オペラ座エトワール、ロクサーヌ・ストヤノフの一日を追いかけて。
Une Journée de Roxane Stojanov
ロクサーヌは『パキータ』の主役を踊って2024年12月に任命された、パリ・オペラ座でいちばん新しい女性エトワール。古典大作からコンテンポラリー作品まで幅広く活躍する彼女の舞台裏からステージまで、5月のある一日を追いかけてみよう。

起床
出かける前は1時間は必要。目覚めたらすぐにカフェを飲む。今日の朝食はヨーグルト、ピーナッツバター、キウイ。お昼に食べる時間がない日は、カロリーは高いけれど腹持ちの良いチーズを。どんな一日が待っているかで朝食内容はさまざま。晴天の日は、自宅から電動自転車でガルニエ宮へ。下り坂なのであっという間に到着。モンマルトルに引っ越す前に買った電動自転車のおかげで、帰宅時の上り坂も楽々!


ガルニエ宮に到着

楽屋でシニヨンを結うことからスタート。公演翌朝ですごく疲れている時は、先にカフェを一杯! 練習着に着替えたら、クラスレッスンの前にストレッチしたいのでスタジオへと急ぐ。ちょっとした怪我がある時は、ガルニエ内のキネに先に診てもらって。14歳から通っているピラティススタジオに朝立ち寄ってから来ることもある。

楽屋を出発

先輩エトワールたちの楽屋の前を通り、100m廊下と呼ばれる長い通路を歩いてクラスレッスンへ。途中、水筒に水を入れる。大きな水筒をオペラ・バスティーユに忘れたので、小さい水筒に何度も満たして。

クラスレッスン

円形で傾斜のある最上階のスタジオ・プティパで行われる、10時のクラスレッスンへ。入団したての若いダンサーたちが挑戦するレッスンで、私はその雰囲気がとても好き。それに『パキータ』『ドン・キホーテ』で私のコーチだった教師ジャン=ギヨーム・バールのクラスなので、リハーサルが引っかからない限りは受けるようにしている。

持久力をつけるための一環として必ず最後までこなすことが、朝のクラスレッスンに対する私のフィロソフィ。これによって身体の準備ができ、その後に続く一日のスケジュールを正しくこなせる。ちなみに10時45分からは“エトワール・プルミエールダンスーズ”と呼ばれる、12時からリハーサルがあるソリスト向けのレッスンもある。


新しい楽屋の工事が気になる

エトワールのひとり用楽屋が目下改装中で、引っ越しの日も近そう。ドロテの楽屋のようにポアント専用の棚を作ってもらおうと考え中。カーテンは赤いビロードにするので、それに似合うテーブルをすでに購入済み。ソファを探しているところ。素足で快適に過ごせる白いカーペットもあったらいいかと……。いま使っている電子レンジ、コーヒーマシンに加えて、小さな冷蔵庫も。カプチーノ用ミルクを冷蔵して、休憩時間にダンサー仲間を招いてカフェタイムを楽しみたい。

リハーサル

スタジオ・リファールで『ラ・バヤデール』のガムザッティとソロルのパ・ド・ドゥのリハーサル。4年前に夢が叶って初役で踊った時は膝の手術後だったこともあり、この役がとてもハードだったけれど、今回は経験も積んだから踊る喜びが感じられる。ユーゴ・マルシャンは相手がどう機能するかをすぐ理解する、素晴らしいパートナー。指導役のフロランス・クレールと一緒の仕事はオペラ座では初めてだけど、彼女のコーチングは芸術。すごく興味深い。

楽屋へ戻る

戻りは来た時と別ルート。パリの景色を眺められる気持ちの良い廊下を通って。休憩時間や開演直後に出番がない時など、ちょっとした時間があると針と糸でポアントを縫う。楽屋にはミシンも。


コスチュームのフィッティング

体形や姿勢の変化も考えられるので、過去に着た衣装でも公演ごとにフィッティング。アニエス・ルテスチュの話では、経験により呼吸の際に肋骨が以前より開くようになることもあるらしい。アラベスクしたり腕を上げたりして、チュチュとサリーの2着をフィッティング。胴が短く脚が長い体形なのでビジュアル面でのバランスを取ってもらうことも必要。衣装も衣装部の人たちの仕事も素晴らしい! 靴は新たに作り直すので、今日は足の採寸も。


ニット部門でフィッティング
クリスタル・パイト振付『The Seasons’ Canon』の衣装を合わせに、伸縮素材を扱う部門へ移動して。私が踊るのは2016年の創作時、マリ=アニエス・ジロに振られたパート。

昼食

公演のある日のランチタイムは消化もでき、かつ終演まで空腹を覚えない16時が理想。前の晩に作った料理の残りを持ってきて楽屋の電子レンジで温めて食べることもある。今日は食堂脇に最近設置された自販機で、調理済みのランチを購入。タンパク質、食物繊維、デンプンなどダンサーの身体に向けて考えられた料理で種類も豊富。カフェテリアで知り合いのダンサーとおしゃべりしながら、リラックスしたランチ休憩を。

シエスタ

公演前は活力を得るために、楽屋のソファで仮眠をとるようにしている。30分が最高。それ以上だと逆効果に。

ヘアメイク
眠りから覚めたら、いよいよ公演『椿姫』のマノン役の準備。ヘアからスタートし、18時からはメイクに着手。

ウォーミングアップ
ステージ裏のシャンデリアが輝くホワイエ・ドゥ・ラ・ダンスで、公演前にポアントでウォーミングアップ。こんな素晴らしい場所で準備ができるって最高!

『椿姫』の公演

今回はプリュダンス役とマノン役に。今晩が最後のマノン役でパートナーはトマ・ドキール。役柄、上幕ごとにどんどん状態が劣化してゆくコスチュームで、第3幕の途中、舞台脇の小部屋で黒っぽい汚れ風メイクを施してもらう。


友人とディナー
公演終了後、楽屋でメイクオフ&シャワー。楽屋口で待つ人たちと言葉を交わすのが楽しみなので急ぐ。その後は舞台を観に来てくれた友だちと一緒に、遅くまで営業するガルニエ宮の近くの顔なじみのインド料理店でディナー。

自転車で帰宅
生後2週間の時に田舎で見つけた真っ黒な雑種猫のHaribo(アリボ)が、悪さをせずに待っていてくれた。今日はフルタイムのスケジュール。でも、こういう日は生き生きとした自分を感じられる!
- editorial direction & text: Mariko Omura
- photography: Mohamed Khalil
- editing: Eri Arimoto
*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋
