ナタリー・ポートマンに柴咲コウ......女性が主役の映画3本。

Culture 2024.06.30

役を手繰り寄せたと思えば、突き放される"演技"の深淵。

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』

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©2023.May December 2022Investors LLC, ALL Rights Reserved.

36歳の既婚女性グレイシーは13歳の少年ジョーを"誘惑"し、刑期の間に子を産む。時が経ち、彼女がジョーと築いた家庭を女優が訪れる。ここが起点。前段の経緯は実話映画化の役の探求に応じて明かされる構成だ。若くに大人びたジョーが少女気質のグレイシーを支える具合に、年の差カップルの関係は捻れを含む。あるいは、ジョーにそう信じ込ませることが恋の手管か。カメラを鏡に見立て、ジュリアン・ムーア演じる役のモデルのグレイシーと、ナタリー・ポートマン演じる女優が互いの分身を探り合う。匠による魅惑のシーン。やがて女優は観察者の一線を踏み越える。少年が貴婦人に翻弄される逸品『恋』(1970年)のミシェル・ルグラン作曲の楽節が、春雷みたいに胸元に轟く。

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
監督/トッド・ヘインズ
2023年、アメリカ映画 117分
配給/ハピネットファントム・スタジオ
7月12日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて順次公開
happinet-phantom.com

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不穏にしてフェミニンな、サイコスリラーの新機軸。

『蛇の道』

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©2024 CINÉFRANCESTUDIOS-KADOKAWACORPORATION-TARANTULA

パリ在住の心療内科医・小夜子は患者のアルベールが愛娘を惨殺されて心身症に喘ぐのを見かね、敵討ちを補佐する。最初は明快な復讐劇。だが、真犯人はターゲットの周辺人物や見えざる黒幕に横滑りを重ねる。どうやらすべては、日本に別居中の夫ともども、小夜子が胡散くさい男中心の世に報復する罠なのだろう。でも、そんなふうに鋳型にハメる読解からも、彼女は企みに紛れてするりと身をかわしそう。現代人を"セラピー"する役目を担わされてきた小夜子=柴咲コウに、黒水晶の透明感と蛇の眼光の霊気がある。黒沢清を世界に知らしめる『CURE』(1997年)と同時期に作られた同名の奇作の、オールフランスロケによるセルフリメイク。アナーキーな映画作家の資質が横溢!

『蛇の道』
監督・脚本/黒沢 清
2024年、フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルク映画 113分
配給/KADOKAWA
新宿ピカデリーほか全国にて公開中
eigakan.org.com

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みずみずしく飛沫を上げる、帰り来ぬ少女の夏の時間。

『クレオの夏休み』

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©2023 LILIES FILMS

シングルファーザーとパリで暮らす6歳の少女クレオには乳母グロリアが欠かせない。手や顔を擦り合わせ、睦み合う肌感としてそれが伝わる。アフリカ西海岸の島国カーボヴェルデに、母の急逝でグロリアが里帰りする。クレオは落ち込む。あげくのひとり旅。ちょうど出産を迎えたグロリアの実娘が育児をサボり、代わってグロリアが赤ん坊に付きっきりになると、クレオの独占欲に火が点く。赤ん坊をライバル視しちゃう騒動記はドキンとするほど清冽。自分が異郷の家族のお荷物になってると幼いながらに鋭く感受し、クレオが乳母との別れを受け入れる成長の過程を、新鋭の女性監督は島の自然の脈動とともに描き出す。メガネっ娘クレオが愛くるしく、きっと離れがたくなる。

『クレオの夏休み』
監督・脚本/マリー・アマシュケリ
2023年、フランス映画 83分
配給/トランスフォーマー
7月12日より、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国にて順次公開
transformer.co.jp

*「フィガロジャポン」2024年8月号より抜粋

text: Takashi Goto

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