ドイツのスパークリングワイン「ゼクト」を巡る、ラインヘッセンの旅。

FIGARO Wine Club

写真/文:田村 亮(ワイン/フード/トラベルジャーナリスト)

ドイツの冷涼気候の下で生まれる爽やかで軽快なスパークリングワイン、ゼクト(Sekt)。世界各地でさまざまなスパークリングワインが造られる中で、ゼクトはいかなる風土で生まれ、どんな特徴を持ち、人々はどのように楽しんでいるのか。実は世界一のスパークリングワイン消費大国(2025年)であるドイツで、“ワインの都”と呼ばれるラインヘッセン地方の中心都市マインツと、その周辺エリアを訪れた旅の模様をリポートする。

ディナーの序章を華やかに飾るゼクト。味わいを大きく左右する品種はもちろん、無補糖もしくはそれに近いブリュット・ナチュール、エクストラ・ブリュット、ブリュット……と、残糖度によっても飲み口はさまざま。

“ゼクトだけ”の大試飲会、マインツの宮殿で開催。

ドイツ最大のハブ空港、フランクフルト空港からタクシーに乗り、30分少々高速を走ると、遠方にマインツの街の大聖堂が見えてくる。雄大なライン川に架かる橋を渡れば、そこには河岸に沿って開けた、緑豊かな坂道が多く連なる街並みが広がっていた。人口は約22万5000人(2024年)。ラインラント=プファルツ州の州都であり、ワインの文脈からすると、ドイツきってのワイン生産量を誇るラインヘッセン地方の一大ワイン集積地である。

ドイツワインの“泡だけ”が一堂に会した大試飲会「ゼクトマッハー・ベルゼ」。「ヴァイングート・グロール(Weingut Gröhl)」のブースではシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)100%のうっすら朱を帯びたブリュット・ナチュール『キュヴェ・ピュール』が人気を博していた。

2026年4月22日から27日の6日間、ドイツ南西部のラインヘッセン地方とラインガウ地方を訪れた。このマインツで4月25日、今年で4回目となる“ゼクトの生産者だけ”が集まる見本市(というか壮大な試飲会!)「ゼクトマッハー・ベルゼ」が華々しく開催された。会場となったのは「マインツ選帝侯宮殿」と呼ばれる街中の歴史的パレス。44の生産者それぞれが伝統製法で腕によりをかけて造ったゼクトの自信作を持ち寄り、ワインのプロフェッショナルや愛好家の前で披露した。

生産者の誇りと来場者の真剣な眼差し。会場となったパレスには和気藹々とした雰囲気と、凜とした空気が同居していた。

筆者も10ユーロのディポジットを支払い、大ぶりなワイングラスを手にして、人だかりができている人気生産者とおぼしき生産者のブースを中心に回ってみた(ほとんどのワインは日本未輸入だ)。

ドイツを代表する白ブドウ品種のリースリング、国際的なマーケットへの意識の高まりや気候変動に伴い年々栽培量が増えているというシャルドネ、あるいはピノ・ブラン(ヴァイスブルグンダー)、ピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)といった品種を用いたゼクトの数々は、もちろん品種特性や造り手の醸造意図による振れ幅こそあるが、ざっくり言えば、総じて泡立ちしっかり、キリッとした伸びやかな酸が際立ち、石灰質土壌由来の大地の豊かなミネラルを感じるソリッドなワインが多かったようだ。

シャンパーニュスタイルを模範とする「メッツガー(Metzger)」は、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエをブレンドした『キュヴェ 1411』や、希少なデゴルジュマン・タルディフ(長期瓶内熟成)による『フルール・ド・ロゼ ピノ・ノワール ブリュット・ナチュール』を披露。

イタリアのフランチャコルタやスペインのカバなど南ヨーロッパで造られるスパークリングワインだと、ブドウのふくよかさ、造りのおおらかさがポジティブにとらえられることもあるのに対し、やはり北国ドイツで造られるゼクトには、生真面目さ、堅牢さ、クオリティのブレのなさ、といった「きっちりと造られている」印象を筆者的には多分に受けた。

生き生きとした表情でブースに立つ多くの若手女性生産者たちの姿もまた印象的だった。こちらは「クラック・ゼクトハウス」。

暑くも寒くもない、春の穏やかな陽気に包まれた心地よい一日。計約250アイテムものゼクトばかりが集まる、泡、泡、泡の祭典「ゼクトマッハー・ベルゼ」は、盛会のうちに幕を閉じた。

そもそもゼクトとは?

