ワインラバー憧れの地、シャンパーニュ・ランスへ。【ルイナール編】

FIGARO Wine Club

ワイン好きなら一度は訪れたい場所がある。それがフランス・シャンパーニュ地方。美しいスパークリングワインを生む、唯一無二の地。この夏、初めてランスを旅した。

世界最古のシャンパーニュメゾン、ルイナールで過去と未来を見つめる。

クリュッグに続いて訪れたのは、世界最古のシャンパーニュメゾン、ルイナール。シャルドネに注力するその様から“シャルドネハウス”と呼ばれているが、実際にメゾンを訪れると、より一層肌で感じることができた。

たくさんの草木や花に囲まれた庭園の中に立つのが2024年に完成したパビリオン。大阪万博の大屋根リングでも知られる建築家・藤本壮介が設計。ルイナール特有のボトルの曲線にインスピレーションを得た建築で、ガラスに施されたグラデーションが、シャンパーニュの泡を彷彿とさせる。パビリオン内にはショップとレストランが併設され、国内外のワインラバーたちで日中はいつも賑わっている。



メゾン内で早速テイスティング体験。ここで味わったのが、ルイナールの歴史、エスプリ、そして未来を感じさせる4種類。まずは「ルイナール ブラン・ド・ブラン」。名前のとおり、シャルドネ100%で造られるメゾンを代表する一本だ。どこまでもクリアな透明感のある味わい、白い花のようなアロマに思わずうっとり。テイスティングしつつ、ルイナールの歴史について早速レクチャーを受ける。
もともとは繊維商だったニコラ・ルイナールが、泡の出るワイン、すなわちシャンパーニュに着目、ワイン商からスタートし、修道士だった叔父ドン・ティエリー・ルイナールの教えのもとワイン造りにシフトしたこと、ピノ・ノワールではなく当時からシャルドネに注力していたこと……。約300年前から続く信念が、いまのメゾンのレガシーとなっていることを実感した。

いっぽう「ルイナール ブラン・サンギュリエ」は、ルイナールが未来を見つめて導き出した答えのひとつ。創業当時と大きく異なるのが気候だ。フランスのワイン産地の中でも最も北限に位置するシャンパーニュは、“冷涼であること”がブドウ育成の鍵。冷涼な気候が綺麗な酸を生み出してきたが、近年の温暖化でブドウの味わいも変化。「エディション 19」と名付けられたそれは、熱波に襲われ、畑の最高気温が42度に達した猛暑の年のブドウをベースワインにしている。ノン・ドザージュ(補糖なし)にトライしたり、ボトルに再生ガラスを90%使用するなど、かねてから自然と対峙し、サステイナブルを意識してきたルイナールだからこその試みがそこここにちりばめられている。

パビリオンを後にし、ルイナールの聖域とも言える地下のセラーへ。飛び込んできたのは3種目のテイスティングでも体験した「ドン・ルイナール」の熟成シーン。ドン・ティエリー・ルイナールに敬意を払い名付けられたドン・ルイナールは、最良の年のブドウのみを使い、さらに最長11年もの熟成を経て生まれる特別なシャンパーニュ。何よりも、コルク栓での瓶内熟成を復活させたことが大きい。コルク栓より手間の少ない王冠で熟成させることが近年のシャンパーニュ造りの主流だが、ルイナールではあえてかつての手法、コルク栓での瓶内熟成を採用。長い熟成を要するドン・ルイナールの場合、酸素からシャンパーニュを守るにはコルク栓の方が有効とのこと。
そのシーンを目の当たりにすると、コルク由来のカラメルや蕎麦、クルミのアロマ……複雑かつ芳醇な味が蘇ってくる。後ろ髪を引かれながらさらに奥に進むと、驚きの空間が広がっていた。

真っ白な洞窟、クレイエルが目に目の前に。ガリアローマ時代の白亜質の石切り場を丸ごと熟成用貯蔵庫として活用した、ルイナールを象徴する場所だ。メゾンの所在地も“4 rue des Crayères”。全長は約8km。温度も湿度も一定で、シャンパーニュの熟成に適しているという。聖地に佇みながら、再びあの美しい酸と味わいを反芻していた。




迷路のようなクレイエルを歩き続けると、壮大なインスタレーションに遭遇した。音、光、水が共鳴するジュリアン・シャリエールによる『Chorals』やムアワド・ロリエによるデジタルインスタレーション『Retour aux Sources』など、そのどれもが自然との融合を感じさせるアートだ。
ルイナールは19世紀末にミュシャにポスター制作をオーダーするなど、アートやアーティストとの繋がりの強いメゾン。現在でも「カンバセーションズ・ウィズ・ネイチャー」と題し、現代アートプログラムを展開している。

再び地上に出ると、2026年度の参画アーティスト、川俣正のアート『ネスト』が。木材や廃材、再利用素材を使い、社長室のある建物の一角に制作した“巣”だ。ふと周りを見渡すと、庭園には川俣によるもうひとつのアート作品『ツリーハウス』や、ドン・ティエリー・ルイナールをモチーフにしたジャウメ・プレンサの彫刻など、数多くのアートが点在している。新たな建築とアート、歴史と未来。ルイナールが生まれる場所は、それらを融合した美しい楽園のようなシャンパーニュの聖地だった。

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小中学校を北京で過ごしたアジア系帰国子女。幼少期から年に4〜5回海外旅行を繰り返す生粋の旅好き。大学時代に時間が有り余り、自転車で東北や四国&中国地方を周遊。ダイビングサークル出身で離島フリーク。ワインエキスパートを取得後、フィガロワインクラブの部長(愛称)に就任。