馬の存在が感じられる景色の中へ。エルメスの新作ハイジュエリーコレクションが映し出す、12のテーマとは。

Fashion

エルメスが2010年に誕生させたハイジュエリー、今回で第9回目となる最新コレクション「Into the Horsescape」がパリで発表された。

パリ装飾美術館の地上階の吹き抜けスペースに、ショーナ・ヒースの壮大なセットデザインを設けて新コレクション「Into the Horsescape」がお披露目された。

会場はパリ装飾美術館の中央広間で、吹き抜けの高い天井の下の空間に設けられたファンタジーあふれる会場装置はセットデザイナーのShona Heathが担当。いつの時代かどこの大陸かはわからないけれど、馬が存在したに違いないと感じさせる景色の中に新作90点のジュエリーが展示されていた。石から始まるハイジュエラーのクリエイションとは異なり、デザインから始まるオート・ビジュトリーでは時間をかけて求めている石を探すのでコレクションは2年に1度。ジュエリーに時間の贅沢も込められているのが、いかにもエルメスらしい。

ジュエリー部門クリエイティブ・ディレクターのピエール・アルディが「馬の姿はほとんど見えないけれど、その象徴性がひとつ1つのピースに息づき、時には比喩として現れます」と語るコレクション「Into the Horsescape」は、12のテーマで構成されている。銜(くつわ)、あぶみ、はみ、鞭といった馬具だったり、ギャロップのような馬の動きだったり、ケンタウロスのような神神話や伝説だったりと、馬の世界からのインスピレーションはさまざま。

馬そのもの姿が見えなくても、馬の持つ躍動感、息づかい、エネルギー、エレガンス、センシュアリティが感じられるコレクションだ。ジュエリーに用いられているメタルはピンクゴールドが多く、それはレザーのようにどこか肉感的で肌に合うことから。また貴石も黒翡翠やブラウンダイヤモンドといった色彩が多用され、馬の世界へと誘う輝きを放っていた。ピエール・アルディのクリエイティヴィティと遊び心に満ち溢れるコレクション。職人技、ファンタジーが込められた12のテーマを辿ると、まるで馬に乗って時空の旅をしたような気分が味わえる。

ÉTREINTES(エトラント)

ホワイトゴールドとダイヤモンド、エメラルドのネックレス。エメラルドは11.27カラット。
ピンクゴールドとブラウンダイヤモンド、カボションカットのピンクブラウントルマリンのネックレス。

馬具のハミの持つ優美な曲線を絡み合うように表現。エルメスにハミをモチーフにジュエリーが登場したのは1927年と1世紀近く前のことだ。シルヴァーと革のブレスレットだった。今回はホワイトゴールドとエメラルド、ローズゴールドとブラウントルマリンといった組み合わせで。


LASSO DISCO(ラッソ ディスコ)

ねじれた縄をジュエリーで表現したネックレス。

投げ縄にインスパイアされたアシメトリーなネックレス。ピエール・アルディが好むバゲットダイヤモンド、そしてクッションカットとブリリアントカットのダイヤモンドの巧みな配置が表現する投げ縄の立体的な結び目に躍動感が溢れる。


CHEVAUCHÉE(シュヴォーシェ)

ボロタイにインスパイアされたネックレス。

このテーマはアメリカの大平原、カウボーイ文化の原初的な造形美がインスピレーション源。長いチェーンと飾り留めの組み合わせはカウボーイたちのボロタイを思わせる。飾り留めのモチーフは具象的で、カウボーイブーツやハット……、それに混じってエルメスでお馴染みの馬や馬具のモチーフも。
メゾンの象徴的なモチーフは永続されてゆく。


HERMÈS APPARAT(エルメス アパラ)

ボディジュエリー。
プラストロンタイプのネックレス。

馬の頭部と首元を保護するフードにインスパイアされたテーマ。オープンワークと格子模様を用いて、体のラインに沿い、体を包み込ような構造が特徴的だ。プラストロンとベルトが一体化したボディ・ジュエリー、9.55カラットのブラウンダイヤモンドを下げたネックレスといった大振りのジュエリーからリングまで、職人技が生きた格子が魅力的である。なおリングやダブルリングでは格子に白蝶貝やピンクオパールが組み合わされ、レースタイプとは異なる魅力を放っている。


ATTELAGE D’OR(アトラージュ ドール)

