大阪に集結した、カルティエの未来の礎。
Culture 2025.06.20
開催中の大阪・関西万博にウーマンズ パビリオンを共同出展するカルティエ。独創的なクリエイションで世界を魅了するメゾンの、芸術・文化の振興と公平な社会の実現に向けた取り組みとは? 5月に大阪で開催された3つのイベントを紹介する。
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Mother Earth Concert
音楽を通じて、母なる大地の声を紡ぐ。
多くの音楽家を支援するカルティエが5月23日、ウーマンズ パビリオンの出展を記念したコンサートを開催。これに合わせて新曲「マザーアース」を作曲したファジル・サイ、指揮者のシモーネ・メネセス、コンサートを鑑賞したピアニストの反田恭平に話を聞いた。
「マザーアース」のほか、シモーネ・メネセスが構成したふたつの演目が、大阪のザ・シンフォニーホールにて大阪フィルハーモニー交響楽団によって演奏され、大きな拍手が起こった。撮影協力:ザ・シンフォニーホール photography: Yuta Kono ©Cartier
世界的ピアニストで作曲家でもあるファジル・サイはカルティエの依頼を受けてピアノ協奏曲「マザーアース」を作曲。その世界初演が大阪のザ・シンフォニーホールで行われた。公演に臨むファジルはこう意気込みを語った。

トルコ出身のピアニスト・作曲家。アンカラ国立音楽院でピアノと作曲を学び、17歳でデュッセルドルフのシューマン音楽院に留学。その後、ベルリン音楽院を経て1994年ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディションで優勝。オープンでエキサイティングなコンサートに定評がある。photography: Yuta Kono ©Cartier
「これまでに自然をテーマにいくつも作曲を行ってきましたが、本作品は最も重要な曲になるでしょう」
作品は「大地」「森」「海」「川」の4つのテーマで構成され、ダイナミックな地球の鼓動、森に棲む鳥や動物の声、海と川を想起させる水の表現が次々と現れ、観客を圧倒する。地球環境に強い関心を寄せるファジルは2019年、祖国トルコのイダ山で、金の発掘による大規模森林伐採の反対運動に参加。森の中で行ったコンサートは約5万人の観客を動員し、伐採を食い止めるムーブメントのひとつとなった。指揮者のシモーネ・メネセスも祖国ブラジルのアマゾンに深い関心を寄せ、こう語る。

故郷であるブラジルのサンパウロで指揮を学び、その後パリのエコールノルマル音楽院に入学。2019年ウィーンで開催されたMawona指揮者コンクールで第2位を受賞。自身が設立したEnsemble Kを率い、ヨーロッパ各地で公演を行う。テーマ性のあるプロジェクトを精力的に企画。photography: Ami Harita
「大自然はいつも歌を歌っています。問題は私たち人間がその歌に耳を傾けるかどうか。20世紀初頭、自然の音を聴き始めた音楽家たちが登場しましたが、今回の公演プログラムに入っているクロード・ドビュッシーの『海』とエイトル・ヴィラ=ロボスの『アマゾンの森』はその代表です。そして21世紀、環境への意識が高まった現代において、ファジルの音楽は大自然への畏れを見事に表現しました」
「マザーアース」は大自然に対する人間の責任感に言及している、とシモーネはこう続ける。
「クラシック音楽は長らく人間の感情について語ってきたけれど、私は自然が人間に何を語りかけているのか?を表現したいのです」
アーティスティックディレクターとしてのシモーネに対して全幅の信頼を寄せるファジルは、「キャリアを始めた30年前、指揮者は男性しかいなかったが、いまは女性もどんどん増えている。なかでもシモーネは、世界的に重要な存在です」と語る。