ここでゼクトについて、ワイン初心者にもわかりやすく、ワイン好きの人にはおさらいになるように、少し解説を加えておこう。 ゼクトには、法で定められた4つのカテゴリーが存在する。トップの階層のものからもっとも一般的なものへと順に

・クレマン

・ヴィンツァーゼクト

・ゼクトb.A.

・ドイチャーゼクト

となる。

このうちクレマンとヴィンツァーゼクトの上位2カテゴリーが、シャンパーニュと同じ“メトッド・トラディショナル(伝統製法)”と呼ばれる瓶内二次発酵の手法を用いて造られるものだ。

ワイナリーではまず、スティルワインと同様にベースワイン造りを行う(アルコール度数を抑えるため糖度は低めに)。次に、ティラージュ(瓶詰めして酵母と糖分を添加し、王冠で封をする)を行い、瓶内二次発酵(瓶の中で酵母が糖分を食べ、アルコールと炭酸ガスを発生させる。炭酸ガスがワインに溶け込み発泡性ワインとなる)を経て、熟成(“フェルメンテーション・シュール・リ”と呼ばれる。発酵を終えた酵母が澱となって瓶内に残り、この澱とともに長期間熟成させることで、ワインに複雑な香りと味わいをもたらす)させる。その後、瓶を少しずつ回転させながら澱を瓶の口に集め(ルミュアージュ)、澱を凍らせて王冠の封を開けることで取り除き(デゴルジュマン)、ワインが目減りした分、補糖(ドザージュ)を行う。

ドイツでは、ベースワインを造った後の工程を、ゼクト造りの充分な設備を備え、ノウハウに長けた別のワイナリーに委託醸造するケースも多いが、今回この「ゼクトマッハー・ベルゼ」に集まった44のワイナリーは、いずれも自社でこれらの工程を一貫して行っている生産者ばかりである、ということだ。

パレスの晴れ舞台に立つゼクト生産者たち。「ゼクトマッハー・ベルゼ」は造り手と飲み手の接点としてだけではなく、高品質なゼクト造りという志を一にした生産者同士の有意義な交流の場でもある。

本格的な春が南ドイツに到来するこの時期、マインツの街中に立つ朝市では旬を迎えたホワイトアスパラガスが山と売られていた。街中でも周辺のワインエリアでも、ワインの展示会や試飲会などのイベントが花盛りだという。

朝獲れのホワイトアスパラガスのみずみずしさといったら! たっぷりのオランデーズ・ソースをかけて。マインツ中心部のレストラン「ズム・グリューネン・カカドゥ(Zum grünen Kakadu)」にて。

マインツ中央駅近くの歴史的郵便倉庫を改装したアーバンなイベント会場「アルテス・ポストラーガー」では、今年第2回となる「VINVIN 2026」という、音楽ありパーティーありの、よりカジュアルなワインイベントも開催されていた。こちらでは“テロワール・ドリヴン・ワイン(テロワールが感じられるワイン)”をテーマに、「デメター」(demeter、ドイツ発のビオディナミ認証機関)などがスポンサーとなり、全国13のワイン生産地域のうちドイツ南西部の6つの地域から、比較的若い世代の生産者が中心となって116ワイナリーが出展。出品ワインも、昨今のトレンドを反映したより気軽に楽しめるライト志向なワインが多い印象だった。陽が落ちるにつれ若年層を中心としたワインファンたちが続々と会場に詰めかけ、さながらフェスのような盛り上がりを見せていた。

カオスと喧噪の中、大盛り上がりとなった「VINVIN 2026」終了後、会場内のVIPエリアで開催されたアフターパーティー。抜栓したボトルが特設のロングテーブルに集められ、どれでも好きなだけ飲み放題に。

>>後編:「ドイツのスパークリングワイン「ゼクト」を手がける、ふたつのワイナリーへ!」に続く

取材協力/Wines of Germany

https://jp.winesofgermany.com/

田村 亮

ワイン&フード&トラベルジャーナリスト

料理専門誌「料理王国」編集長を経て、2012年に独立し「エディション・ジラフ」を設立。料理、ワイン、旅、カルチャーなどをテーマに取材・編集・執筆活動を行う。店主を務める東京・品川の「日用品&ワイン喫茶 Kirin Store」では、ジャンルレスな料理の提供とともに、各国ナチュラルワインの販売を行っている。

  • photography & text: Ryo Tamura