「いちばん緊張する共演者は吾郎さんと慎吾ちゃん」草彅剛、映画『バナ穴 BANA_ANA』で再確認した3人の関係性。
『クソ野郎と美しき世界』から8年。稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の3人が、山内ケンジ監督による映画『バナ穴 BANA_ANA』(6月27日公開)で再びスクリーンに集結した。「絶対に国宝にならない映画」と自ら言い切る本作は、現実と幻想、ユーモアと不条理が入り混じる予測不能な物語。完成した作品を前に、草彅剛自身も「本当に意味がわからない(笑)。だからみんなで一緒に考えてほしい」と笑うほど。そんな独創的な作品の舞台裏から、長年ともに歩んできた3人の関係性、そしていまも挑戦を続ける理由まで、たっぷりと語ってもらった。

「撮影中もずっと自分探しをしていた感覚がありました」
――独特な世界観の作品ですが、脚本を読まれたときの印象からお聞かせください。話の内容をどのように理解しましたか?
全然わからなかったです(笑)。ほかの作品でも、脚本を読んでいて「よくわからないな」と思うことはあるんですけど、今回は輪をかけて「なんなんだろうな?」という感じでした。でも、わからない脚本ほど、実際にやってみるとおもしろかったりするんですよね。だから結構ドキドキワクワクするし、今回も「楽しみだな」という気持ちの方が大きかったです。

――香取さんや稲垣さん、山内監督も含めて、事前に話し合いはされたんですか?
まったくなかったです。スタッフの方たちも、8年前の『クソ野郎と美しき世界』の時とほとんど同じで、僕たちのことをよく知ってくださっている方ばかりなので、信頼もありましたし。吾郎さんと慎吾ちゃんもたぶん同じ感覚だと思うんですけど、特に何か相談しなくても、「きっと最高のものができるでしょう」というような感じでした。
――今回は草彅さんご自身に近い役柄にも見えました。長年一緒に歩んできた稲垣さん、香取さんとの共演も含めて、演じる上で難しさや発見はありましたか?
それがね、今回は逆に緊張したんです。自分自身に近い役を演じることって実はあまりないので、「普段の僕ってどんな感じなんだろう」とか、「慎吾ちゃんと僕の関係ってどうなんだろう」「吾郎さんとはどうなんだろう」とか、いろいろ考え始めちゃって。監督は僕らのイメージで当て書きしてくださっているので、それを自然に演じるってどういうことなんだろうと考えれば考えるほど、それこそ『バナ穴』にハマっていくみたいな感じで(笑)、だんだんわからなくなってくるんですよ。撮影中もずっと自分探しをしていた感覚がありました。「僕ってこんな感じだっけな?」とか。撮影場所の天草という土地もどこか現実じゃないような空気があって、海の中をぷかぷか浮いているような、不思議な感覚でした。しかも今回は役と自分の境目があまりないので、3人で歩んできた時間や関係性が自然と出てしまう。ちょっとしたセリフでも自分の人生とリンクしているような感覚があって、それが山内監督の狙いだったのかもしれません。役があると「これは役だから」と割り切れるんだけど、今回はそれがない。だから慎吾ちゃんと吾郎さんと向き合うのが照れくさかったし、実は僕がいちばん緊張していたかもしれないです(笑)。
――山内監督の、登場人物たちの日常的でありながら、どこかシニカルかつ笑える会話が満載の作品でしたが、草彅さん自身がおもしろいと感じたポイントはどこでしたか?
(ファースト)サマーウイカちゃんが演じる奥様の旦那さんが出てくるところは本当に意味がわからなくて(笑)。わからない自分も悔しいし、そこに一喜一憂している自分もなんか馬鹿らしくなってくるし。だから観終わった後、いろんな人と「ああでもない、こうでもない」と話しましたよ。友だちにも、「昨日『バナ穴』観たんだけど、本当にわけがわからないから、君がどう思うのか知りたいから絶対に観て!」って、いちばん強く宣伝したかもしれない(笑)。
「ふたりのこと、たぶん世間の皆さんと同じくらいしか知らない」
――8年ぶりに3人で本格的に共演してみて、改めて感じたことはありますか?
第一弾からもう8年経っていますからね。一作目はオムニバスだったので、それぞれ別の物語でほとんど絡みもなかったんです。今回は久しぶりにしっかり一緒に芝居をして、「新しい地図」として歩んできた時間の大きさを改めて感じました。3人になって最初に作った映画も『クソ野郎と美しき世界』でしたから、その時間の積み重ねをすごく感じましたね。僕はどんな仕事でも結構2人に助けられていて。慎吾ちゃんも吾郎さんも本当に頼もしい存在なんです。ステージでもふたりの間に立つと、大きな山に挟まれているような感覚があるし、オーラがすごいんです(笑)。余談なんだけど、最近になってもうちょっと身長欲しいなって思うんです。3人で立つ時、センターに入るとふたりの間ですごく目立つような気がしていて。なので、「身長伸びないかな」なんて思ったりもしてます(笑)。

