「手芸」が持つ社会的文脈を解き明かす『手芸とエンパワメント──私たちが紡ぐもの』ほか、今月読みたい5冊!

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『手芸とエンパワメント──私たちが紡ぐもの』はじめ、今月も想像力を刺激する5冊をセレクト。ローマを舞台にした物語から、名画を巡るミステリー、食と言葉を味わうエッセイ、夢のような写真集まで。秋の読書時間を豊かにしてくれる本をご紹介。


01.『手芸とエンパワメント──私たちが紡ぐもの』

山崎明子著 晶文社刊 ¥2,200

“女の嗜み”を裏切って、針と糸で手にする力。

文:松島瑠璃子 脚本家

フェミニストでありながら手芸愛好家であることの“矛盾”のようなものに葛藤を感じてきた。手芸をするだけで“家庭的でおとなしい女性”のレッテルを貼ってくる周囲の目が鬱陶しかったからだ。編み物や刺繍の世界で私が体験する興奮や達成感を無視して、“女の子らしさ”や“しとやかさ”だけの文脈で雑にジャッジされることへの嫌悪感、「過小評価ではないか?」という疑問はうまく言葉にできなかった。そんなモヤつきをこの本は丁寧に熱く振り払ってくれる。

本書で語られる手芸の社会的文脈を知り、手芸に出合い直すということは、私の場合は祖母から受け継いだ編み物という魔法を、真の意味でアクティベートすることだ。そして、手芸を武器に連帯し闘ってきた女性たちの手仕事を追体験することで、思いを寄せ、力をもらうことができる。この本は、手芸を楽しむすべての人、これから始める人たちにその秘密の力を伝授してくれる魔女の手引きのようなものだ。わからない人にはわからないかもしれない。でも、手芸には力がある。

思えば、大人になって教育機関や職場以外でできた友だちはほぼすべて手芸を通して知り合った仲間だった。手芸という共通言語には国境や年齢の差を瞬時に取り払う力がある。たとえば編み物なら、素材や道具、細かい編み方まで、初対面でも話したいことが山ほど出てくる。技術を分け合うことも楽しいし、黙って一緒に編むだけでも楽しい。本書では、連綿と続いてきた女性たちの手芸コミュニティや、サフラジェット(女性参政権運動の活動家)から山姥(日本のフェミニスト手芸グループ)まで、手芸を通した社会活動にも焦点を当てていて胸が熱くなる。フェミニストと手芸愛好家の間で捻れていたアイデンティティを矛盾なく繋げてくれるのだ。

禁断の果実を食べたエバは楽園を追放され、糸紡ぎの労働を課されたという。読了したいま、手芸のおもしろさを発見し、仲間たちとおしゃべりしながら糸紡ぎに没頭するエバの姿が想像できる。

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松島瑠璃子
Ruriko Matsushima
脚本家
制作会社でドラマの制作に関わったのち、2019年に脚本家デビュー。代表作に「紅さすライフ」「若草物語-恋する姉妹と恋せぬ私-」(ともに日本テレビ)など。DMM TVにて「幸せカナコの殺し屋生活 2」が配信スタート。趣味は編み物。
@rurikomatsushima

【Read More】
▶︎三國万里子が語る、幸せな編む日々のこと。
▶︎世界のニッター最前線、注目のクリエイターを紹介。
▶︎初級から上級まで、編み物の始め方と続け方。

02.『ローマ物語』

ジュンパ・ラヒリ著 中嶋浩郎訳 新潮社刊 ¥2,365

短編の名手が紡いだ、ローマが舞台の9つの物語。

デビュー作『停電の夜に』でピュリツァー賞を受賞してから20余年。短編の名手の最新作は、ローマを舞台に描いた9つの物語。久しぶりの再会を喜ぶふたりの女性。トラットリアで起きた出来事が彼女たちの友情に影を落とす。友人の誕生日パーティでふと抱いた妄想が現実になった瞬間。イタリア語に魅せられ、ローマに7年暮らしてもなお、よそ者である。移民としての孤独感が作家の創作の原点であり、ほろ苦い余韻が胸を刺す。

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03.『クリムトの盗まれた女』

カミーユ・ド・ペレッティ著 田中裕子訳 講談社刊 ¥2,750

クリムトの謎多き名画を巡る、鮮やかなアートミステリー。

1997年にイタリアの美術館から盗まれ、2019年に無傷で発見されたグスタフ・クリムトの『婦人の肖像』。謎多き実在の絵画に描かれた女性は一体誰なのか。ニューヨークで靴磨きをしていたイジドール。ウィーン近郊で暮らすシングルマザーのマルタ。テキサスの娼婦ミシェルの娘パール。バラバラに見えた3世代の人生が交錯する時、名画に秘められた数奇な運命が浮かび上がる。フランスで驚異の20冠を受賞したアートミステリー。

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04.『タコ セロリ アボカド』

長谷川あかり著 文藝春秋刊 ¥1,760

あのレシピはこうして生まれた、話題の料理家の初エッセイ。

手を汚さずに作れる酒蒸しハンバーグに薬味たっぷりの出汁カレー。長谷川あかりが提案するレシピは作り方も少し変わっているし、意外すぎる食材の組み合わせに「あかり、信じてるぞ」というネットミームでさらにバズることに。それでもおいしいひと皿はどうして生まれたのか。子どもの頃の思い出から人気レシピの誕生秘話までが綴られた初めてのエッセイ。料理することに救われてきた人による体験的な料理論にもなっている。

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05.『MAKING MARIE ANTOINETTE』

アンドリュー・ダーハム著 IMPORTANT FLOWERS / MACK刊 ¥16,500

映画『マリー・アントワネット』の世界観が時を超えて蘇る写真集。

2006年公開のソフィア・コッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』。その制作の一部始終を長年の友人でもある写真家のアンドリュー・ダーハムが記録した写真集。マカロンカラーで彩られたヴェルサイユ宮殿。主演のキルスティン・ダンストらキャストたちの舞台裏の姿も魅力的だ。横浜美術館で開催中の『マリー・アントワネット・スタイル』展が話題のいま、ガーリーカルチャーの神髄を詰め込んだ世界観にあらためて触れてみたい。

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▶︎村重杏奈、『マリー・アントワネット・スタイル』で知った美術館の魅力。
▶︎映画『マリー・アントワネット』の世界が蘇る……限定コラボマカロンが発売!

  • text: Harumi Taki
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*「フィガロジャポン」2026年11月号より抜粋