「これまでのカンパニーの群舞では全く見た事がない作品だ」、「近年でこの作品がいちばん好きだ」、とも。また、「観るより全身で聴く作品だ」とも言われていました。 

川合:僕が聞いた中では、「心地いい時間でした」という、時間に関しての感想が多かったです。

――おもしろいですね。どうしてそういう感覚になるんでしょう。

川合:僕自身は志人さんのテキストを文字で見ているし、何度も聞いてもいるので、お客さんの感想と合致しているかどうかわからないですけど、志人さんの言葉には、手のひらと宇宙が繋がるような感覚、自分に細胞レベルで繋がっているすごく遠い時間や記憶とリンクする瞬間があって、それがヴィジュアルと重なることで、"ここではないどこか、いまではないいつかの何か"のような時間が立ち上がるんです。圧縮されたり引き伸ばされたりする時間、感覚を遊んでいる振り付けが多かったので、いろんな感覚を得ていただける作品になっていると思います。

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左端の星野梓の後ろに立つ志人は、星野の影のように同じ動きをして、星野が乗っている重力を感じながら歌っていたという。第二部「楽興の時」第3番「ゐれきせゑりていとしゃどうぃん」の場面より。

――志人さんは『楽興の時』に参加されて、特に印象深かったことはありますか?

志人:できないことを毛嫌いせずに溺愛する、という感覚が自分の中にあるんですが、今回もまさにそうでした。星野梓さんが乗っている重力を感じながら歌ってみると、山田さんがおっしゃっていた「ダンサーに雑念というものがない状態」に没入し、「ここにいるんだけどどこにもいないような状態」になりながらやれた、というのがありました。ダンサーの皆さんの重力や引力みたいなものを見つけられたと同時に私は発声しているんですが、ここにいるのにどこにもいないような不思議な状態に没入できたのが楽しかったことかもしれないです。


生の揺らぎも含め、時間を共有する感覚がこの作品の大きな要素

――これから配信を見る方、ステージを見た方も配信を見るかもしれないので、注目すべき点があれば教えてください。

志人:私は意図的な振り付けがあって動くことはないので、自然にその時に動いてしまうというところがありまして、一方で初めて映像として観た時に、ダンサーさんの引力というものに引かれている時に、引かれながらも全体的に次元がズレていく感じ、意図せず次元が歪んでいくような瞬間がありました。その"生"の揺らぎみたいなものをおもしろがってもらえたら嬉しいです。

川合:出来上がった映像を僕はまだ観ていないのですが、映像は舞台とは全く別物になると思うので、いちど観た方でも違う体験として楽しめると思います。意味やサウンド、ヴィジュアルの間にあるものを含めて、時間を共有する感覚がこの作品の大きな要素だと思っています。もしかしたらお客さんはいまその場で起こっているパフォーマンスを見ているけど、それを通して喚起される記憶などと結びついて全然違うものを見ているような、夢の中のような感じになるかもしれないですよね。

――それが心地よい時間に繋がっているのかもしれないですね。本日はありがとうございました。

舞台写真撮影:大洞博靖

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山田うん:2002年にダンスカンパニー「Co.山田うん」を設立。ジャンルや枠にとらわれない身体を軸に、個と群れ、自然と社会の関係を編み直す作品を発表している。『InC』にて令和4年度文化庁芸術祭舞踏部門優秀賞受賞。
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志人:独自の音声言語と韻律を探り、言葉の新たな表現を旅する諷詠者。2021年、セルフプロデュースアルバム『心眼銀河−SHINGANGINGA−』『視覚詩・聴覚詩 心眼銀河 書契』を発表。音楽から舞台芸術、古典語りまで領域を超え言葉と音の源流へ遡上する活動を続けている。
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川合ロン:日本国内を中心に俳優、ダンサーとして活動中。山田うん、鈴木ユキオ、小野寺修二、北村明子、Inbal Pintoなど、国内外の一線で活躍する振付家・演出家の作品に出演。ミュージカルやオペラ出演ほか、全国でダンスワークショップも多数実施している。
Co.山田うん
2026 新作 『楽興の時』
配信日時:2026/03/25(水)0:00〜3/31(火)23:59
販売終了日:3/31(火)22:30
料金:3000円  上映時間:約60分
申し込みはコチラから

*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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