ただ、不思議なことにいちばん緊張する相手もこのふたりなんです。付き合いが長すぎて、全部見透かされているような気がするから。初対面の人のほうが芝居しやすいくらい(笑)。だからこそ取り繕えなくて、本気で向き合うしかないんです。でも、プライベートのことは意外と何も知らないんですよ。吾郎さんが猫を迎えていたことも、案外最近知ったくらいで。たぶん世間の皆さんと同じくらいしか知らない。おもしろいですよね。芝居についてもほとんど話さないし、3人でディスカッションをすることもないんです。もっといろいろ話した方がいいのかなとも思うんだけど、そう言いながら、僕自身も実はあんまりしたくない(笑)。だから結果的には合っているのかもしれないですね。長い時間一緒にやってきたからこそ、言葉にしなくても伝わる部分があるし、その距離感が僕ららしさなのかなと思います。
――近年は『ミッドナイトスワン』『碁盤斬り』などシリアスな作品が続いていますが、本作への入り方は違いましたか?
今回はまずロケ地が特別でした。天草は空港からさらに何時間もかかる場所で、その移動時間の中で少しずつ役に入っていく感覚があったんです。東京で撮る作品だと、「よし、やるぞ」と気合を入れたらすぐ現場に着く。でも今回は東京から離れて山や海に囲まれた場所へ向かう中で、「もうひとりの草彅剛」になっていくような感覚がありました。違う世界では、こういう人生を生きていたのかもしれない。そんなことを考えながら作品の中に入っていったので、僕にとっても不思議で深い撮影でしたね。
――久しぶりにチョナン・カンとして韓国語も披露されていましたね。
韓国語はしばらく全然やっていなかったんです。でも今回の撮影で久しぶりに触れてみたら、意外と身体が覚えていて。天草での空き時間に少しずつ練習していたら、だんだん感覚が戻ってきました。韓国語は10年以上夢中になっていましたし、2012年に韓国でも上演した『ぼくに炎の戦車を』という舞台以来ほとんど触れていなかったので、今回また作品の中で向き合えたのはうれしかったですね。それと同時に、初心を思い出しました。「新しい地図」として最初に作った映画から8年経って、改めてスタートラインに立つような気持ちになれた。韓国語もそうですけど、人って一生学び続けるものだと思うんです。だからまた韓国の作品にも挑戦してみたいし、知らない世界に飛び込んでいきたいですね。
「個人的には、『速い爺さん』になりたい(笑)」
――劇中にも登場する香取さんが描く「くろうさぎ」は、不安や孤独から生まれた存在とも言われています。草彅さんにも昔から心の中にいる、自分だけの“相棒”のような存在はありますか?
やっぱり、去年亡くなった愛犬のクルミですね。フレンチブルドッグなんですけど、まだ亡くなって1年も経っていなくて。初めて迎えた愛犬で、9歳半くらいの命だったんですけど、本当にずっと相棒でした。もともとフレンチブルドッグが大好きで、一緒に暮らすのが夢だったんです。犬を飼っている方はみんなそうだと思うんですけど、人間には絶対に到達できないような純粋さがあるんですよね。すごく神々しく見えたかと思えば、いびきをかいて寝ていたりして(笑)。くるみは背中の毛が少し金色っぽくて、夕暮れの光を浴びると本当に輝いて見えたんです。そして、じっと僕を見つめる瞬間が何度もあった。そのたびに、なんだか自分を正してくれているような気がしていました。いまでも顔を思い浮かべることがありますし、やっぱり僕にとってはずっと相棒ですね。

――これから3人で見たい景色はありますか?
ファンの皆さんのおかげで、普通の人では見られないような景色をたくさん見せてもらいました。でも、やっぱりこれからも挑戦をしていきたいんです。輝かしい瞬間って突然訪れるんですよ。舞台でも、たまたま巡り合った作品で千秋楽を迎えたときの拍手だったり。そういう一瞬って永遠になるんです。時間の感覚が変わるというか。だからこれからも、ファンの皆さんと一緒にまだ見ぬ景色を見ていきたい。人生も時間も有限だからこそ、そういう瞬間をひとつでも多く共有できたらうれしいです。
――では、今後草彅さんが個人として挑戦してみたい“未知の世界”は?
まずは東京ドームでコンサートをやりたいですね。いまもファンミーティングをやっていますけど、あの大きな会場を埋められたら最高だと思う。あと個人的には、「速い爺さん」になりたい。そこに人生のテーマが隠されている気がするんですよ。って『バナ穴』くらい謎すぎるかな?
――「速い爺さん」? はい、ぜひ解説をお願いします!
年齢を重ねると動作ってどうしても遅くなるじゃないですか。でも僕は遅くなりたくないんです。もちろん年齢を重ねれば遅くなるのは当たり前なんだけど、そこに抗い続けて、80歳、90歳になってもサッと動ける人でいたい。きっかけは『ワンパンマン』に出てくるシルバーファングというキャラクターなんですけど、おじいさんなのにめちゃくちゃ強くて速いんですよ。それを見て、「速いお爺さんってかっこいいな」と思って(笑)。役者は何歳になっても現役でいられる仕事なので、80歳を過ぎても「まだ動作が速いね」って言われるような人でいたい。そうしたら、またおもしろい役にも出会える気がするんです。だから普段から、歩くスピードも昔より遅くなったなと思ったら意識的に速くしたりするなど、自主トレをしています。
『バナ穴 BANA_ANA』
●監督・脚本/山内ケンジ
●出演/稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾/ファーストサマーウイカ、趣里/古舘寛治、小澤征悦、吹越満 ほか
●音楽/大城静乃 ●主題歌/『バナナのうた』
●配給/CULEN ギークピクチュアズ
6月27日(土)グランドシネマサンシャイン 池袋の特別上映を皮切りに、その後全国順次公開
Ⓒ2026 BANA_ANA Film Partners
https://bana-ana.com/
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- Interview&text: Rieko Shibazaki