クリエイターの愛用デジタルツール。 #01 LAのインフルエンサーがつぶやく、話題の4行ポエム。
Culture 2016.11.04
社会人としての人生を歩き始めたミレニアル世代女子の共感を呼び、圧倒的な支持を得ているインスタグラムアカウント「@quarterlifepoetry(クォーターライフポエトリー)」。ミレニアルたちの生活と心情の複雑な葛藤や七変化をストレートに表現する4行ポエムとシンプルなイラストで構成される投稿のフォロワーは現在11万人を超え、本も出版されているほど人気だ。その投稿をしているインフルエンサー、サマンサ・ジェインに、デジタルライフについてインタビュー!
「クォーターライフポエトリー」の著者、サマンサ・ジェイン。サンタモニカの自宅にて。
「暑くてごめんなさい」と言いながら、チャーミングな笑顔で自宅へ迎えてくれたのが「クォーターライフポエトリー」のクリエイター、サマンサ。彼女が住むサンタモニカの海辺に近い部屋は、普段なら海風が心地よいはずなのに、この日は季節外れの蒸し暑さ。それでもクォーターライフ、つまり25年の人生におけるクライシス(危機感)なんて感じさせない明るさいっぱいの彼女に、ミレニアルたちのため息、不安と自信、同情やランダムな興味の対象などをユーモアたっぷりに綴る「クォーターライフポエトリー」ローンチの経緯を聞いてみると、笑いを誘うクリエイティブらしからぬ、ダークな出発点だったようだ。
「ごめんなさいというまでに時間がかかってごめん。というのも本心ではまだ私は間違ってないと思ってるから」Instagram@quarterlifepoetry
サマンサが美術を専攻した大学時代から感じていた、まだ駆け出しの大人としての自負とプレッシャーは、大学院卒業とともに不景気の真っただ中に投げ出されたことで、一層大きなストレスとなって彼女の肩にずっしりのしかかった。広告代理店でフリーのアートディレクターとして仕事を始め、プロとしてはりきる一方、上司との付き合いや、オフィスでの長時間にわたるヘトヘトになるまでの仕事への戸惑いも。息抜きに見たはずのスマホ画面には、同世代のインスタなどソーシャルメディアへの楽しそうな投稿や美しいセルフィー、あれもこれも達成感のある画像が溢れていて、「これがあるべき現実? 私ってダメなの? どこかで失敗しちゃったのかしら?」と自分の現実とソーシャルメディアで期待されているリアリティのギャップに愕然とする毎日が続いたそう。
「友達はベビーがいて、セレクトショップも経営してる。私ったら、先週買ったサボテンさえ、枯らしてる」Instagram@quarterlifepoetry
へこんでばかりいた小さなクライシスモードのなかで、「でもね、ある日気づいたの。もしかしたら、私と同じように感じている人もいるんじゃないかって。それで自分の生活を題材にしたショートポエムを書き、タブレッドで手描きのイラストを添えて、インスタグラムで『クォーターライフポエトリー』をローンチしたのね。それは私なりのセラピーだったの」
Quarter Life Poetry: Mom Talk
「クォーターライフポエトリー」を本として出版した時に制作した、書籍プロモーション用映像シリーズ「クォーターライフクライシス」より。
「そうしたら、ものすごい反響があってびっくり。表面下ではみんな私と同じように思っていたのね。だったらみんなも表立って言えないでいる気持ちを表現して、共有する場所にできるかなと思って」。そんな思いで続けたサマンサの実体験に基づく20代のクライシスポエム「クォーターライフポエトリー」は、共感したフォロワーにとって、いつの間にかコメントや会話を通じて「ここにいけば大丈夫」的コミュニティになった。彼女たちはある時は自虐的に笑い、「でもそれでいいじゃない」とお互いを励ます。一見投げやりにも感じられるポエムは、本当はアスピレーショナル=上昇志向が基本テイスト。自分を認めることで、次へ進めるから。ポエムとイラストに対するフォロワーのコメントは、サマンサのインスピレーション源でもある。
*次のページでは、サマンサが創作活動のために愛用しているアプリやツールをご紹介!
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サマンサのポエムとイラストは、あるひとつのアイデアや言葉から創作が始まる。詩の創作のために愛用しているのはGoogle Docs。「思いついたアイデアや言葉をGoogle Docsに書き留めておくの。きっと何十億にもなっているかな(笑)。Google Docsはスマホからアクセスできるから、すぐに行動できる」


