ひとり旅にも! 1年でいちばん贅沢な湯浴みへ。紅葉に包まれる温泉宿3軒。

Lifestyle

歩いて見るのもいいけれど、湯に浸かって見上げる紅葉はやはり別物だ。肩まで沈めて、ただ見上げる。首筋を抜ける風は冷たく、湯は熱い。その温度差のなかで見た色は格別だ。渓流のただなかに建つ一軒、渓谷と目線を合わせる立ち湯、古都の庭を抱えた宿──。北から南へ、紅葉と温泉を同時に味わえる3軒を訪ねる。


奥入瀬渓流ホテル|青森・十和田

渓流沿いに建つただ一軒。黄金色の森で、湯に浸かる

十和田湖の子ノ口から焼山まで、約14kmにわたって流れ続ける奥入瀬渓流。「奥入瀬渓流ホテル」は、その流れに寄り添って建つ唯一の宿だ。

奥入瀬の紅葉は、ほかの地のそれとはまるで性格が異なる。ブナ、カツラ、トチノキ――100種を超える落葉広葉樹が黄金色に染まる。見頃は10月下旬から11月上旬。朝、渓谷に差し込んだ光が葉を透かすと、森全体が内側から光を放っているように見える。

「視線を下げれば、岩を覆う苔はまだ青い。頭上は黄金、地面は緑。そのあいだを水が白く走っていく。この三層が同時に視界に入るのは、渓流沿いの紅葉だからこそ。散策路には阿修羅の流れや雲井の滝といった名所が点在し、宿泊者は渓流シャトルバスを無料で使えるので、歩きたい区間だけを選んで歩くこともできる。

ロビーに据えられているのは、岡本太郎のブロンズ暖炉「森の神話」。1991年、この吹き抜けのために制作されたもの。火が入る季節には、炎とガラス越しの紅葉がひとつの画のなかに収まる。

温泉は八甲田山系から引く。館内の大浴場に設けられた「渓流露天風呂」は、その名のとおり眼下に奥入瀬の流れが広がる。湯に肩まで沈めて見上げれば、頭上を覆う枝がすべて色づいている。

客室は全181室。渓流に面した客室には、源泉を引いた風呂を備えた客室タイプもある。日中は渓流沿いを歩き、夕方は川辺でアペロ、夜はフレンチレストラン「Sonore」へ。ルーペ片手に苔を覗き込む「苔さんぽ」、形も大きさも個性豊かなきのこたちが顔をのぞかせる秋ならではの「毒きのこさんぽ」など、奥入瀬の森をより堪能できるアクティビティも盛りだくさんだ。頭上に色づいた木々が広がるなか、足元に目を向けるのもきっと楽しい。

奥入瀬渓流ホテル
青森県十和田市大字奥瀬字栃久保231
客室数/181室
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/oirasekeiryuhotel/
★Google Map

扉温泉 明神館|長野・松本

渓谷の「立ち湯」で、紅葉と目線の高さを合わせる

松本駅から車で30分。市街を抜け、山道を登っていく。人家が少しずつ途切れ、森の気配が濃くなっていく。その先、八ヶ岳中信高原国定公園の深い森のなかに現れるのが明神館だ。1931年、小さな湯治場として始まった同宿は、2008年、世界の名宿が名を連ねるルレ・エ・シャトーに加盟。夕食はフレンチと和食から選べ、地元野菜や自社農園の食材を取り入れた料理を味わえる。

明神館が提案するのは、温泉、森、食を通じて心身をゆるやかに整える「現代の湯治」だ。湯に浸かり、森の音に耳を澄まし、信州の旬を味わう。滞在そのものが、静かに身体をほどいていく。客室は全39室。紅葉の見頃は、例年10月中旬から11月上旬にかけて。山あいだけに、里よりひと足早く色づくため、京都や東北の紅葉前線とは時期がずれる。秋を二度味わいたい人にもおすすめだ。

秋の魅力を象徴するのが、渓谷側が大きく開かれた立ち湯「雪月花」だ。立ったまま腰上まで浸かると、正面にはわさび沢と、斜面を埋める木々が遮るものなく広がる。赤と黄に彩られた山と、まっすぐ向き合いながら湯に浸かる。紅葉と目線の高さが揃う、という体験はそうそうない。渓流のせせらぎや、木々を渡る風に耳を澄ませながら、自然に全身をゆだねられる。

湯殿はほかに2つ。露天風呂を備えた大浴場「白龍」と、枕木に頭をのせて空を見上げる寝湯「空山」だ。泉質はアルカリ性単純泉。湯温は38〜40度に整えられ、ゆっくりと湯浴みを楽しめる。色づいた山を背に、鳶や鷹が頭上を旋回していく。ぬるめの湯に浸かりながら秋の景色を眺める、珠玉の時間を堪能したい。

扉温泉 明神館
長野県松本市入山辺8967
客室数/39室
https://www.tobira-group.com/myojinkan/
★Google Map

紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良|奈良・奈良公園

文化財の庭を抱えた宿で、古都の秋を温泉とともに

「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」が位置するのは、奈良公園の一角。興福寺・東大寺・春日大社に囲まれた敷地は、それ自体が歴史を抱えている。メイン棟は、大正時代に建てられた奈良県知事公舎を再生したものだ。設計監修とインテリアは隈研吾建築都市設計事務所が担当。2023年8月、当時の設えを残しながら現代の宿として蘇った。

約9,000坪の敷地に8棟が点在し、まるでひとつの町並みのような構成となっている。敷地内には日本庭園「吉城園」があり、旧興福寺子院「世尊院」を改修したカフェも置かれている。この「庭を抱えている」という構成が、紅葉の季節にはひときわ光る。

秋の深まりとともに、奈良公園はモミジやイチョウが順に色づく。見頃は11月中旬から12月上旬。吉城園の池と苔庭に紅が落ちる様子は、人の多い参道の紅葉とはまったく別の静けさをまとう。レストラン「翠葉」は庭に面していて、色づいた木々を眺めながら食事ができる。

客室は全43室、43〜98㎡。一部の客室には、「朱雀の湯」と名づけられた天然温泉を湛えた内風呂や露天風呂が備わる。古都の中心で、部屋にいながら温泉に浸かれる稀有なホテルだ。

社寺の拝観を終え、門前の喧騒を抜けて、庭に戻る。湯に身を沈めれば、千三百年の都の夜が、静かに更けていく。

紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良
奈良県奈良市登大路町62
客室数/43室
https://www.shisui-nara.jp/
★Google Map

  • editor: Aya Hasegawa