バラを使わずにバラを香らせる。カルティエの専属調香師が語る創造の美学。

Beauty 2026.01.22

カルティエの専属調香師、マチルド・ローランのラボラトリーは、ハイジュエリーメゾンが軒を連ねるヴァンドーム広場からほど近い、パリのフォーブル・サントノレ通りにある。自然光がたっぷりとふり注ぐその空間は、アートと化学、自然が融合するクリエイションの場だ。ここから、カルティエの新たなフレグランスが生まれていく。

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カルティエの専属調香師マチルド・ローラン。いまのフレグランス界で最も前衛的な存在。

2005年にカルティエの専属調香師に就任したマチルド・ローランは、香水をひとつの「芸術」として捉えている。香水の歴史とその芸術性への深い敬意をはらいながら、独自の哲学と斬新な手法で、"カルティエらしい"香りを生み出してきた。

約180年の歴史を誇るジュエラー、カルティエの香りを担うということは、単に美しいフレグランスを作ることではない。「カルティエには、長い時間をかけて培われてきたサヴォワールフェール(職人技)があります。メゾンの一員として、専属調香師として、カルティエにしかできない独自のスタイルのある香水を創り出すことが、私の役目なのです」そう語るマチルドは続けて、「私は自分を消して、メゾンの歴史や精神をすべて吸収して、まるでAIのように分析、再構築して、カルティエの香りを創造することが喜びなのです」とメゾンと香水へ真摯に向き合う姿勢は、彼女の調香の大きな指針となっている。

「カルティエでは、ジュエリーとフレグランスの間に共通点がある」とマチルドは目をキラキラと輝かせながら語ってくれた。
「まず、ジュエリーもフレグランスも首元や手首に纏うという共通点があります。そして驚いたことに、素材の種類、色、サイズ、数、配置などが綿密に記されたハイジュエリーの設計図は、香料の種類と分量を細かく記す香水の処方箋とほとんど同じだったのです。また、宝飾職人にとってジュエリーの本質的な素材は、石や貴金属ではなく"光"だと言います。光はファセット(切子面)の間を踊り、輝き続ける。"光"もまたジュエリーとフレグランスの共通言語なのです。カルティエでは、香水は決して人の目には見えないけれど、身に纏う人のオーラとなり力を与え、その人の周りに漂い光を放つ。香りは力であり存在感であり、ジュエリーと同様に纏う人に力を与えるものなのです」

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最上のペレグリナオイルを配合した「レ バーズ ア パルフュメ カルティエ」コレクションは無香性のボディオイル、ボディクリームにフレグランスオイルをその時々の気分によって、好みによって好きな量を加えるという新しいフレグランスの楽しみ方を提案している。

さらに創作のプロセスにおいても、両者は似ている。ジュエリーでは、肌の上で石がどう反応するか、どう組み合わせれば完成するかを確かめるという点も、フレグランスの創作との共通点である。また、伝統と革新のメゾン、カルティエならではの共通点もある。それは新しい素材を探求し続けていることだ。これまで誰も注目してこなかった石を見出し、美しいハイジュエリーへと昇華させてきたカルティエ。ひとたびその素材が用いられれば、翌年にはみんなが買い求め、市場から姿を消してしまうこともあるという。だからこそ、メゾンは常に未知の素材や希少なもの、美の原石を探し続ける。

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カルティエの象徴的なフレグランス、「ラ パンテール」。マチルドはカルティエの伝説のアートディレクター、ジャンヌ・トゥーサンに思いを巡らせ、シプレ、ムスク、ガーデニアを用いて再解釈した。

マチルドの調香もまた、同じ探究心に貫かれている。香料は3,000種類以上存在すると言われているが、ひとりの調香師が常に把握できているのはせいぜい500種類ほど。残る約2,500は、新しい創作のたびに向き合うべき未知の領域だ。彼女は、よく知る原料に安住することなく、新しい素材へと向かう。

「バラの香りを作る時にバラは使いません。バラを使わずにバラを感じさせること、それが調香師の仕事であり、サヴォワールフェール(職人技)なのです」

バラの香りを表現するためにあらゆる原料を試し、探求する。これは彼女のスタイルでもある。

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白を基調にしたラボラトリーには自然光がたっぷりとふり注ぎ、ここがパリの中心地であることを忘れるほど、ゆったりと静かな時間が流れる。

ラボラトリーには香料だけでなく、写真や音楽、ストリートアートが共存していて、まるでギャラリーのよう。マチルドはここで、アートの分野や国境、自分の好みといったあらゆる境界を軽やかに飛び越えて、唯一無二のカルティエのフレグランスを生み出すべく、独創的なアプローチでイマジネーションと探求を続けている。時代を読み取り、カルティエらしいエレガンスと遊び心たっぷりに、マチルドは今日も、香りというかたちのない芸術、美しいフレグランスというアートを紡ぎ出している。

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ラボラトリーのエントランスは、まるでアートギャラリーのよう。photography: Maki Kotabe

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マチルドのデスクスペース。周りにはさまざまなアートピースがちりばめられている。photography: Maki Kotabe

問い合わせ先:
カルティエ カスタマー サービスセンター
0120-1847-00(フリーダイヤル)
https://www.cartier.jp/

photography: ©Cartier text: Maki Kotabe(Paris office)

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