機能的なアイテムが高貴なネックレスに。

馬を制御するのに必要なバックルや頭絡といった馬具の再解釈によるジュエリーは、馬具の工房が原点のエルメスらしい。ここでもバゲットカットダイヤモンドが用いられ、高貴な表現へと昇華させている。


ÉTRIERS(エトリエ)

足をかける鐙が、ネックレスやイヤリングに。

機能的なあぶみが、洗練されたプロポーションと鮮やかな色彩でシンプルかつ美しいフォルムに。このテーマではシュガーローフカボションカットの、タイガーアイ、ブラックジェイド、タンザナイト、オパールなど厳選された素材が用いられている。


SELLETTE(セレット)

サテンのようなブラックチタンと装飾を施したゴールドのブレスレット。

パリのフォーブル・サントノーレ店の上階に保存されているエミール・エルメス・コレクションの所蔵品のひとつである、ライオンを頂く18世紀のミニチュアの鞍。それに着目したピエール・アルディが、より小さなサイズで細部まで忠実に再現してブレスレットに。サテンのような質感を帯びたゴールドのチタンは、時の経過で風合いを得たレザーのよう。彫刻を施したゴールドとダイヤモンドが、オリジナルの装飾を繊細に再現している。


CENTAURE(ソントール)

ブレスレット
ネックレス

お馴染みギリシャ神話の半身半馬ケンタウロスに名をとったテーマで、馬の蹄の造形から着想を得たミニマルながら力強いリングやブレスレット。翡翠をフォルムに合わせてカット、精密に調整する宝石職人の高度な技と、ダイヤモンドの卓越したカッティング技術が見事だ。サテンポリッシュ仕上げの黒翡翠、そして研摩仕上げやミラーポリッシュ仕上げのゴールド、インヴィジブルセッティングのバゲットカットダイヤモンドという異なる素材のコントラストが際立っている。


GALOP HERMÈS(ギャロップ・エルメス)

ブレスレット
ダブルリング

指や手首に大胆なプロポーションの双頭の馬。他のテーマと異なりギャロップ・エルメスでは馬が堂々と姿を現す。彫刻的な馬の横顔にブラウンダイヤモンドとホワイトダイヤモンドが見事にセッティングされている。


CLOU DE FORGE LUMIÈRE(クルー・ドゥ・フォルジュ・リュミエール)

ネックレス
ホワイトゴールドとダイヤモンドが耳元で遊ぶイヤリング。

馬の蹄に蹄鉄を留めるのに用いる鉄の釘が、これほどモダーンで優美なネックレスに姿を変えるとは!! 素朴な道具を高貴なジュエリーに昇華させた素晴らしい1例。ダイヤモンドをずらしながら敷き詰めることで滑らかな表面に仕上げるパヴェセッティング、ダイヤモンドの石そのものの強さが美しい輝きを織りなしている。


FOUET DOUBLE TOUR(フエ・ドゥブルトゥール)

ダブルリング
リング
ドゥブルトゥールのブレスレット

2010年のエルメス初のハイジュエリーコレクションへのオマージュとなるテーマ。その中で発表された乗馬の世界を象徴する鞭をモチーフにプラチナとブリリアントカットのダイヤモンドが、今回はゴールドとダイヤモンドの組み合わせで再解釈された。レザーを編み込んだような質感に宿るのは、洗練としなやかさだ。


CAVALE(カヴァル)

いまにもはらりと解けてしまいそうな、しなやかなネックレス。

このテーマはサラブレッドの雌馬の意味。インスピレーション源は鞍の腹帯の起伏や陰影で、ホワイトダイヤモンドとにブラックとグレースピネルの微妙なグラデーションが光と陰を表現している。ピンクゴールドに黒のロジウムコーティングが施され、表情豊かなテクスチャーを引き立てている。


会場の奥、「Héritage」と題したスペースには、過去に発表された馬をテーマにしたジュエリーがアメリカのファーウエストを思わせる山が連なる景色の中に展示されていた。photography: Mariko Omura
問い合わせ先

エルメスジャポン
03-3569-3300
https://www.hermes.com/jp/ja/

大村 真理子

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター

東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。2006年から「フィガロジャポン」パリ支局長を務めた後、フリーエディター活動を再開。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。

  • photography: Julien Martinez Leclerc(モデルカット), Guido Mocafico(STILL), Christophe Coënon(セノグラフィ)