次週最終回! ドラマ「Tシャツが乾くまで」、華麗なる俳優たちの演技に改めて注目。
文・小林久乃
ドラマ「Tシャツが乾くまで」、前回までのポイントをおさらい!
●ある二組の夫婦に起きた事件。編集者の瀬尾咲子(蒼井優)のもとに、一年間も自宅を不在にしていた失踪癖のある夫・充(松山ケンイチ)が突然、帰ってきた。近所に住む主婦の園田あずさ(夏帆)は、充と同乗していた長野県行きのバス事故で死亡している。
●不倫ではなく、互いのパートナーに言えないことを月に一度コインランドリーで話していた、と充から聞かされた咲子と、あずさの夫・樹生(中島歩)。ショックを消化できない咲子は海のある街へ家出をしてしまう。
●必死に咲子を探す充。「嘘は言わない」のが夫婦の約束だった瀬尾夫妻のはずが、充の過去、失踪癖に続き、いままで咲子も夫に話せなかった秘密が紐解かれていく。
●「リアタイをしたくて週末の金曜日は飲みに行けなくなった」というドラマラヴァーでコラムニストの小林久乃が、9月11日(金)最終話間近の「Tシャツが乾くまで」(TBS系)への愛を文字で叫ぶ。
第8話の終盤であがる驚きの声

「ええっ!? イノッチー!?」
第8話の放送終了間際、テレビに向かって叫んでしまった。浜辺で子どもたちと楽しそうに戯れる咲子、おそらくその父親だと思われる篤彦(井ノ原快彦)が登場した。予想外のキャスティングに、「イノッチ」の愛称を人生最大ボリュームで叫んだ瞬間だった。おそらく同じように思わず声が漏れてしまった視聴者も多いはず。それだけ夢中になって、放送1時間を観ていた証しだ。
前回のコラムで「Tシャツが乾くまで(以下『T乾』略)」は2026年の顔であり、その魅力を牽引しているのは「蒼井優の演技に尽きる」を書いた。今回はもうじき観られなくなってしまう、主要登場人物やキャストについてのいわば、所感である。

まずは前半まで咲子とともに、バス事故からパートナーに取り残された同士として物語を動かしてきた園田樹生。私は彼こそドラマ内でいちばんの被害者であり、常人だと解釈している。好きな女性と結婚してひとり息子ができて、ふつうの幸せを満喫していたのにその日々はある日、遮断されてしまった。悲嘆に暮れ、精神的にボロボロだった樹生が咲子にも言葉で当たってしまう姿も散見された。
「あなたの夫、僕の妻と不倫していましたよ。(中略)好きな人フィルターでしたっけ? 掃除したほうがいいですよ」
その後、夫に裏切られても明るく生きようと振る舞う咲子に惹かれていたようだ。第4話で「可哀想な人同士(咲子と自分)ならいいんじゃないですか」と、花火の音にかき消されながらも自分の気持ちを吐露していた。ただ第8話では「あの人、たぶん“爆弾”抱えていますよ」と、咲子を指していたので、盛り上がっていた愛情が冷めてきたのかもしれない。いま、樹生はどんな心情でいるのだろうか。
中島歩、あんな日本人がまだいたなんて!
発売中のフィガロジャポン10月号増刊号の表紙を飾る中島は、独特のテンポを持ったパブリックイメージが広がっている今年の顔。繊細そうな樹生を演じきっている。各所のインタビューで「芝居ならできますよ」と言う、演技との乖離がすばらしい。私がよく覚えているのは、昨年5月の「あさイチ」(NHK総合)で、京都レポをしていた中島だ。皆が予想するレポではなく、何かを食べるときも歩く際も、あのゆったりをした雰囲気を崩さない様子に目が離せなくなった。アナウンサーから「どんな人と言われますか?」と聞かれると「変だよね、って言われますよね、よく」。他人との比較が日常茶飯事になって、他人と同調していないと不安さえ感じる、なにかと忙しない昨今に自分のペースを乱されない存在は貴重だ。おそらく彼のスケジュールは、来年以降も満杯だろう。あんな日本人、いないもの。
そして樹生と対峙する関係の瀬尾充。賛否両論あると思うけれど、初回から現在に至るまでやっぱり私は解せない。両親からのネグレクト、失踪癖という病気にも同情の余地はあるけれど、心が彼には寄り添えない。音信不通の妻を「さっちゃん、上着持たないで出てっちゃった」と過剰な心配をしたり、咲子がトイレに行っただけで大騒ぎをしていたけれど……いずれも「どの口が言う?」と、突っ込みたくなる。まずは自分と向き合う時間が必要ではないか、充。

ただ一点の救いがあるとしたら、充を演じたのが松山ケンイチだったことだ。彼が千両役者であるのは周知の事実だけれど、その実力を見せつけられたのが先週放送の第8話。あずさの遺影に手を合わせて、樹生から「おまえが死ねばよかったのにって、思ってますよ。なんであずさが」と糾弾されつつも、震えながら泣く姿。咲子を知る人物を集めて情報収集をしていると「死んでいるんじゃ」と言われて、はらり、と涙をこぼす様子。たった一瞬で訴えてくる心の機微はすごかった。
代打が効かない、咲子、充、樹生、あずさ
最後に、充と意気投合をして樹生に愛された、あずさのこと。本編サイドストーリー「サプライズが届くまで」の7.5話では彼女を「ちょっとデリカシーのない主婦」と紹介していた。天真爛漫なのか、空気が読めないのか、心根が優しいのか、あるいは寂しいのか……と、いくつもの表情を持ち合わせている。えもいわれぬ色気がある女性、それがあずさだ。

この役も充と同じで、もし夏帆が演じていなかった場合の代役が想像できない。それは蒼井優を含む主要キャストすべてに当てはまる事実である。世間にリリースされているエンターテイメントは、退職していく会社員の仕事と同じで必ず代打が効く。そんな中でも代打が想像できない役柄、曲など唯一無二が感じられるものが稀にあって、出会えた時はとても興奮するし「T乾」はいま、その興奮を振りまいている。蒼井優以外が演じる咲子、松山ケンイチ以外の充、中島歩以外の樹生、夏帆以外のあずさは想像が不可能なのだ。
さて「T乾」。8月31日放送の「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」(ニッポン放送)に出演した中島歩が「(イノッチ登場よりも)それよりびっくりすることが起きるんで」と言っていたけれど、はたして。
金曜ドラマ「Tシャツが乾くまで」
TBS系にて毎週金曜22:00〜放送中
9月11日(金)最終回(第10回)
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