アンナ・カリーナとジャン=リュック・ゴダールの愛の軌跡。

Culture 2022.09.13

2022年9月13日に亡くなったジャン=リュック・ゴダールは、『女は女である』『気狂いピエロ』で、女優アンナ・カリーナの名を知らしめた監督だった。1960年代、ふたりはヌーベルバーグを象徴するカップルだった。

191217_anna-karina-et-jean-luc-godard.jpg

アンナ・カリーナとジャン=リュック・ゴダール。photography : Getty Images

1987年、アンナとゴダールは、ティエリー・アルディッソンのトーク番組「Bains de minuit」の現場で顔を合わせている。もちろん、映画を語るためにふたりは呼ばれた。だが同時に、過去に夫婦だった時代を思い起こす絶好の機会でもあった。「再会できてうれしいですか?」と司会者のアルディッソンが尋ねる。「個人的にはうれしい。でも思いがけないことだったので……少し驚いています」と、見るからに居心地の悪そうなアンナ。いっぽうのゴダールは、まったく付き合いを絶った、と語る。「ページをめくれば、そのページは終わる……。だが本は残る」

2022年9月13日に91歳で亡くなった監督と女優は、ともに7本半の映画を撮った。“半”というのは、「短編のようなものが1本あるから」と、アンナは言う。彼女は「ヌーベルバーグのフィアンセ」と呼ばれた女優だ。アルディッソンが質問を続ける間、感情が徐々にたかぶってきた様子で、とうとう涙をこらえながら席を外した。そして数分後、何事もなかったように戻ってきた。

---fadeinpager---

「多分彼は私を愛していた」

アンナ・カリーナ、本名ハンネ・カリン・バイエルは、1940年9月12日、デンマークのSolbjergに生まれた。国を離れ、57年にパリにやってきた17歳の彼女は、フランス語は一言も話せず、1万フランをポケットにモデルを目指す。ココ・シャネルに出会い、やがて「モンサヴォン」のコマーシャルにも起用される。幸運なことに、当時は映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」のジャーナリストだったゴダールが彼女を見出すことになる。彼はジーン・セバーグとジャン=ポール・ベルモンドを起用した『勝手にしやがれ』(60年)で小さな役を与えようとするが、アンナはヌードシーンに抵抗を示した。それでも数カ月後、彼女は『小さな兵隊』(60年)でカメラの前に立つことになる。

撮影の場でアンナとゴダールの間に恋が生まれた。ふたりは1961年に結婚。「ジャン=リュックが私と結婚したのは妊娠していたから」と、彼女は2018年9月、「リベラシオン」紙で明かしている。「そして多分、私を愛していたから」とも。彼女は出産直前に子どもを失う。治療が充分でなく、二度と母親になれない身体になってしまった。それは人生における悲劇となったという。「私にとって、生涯ずっと動揺するであろう出来事でした」

---fadeinpager---

長い沈黙

10年の間、アンナはゴダールのミューズとして次々と映画を撮り続けた。とはいえ、ジャック・リヴェット(66年の『修道女』)以外には、クロード・シャブロルやフランソワ・トリュフォーなど、他のヌーベルバーグの監督の映画には出演していない。「ジャン=リュックの妻でしたから、他の人は怖かったのでしょう」と、後に語っている。

プライベートでふたりは互いを求め合ったが、別れることになった。「とても愛し合っていた。けれど、彼と暮らすのは大変でした」。2018年3月、彼女は初監督作品『Vivre ensemble(一緒に暮らす)』(73年)のリバイバルの機会に、彼女はAFPにこう語っている。「彼は『ちょっとタバコを買いに行って来る』と出かけて3週間帰って来ないような人でした。スマートフォンどころか留守番電話もない時代に」

アイコニックなカップルは65年に離婚するが、映画の撮影は続いた。アンナはその後、映画監督のピエール・ファーブルと再婚し、1974年に離婚。その後は俳優のダニエル・デュヴァル、デニス・ベリーと結婚し、最後にともに暮らしたのは2009年に結婚したモーリス・クックだった。

20年ほど前は沈黙を守っていたゴダールだが、アンナに6ページもの手紙を送った。それが、アンナにとってゴダールからの最後の便りになった。2018年の「リベラシオン」誌で、彼女はこう語っていた。「彼は私のことを古い話だと言っているけれど、私にとって、彼はいまも心にあり、生涯心にあり続ける人です」

2019年12月14日、アンナ・カリーナは天に召された。それから約2年、ジャン=リュック・ゴダールも彼女のもとへ旅立った。

---fadeinpager---

アンナ・カリーナ、ヌーベルバーグのフィアンセ。

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_6.jpg

ジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』(65年)でマリアンヌ・ルノワールを演じた。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_4.jpg

1967年、マルチェロ・マストロヤンニと。ふたりはルキノ・ヴィスコンティノ監督作『異邦人』で共演した。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_5.jpg

ジャン=クロード・ドゥルオ、ニコール・ウィリアムソンと。『悪魔のような恋人』(69年)撮影現場にて。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_2.jpg

ジャン=ポール・ベルモンドと。『気狂いピエロ』より。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_3.jpg

ジャン=リュック・ゴダール(左)と、アンナ・カリーナ(中)、ジャン=ポール・ベルモンド(右)。『気狂いピエロ』の撮影風景にて。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_12.jpg

アンナ・カリーナ(左)、マリアンヌ・フェイスフル(中)、ジャン=リュック・ゴダール(右)。『メイド・イン・USA』(66年)の撮影現場にて。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_0.jpg

『アンナ ANNA』(66年)で共演したセルジュ・ゲンズブールと。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_1.jpg

二番目の夫、監督のピエール・ファーブルと。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_7.jpg

ビスタンゴ賞を手に、カメラマンに囲まれるアンナ・カリーナ。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_9.jpg

俳優のダニエル・デュヴァルと結婚。photo : Getty Images

---fadeinpager---

191217_anna-karina-la-fiancee-de-la-nouvelle-vague_1.jpg

クロード・ブラッスールと。『はなればなれに』(63年)撮影現場にて。photo : Getty Images

【関連記事】
映画『グッバイ・ゴダール!』の主演を務めた、女優ステイシー・マーティン3つの質問、3つの答え。
 

texte:Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

世界は愉快
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories