独自の哲学でカルティエの香りを作る、マチルド・ローラン。【仕事が私にくれたもの】
Society & Business 2026.01.20
独自の哲学で、アートのように香水を生み出す。

マチルド・ローラン/Mathilde Laurent
カルティエ 調香師
いまのフレグランス界で最も前衛的な存在である香りのアーティスト。名門校で調香を学び10年間の経験の後、2005 年より現職。ハイジュエリーを創作するように独自の美学で香水を創作する。
若い頃のマチルド・ローランは写真に情熱を注いでいたが、周囲から「いつも匂いを嗅いでは香りの話ばかりしているのだから、調香師になるべきだ」と言われたことをきっかけにその道を選んだ。彼女はあらゆる香りを記憶しており、「プルーストがマドレーヌによって記憶の扉を開いたように、香りによってそれと結びついた人々や食事、風景といった人生の断片を鮮明に思い起こすことができるんです」と言う。

彼女の代表作のひとつ、13の時間をテーマにしたレ ズール ドゥ パルファン 左から、大胆にバラが香るルール オゼ オードパルファン、ジントニックを思わせるルール ブリヤント オードトワレ 各75ml 各¥39,435/ともにカルティエ(カルティエ カスタマー サービスセンター)
インスピレーション源を尋ねると、「カルティエというメゾンそのものです。ハイジュエリーの世界を革新し続けてきたカルティエが香水を生み出す以上、そこには必ず独自のスタイルがなければなりません。たとえばレ ズール ドゥ パルファンのルール ブリヤントでは伝統的なオーデコロンを現代的に再解釈し、複数の柑橘を重ねるかわりにライムのみを用いて、さらにジンの香りを加えることでジントニックを思わせる軽やかで大胆な香水を完成させました」と、創作の裏側を楽しそうに語った。
「私はカルティエの歴史や精神をすべて吸収し、まるでAIのように分析・再構築して香りを生み出すことに喜びを感じるのです」

アートに造詣の深いマチルドのラボはギャラリーのよう。
彼女の言葉にエゴは介在しない。
「コーヒーやお茶と同じく、香水は人生を深く味わうための"美しい液体"なのです。サルトルが『他者を嗅ぐということは、その人を飲み込むことだ』と語ったように、香りは身体の内側に外界を取り込む行為なのです」
マチルドは日本の香道における"香りを聞く"という思想にも感銘を受けた。調香師として大切なのは「美を通して自分を高め、異なる文化を学び、好奇心を持って世界をより深く理解し続けることだと思います」
*「フィガロジャポン」2026年3月号より抜粋
text: Maki Kotabe (Paris Office) photography: © Cartier