思いついたアイデアはGoogle Docsに保存していく。そうして創作してきた「クォーターライフポエトリー」は反響を読んで書籍化された。


スマートフォンはサマンサにとって手放せない存在。イラストはワコムのバンブータブレットで描いている。
そして「ポエムが完成したら、次はイラスト。大学時代に購入したワコムのバンブータブレットに、お気に入りのドライブラッシュツールで描きます。手描きの雰囲気が出せるし、デジタルならではの自由さが気に入っているの。あまり時間をかけず、ユーモラスなイラストであることを心がけています。イラストができたら、自分宛にメールして、フォトショップで開いて加工し、インスタに上げるというプロセス。デジタルファイルならいろいろと応用しやすいので本当に便利。色や大きさを変えたり、出力媒体を変えたり」


イラストはフォトショップに取り込み、インスタにアップする。
インスタグラムの投稿を本として出版した今年、書籍プロモーション用に「クォーターライフクライシス」と題した1分間のショート映像シリーズを制作。何度も職場から母親に電話してあれこれ質問するのに、母からの電話には「ママ、もう私は大人なんだからやめてよ」と返す編。「じゃ、9時集合ね??」と一緒に外出を計画した女友達から8時37分に届いたワインとダンサー入りのショートメッセージに「ごめん、鬼上司に残業させられてて」と返事をするも、実はソファで残りご飯を食べながらTVを見るパジャマ姿編などいずれも痛いながらクスッと笑える映像のエンディングに登場するコピーは「一体誰に嘘をついてるの? リアルなクライシスのヘルプはこの本に」と本へ誘導している。そんな演出ディテールは、ミレニアルはもちろん、そうでなくても痛いほど共感できるシチュエーションばかりだ。
Quarter Life Poetry: Going Out
「クォーターライフポエトリー」を本として出版した時に制作した、書籍プロモーション用映像シリーズ「クォーターライフクライシス」より。
ミレニアルのハートをコンパクトにパッケージしてユニークに表現するサマンサは「自分や周囲を観察することがいちばんのアイデアソース」という。同じミレニアル世代のコメディアン、エイミー・シューマーのインスタグラム@amyschumerやHuffington Postなどはニュースソースとして、またデザインやフードテーマのインスタもよくチェックしているそう。
サマンサにとってスマートフォンは欠かせないツールであり、短時間でも家にスマホを置いてきてしまった時はパニックするそう。でも「いまを大事にしたい」という彼女は、「プライベートではソーシャルメディアもほどほどにしていて、スマホを中心としたデジタルライフとはいい関係を維持していると思う」。誰かと食事をするときはスマホをしまうし、おいしそうなアボカドを目の前にしたときには画像をアップするのではなく、まずおいしく味わうとか。
フォロワーからの多くのリクエストに応えて制作したというTシャツやマグカップもキュート。デジタルデータなのでポエム&イラストの商品化も簡単。Tシャツやトートバッグなどは公式サイトから購入できる。Instagram@quarterlifepoetry
毎日起床は7時半。まず「まだ目も開かない状態で枕元のスマホをチェック(笑)」。海岸沿いを走ったあとはアーモンドミルク、ピーナッツバター、ホウレンソウやフルーツでスムージを作り、9時から仕事開始。現在、映像監督であるボーイフレンドと、TVシリーズ脚本を共同執筆中なので、壁の大きなモニターにApple AirPlayで作業ページを映してパソコンで一緒に仕事を進める。俳優でもあるサマンサがオーディションに行ったり、エージェントとの打ち合わせをするのは午後が多い。ポエムに添える絵を描くのは夜で、彼にコメントしてもらうことも。
「すれ違う人はみんな嫌い。今日は食べることすら忘れてるから」Instagram@quarterlifepoetry
「最近わかってきた。私の人生の伴侶はうちの猫なんだろうって」Instagram@quarterlifepoetry
27歳になったサマンサは数年前のクォーターライフクライシス経験を、いまではやや違った視点から見ることができるようになったそう。そのため自分も経験し、いまも誰かが経験しているクライシスをユーモラスに描けるようになっているという。そのちょっとした笑いにもっていける余裕が、クライシスを共有し、サポートする上でも役立っているようだ。
サマンサ・ジェイン Samantha Jayne
1989年生まれ。「クォーターライフポエトリー」のクリエイター。LAを拠点に女優、アートディレクターとしても活躍。現在、初の脚本執筆に取り組み中。
photos : KAORI SUZUKI, coordination et texte : CHINAMI INAISHI