芳根京子と渡辺翔太のダブル主演作『ウェンディ&ピーターパン』、あふれ出す「舞台人」としての魅力とは?
文・小林久乃
最近、舞台観劇に出かけただろうか。あまり行き慣れていないと、少し遠い存在に感じるかもしれない人にこそ紹介したい、止まらぬ夢の世界を表現した作品がある。それが芳根京子と渡辺翔太(Snow Man)のダブル主演作『ウェンディ&ピーターパン』だ。タイトルだけを読むと、誰もが知るテーマパークの世界観を想像するかもしれないが、本公演にはそれだけではない恍惚感が詰まっていた。その様子を少しだけ。

物語は大きなステンドグラスのある、4人きょうだいの子ども部屋から始まる。時代は1908年のロンドンだ。ウェンディ(芳根)、ジョン(鳥越裕貴)、マイケル(松岡広大)、体の弱い末っ子のトム(木村風太)が戦争ごっこをしながら遊んでいる。ただトムは高熱で体調があまり良くない。心配する両親のミスター&ミセス・ダーリング(石丸幹二、池谷のぶえ)。その夜、静かな子ども部屋の窓からピーターパン(渡辺)がやってきて、トムを連れ去っていく。トムの旅立ちでもあった。
それから一年後、再びピーターパンが子ども部屋に現れる。

「やあ、ウェンディ! 君の顔、まんまるでビスケットみたい」
ピーターと触れ合っているうちに、きょうだいふたりを叩き起こし、ロストボーイになったトムを探すために、ネバーランドへ向かうことを決意するウェンディ。
「楽しいことを思い浮かべて。完璧に楽しいことで頭がいっぱいになると、足が地面を離れて、空中に浮かび上がる!」

そうピーターパンにアドバイスされ、物語のマスコット的な存在であるティンク(富山えり子)の魔法の粉を浴びて、空に浮かんでいくきょうだいたち。たどり着いたネバーランドは巨大な樹木のそびえ立つ場所。そこにはおなじみの(?)フック船長(石丸・2役)やワニ(宮河愛一郎)も登場して、ピーターパンと闘う。

傍らでは皆の母親のように振る舞い、新しい仲間と出会い、敵にも捕まり……と、さまざまな事件が訪れてくるウェンディ。トムを失って以来、沈んでいたウェンディにいままでにない勇気がわいてくるのだった。果たしてきょうだいはトムに会えるのだろうか? ピーターパンはフックを倒すことができるのだろうか?

観劇後、少し脳内が興奮していた。それはいままで知っていたつもりのピーターパンの物語や、アトラクションで体験した作品のカラーが、良い意味で少し覆ったからだと思う。芳根京子が演じるウェンディは、圧倒的にかわいらしかった。ファーストシーンでは白いネグリジェをまとって登場するのだが、天使のワンピースかと思ったほど。初日前に芳根、渡辺、石丸の3人が参加した記者会見で、渡辺が芳根のことをこう評していた。

「印象? いやいや、もう本当に太陽みたいな方ですよ。稽古が始まってからの取材でも言っていたんですけど、本当に太陽みたいな明るい方だなという印象から、稽古やっていくうちに力強くて、エネルギッシュで、パワフルで、体力もある……(と、印象が変化していった)。本当に見た目とのギャップがかなりある方だなという」

その言葉通り、舞台上での芳根は演技で時折大きな瞳を潤ませながら、スレンダーさを感じさせないウェンディを演じていた。他方面からも彼女が現場にいると、華やかになると言われる理由が舞台上にあった。もちろん作品の内容にもよるけれど、芳根のたたずまいだけで、主役とは明るく、輝くものであると痛感させられた。
「観にきてくださったみなさまを、最高のネバーランドへお連れできるように、みなでケガなく、事故なく最後まで全員(カンパニー)で最終日楽まで駆け抜けていきたいです。来てくださる方は何も考えずに、ただ楽しむ心だけを持って劇場に来ていただければ。楽しい時間を過ごしてもらえるように、精一杯がんばります」
そう意気込む芳根。そしてウェンディの父とフック船長の2役を演じる石丸幹二は、今回の演出家であるジョナサン・マンビィをこう語る。
「私も長く俳優をやってきている中で……マンビィさんはポジティブなんです。そのポジティブな人が何かを伝える時には、とても大きくて温かいものがあるんですよね。おもしろいことに『それは違う』という言葉を、一度も聞きませんでした。まず(意見を)受け止めてくださって『ああ、そうだね』『なぜそう思ったの?』と聞いてくれる。そのうえで『僕はこう思うよ』と伝えてくださるんです。そうしたやり取りが僕たち(カンパニー)の心をほぐしてくれましたし、稽古場がスムーズに進んだ大きな理由のひとつだったと思いました。僕たちマンビィさんのことを愛していますし」

石丸といえば、一線級の舞台俳優としても知られている。落ち着いた雰囲気で若い主役のふたりの側に立つ石丸を見ていると、もっと歳を重ねた時の自分がどう立ち振る舞えばいいのかを見せてくれた。物言わぬ実力があった。

そして渡辺は、今回の演出のトピックであるフライングに当初は苦戦したという。
「渡辺として飛ぶ時は、僕はどんな動きしようが僕の自由。僕が美しいと思った形で飛べばいいんです。でもピーターで飛んだ時は(腕組みをしながら)こういう格好で飛んだり、(首に手を当てて)ポカーンとしながら、だらけてみたり……。ひとつ役が乗った状態でのフライングは経験がなかったので、最初は『回っちゃうな』『前を向きたいのに』など、いろいろと苦労もありました」

そんな渡辺の演じていたピーターパンはコミカルさと、フライングや迫力あるスピーディーな動きの塩梅=ギャップのバランスが抜群。さすがのひと言。本人の言う難しさは微塵も感じさせない、舞台人だった。ちなみに会見の冒頭、彼からこんなコメントがあった。
「各媒体や各記者、テレビ局のみなさまへの今日のリリースをお送りするのが、結構ギリギリだったということを聞きました。『大変、失礼いたしました!』と言うことをお伝えしなければなと。ピーターパンなら絶対に言わないんですけど、渡辺として(笑)。それなのにこんなに集まっていただけて、本当にありがたいなと思います」
ほかにも撮影中「ポーズの指定とかがあれば、やりますんで」と、カメラマンに伝える様子は以前「FIGARO HOMME」に出演した際に話していた、振る舞いに注意しているという、さりげない……いや、あふれ出す気配りだったのかもしれない。 そんなカンパニーで続く、7月20日の大阪千秋楽までの無事を願う。
Bunkamura Production 2026
DISCOVER WORLD THEATRE vol.16
『ウェンディ&ピーターパン』
●脚本/エラ・ヒクソン(J.M.バリー原作より翻案)
●演出/ジョナサン・マンビィ
●出演/芳根京子、渡辺翔太、鳥越裕貴、松岡広大、富山えり子、天野はな、玉置孝匡、池谷のぶえ、石丸幹二ほか
【東京公演】
公演期間:2026年6月12日(金)~7月5日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
【大阪公演】
公演期間:2026 年7月13日(月)~20日(月・祝)
会場:フェニーチェ堺 大ホール
●問い合せ キョードーインフォメーション 0570-200-888 (12:00〜17:00※土日祝は休業)
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/26_wpp/
- text: Hisano Kobayashi