2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールで日本人歴代最高位となる第2位に。国内外の主要オーケストラと共演する一方、マネジメント 会社NEXUSとJapan National Orchestraの代表も務める。25年8月のザルツブルク音楽祭でアジア人史上初となるソリスト兼指揮者での"弾き振り"のデビューが予定されている。photography: Ami Harita
時計「サントス デュモン」(PG、H43.5×W31.4mm、クォーツ)¥2,138,400/カルティエ(カルティエ カスタマー サービスセンター) スーツ¥1,094,500、シャツ¥101,200、チーフ¥44,000/以上ブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン) その他/スタイリスト私物
「世界初演というのは作曲家にとって緊張する瞬間。絶対成功させるという熱意を感じました」と反田。リハーサルではファジルが最後まで最終章にこだわって指示を出していた点に触れ、「ティンパニーのマレット(バチ)の使い分けについて変更を加えたことで、本番ではより曲の輪郭がはっきりして野性味を帯びたものになっていた。クレッシェンドの指示を出し、曲に風を吹き込んでいたのも印象的です」と話す。
コンサート前にウーマンズ パビリオンにも足を運んだ反田はこう語る。
「女性の活躍を支援することは、若い世代を応援することにも繋がると思います。僕がこの夏ザルツブルク音楽祭に30歳という年齢で出演が可能になったのも、そのような風潮と無縁ではない。才能は自分のためでなく人のために使うもの。地球規模で音楽活動に取り組みたいと思います」
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Women's Pavilion
個の物語から始まる、私たちの連帯とこれからの世界。
他者の物語に耳を傾け、自ら考えることを呼びかけながら課題解決に向けた対話や繋がりをもたらすウーマンズ パビリオン。開会セレモニーでは、世界中のチェンジメーカーたちが「女性が輝けば、人類・社会全体が輝く」というパビリオンの信念を分かち合った。
来場者は、小説家の吉本ばなな、スーダン出身の詩人・アクティビストのエムティハル・マフムード、メキシコの環境保護活動家シエ・バスティダの物語を追体験できる。 photography: Victor Picon ©Cartier
現在大阪・関西万博に出展中の「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」。内閣府、経済産業省、2025年日本国際博覧会協会とのパートナーシップによって実現したこのパビリオンは、ジェンダー平等に光を当て、共同体としての対話を促すものだ。1階の展示スペース入口で、来場者は自分の名前を声に出して告げ、バックグラウンドの異なる3人の女性の物語に耳を傾けながら、彼女たちの人生の一部を追体験する。国を超えて響き合う女性たちの声はやがて大きなうねりとなり、最後はこれまでに積み重ねられた来場者の声に勇気をもらいながらパビリオンを後にする。
来場者がまず通されるのは鏡の間。ここで自分の名前を鏡に伝えることから物語が始まる。 photography: Victor Picon ©Cartier
展示のフィナーレには、世界を変えるさまざまな分野で活動するチェンジメーカーたちが集う空間に誘われる。 photography: Victor Picon ©Cartier
2階へ上がると、季節の植物が織りなす美しい中庭が現れる。この庭を挟み、「WA」スペースへと繋がる。 photography: Victor Picon ©Cartier WAスペースのセッションは、以下URLより予約できる:https://www.expovisitors.expo2025.or.jp/events(EXPO 2025 VISITORS) https://register.cartier.com/ja/wa-2025(ウーマンズ パビリオン公式サイト)
2階の「WA」スペースは6カ月にわたる万博期間中、誰でも参加できる150以上のセッションを予定(要予約)。ジェンダーやイノベーション、芸術文化といった6つのテーマに沿って、さまざまなゲストとともに考え、未来に向けて語り合う場所となっている。
開会セレモニーのフィナーレには、唄者の里アンナ、和太鼓奏者、さまざまな国籍のシンガーたちにより、調和と再生を称えるパフォーマンスが披露された。 photography: Victor Picon ©Cartier
5月21日には開会セレモニーが開かれ、会場のEXPOホールには、コンゴ民主共和国出身の詩人で作家のJJ・ボラや黒柳徹子をはじめ、国際色豊かな顔ぶれが登場。それぞれのライフストーリーに触れながら、公平で思いやりのある世界に向けたコラボレーションの大切さを訴えた。カルティエ ジャパン プレジデン ト&CEOの宮地純は会場に力強く語りかけた。
「一緒なら、もっと強くなれる。そして変化を生み出せる」
©️Cartier
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Cartier Women's Initiative
社会を変える女性起業家の力の源となるコミュニティ。
グローバルな女性社会起業家の支援プログラムであるカルティエ ウーマンズ イニシアチブ。大阪で開かれたインパクト アワードの授賞式には世界中で活躍する女性たちが集結。目の前で起きている問題にまっすぐに切り込む女性たちのパワーに、会場は感動と賞賛の拍手を送った。
カルティエ ウーマンズ イニシアチブ インパクト アワードを受賞した9名。左からクレッセ・ウェズリング(英国)、クリスティン・カゲツ(インド)、ナミタ・バンカ(インド)、ジャッキー・ステンソン(インド)、マリアム・トロスヤン(アルメニア)、イヴェット・イシムウェ(ルワンダ)、ケイトリン・ドルカート(ケニア)、トレーシー・オルーク(アイルランド)、ラマ・ケヤリ(ヨルダン)。 photography: Sina ENGIN ©Cartier
ウーマンズ パビリオン開会セレモニー翌日の5月22日、堺市民芸術文化ホールでカルティエ ウーマンズ イニシアチブのインパクト アワード授賞式が行われた。「変革をもたらすチカラ」というテーマのもと、これまでカルティエ ウーマンズ イニシアチブの受賞者に選ばれたフェローから、「地球の保護」「生活の向上」「機会の創出」の3つのカテゴリーでインパクトを生み出した9名の社会起業家を選出。いずれの受賞者も国連のSDGs(持続可能な開発目標)に基づいた事業を展開しており、全体で17の目標を網羅したものとなった。
インドを拠点に女性エンパワメントに取り組むクリスティン・カゲツによる映像とスピーチ。 ©Cartier
サンディ・トクスヴィグ(中央左)を囲んで和やかな雰囲気のなか、受賞者とともに洞察に満ちた会話が繰り広げられた。 ©Cartier
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授賞式は日本人アーティストによるダンスと音楽のパフォーマンスに続き、ショートフィルム『ともに世界を形づくる』の上映で幕を開けた。ホストはキャスター、作家として活躍し、ジェンダー平等の提唱者でもあるサンディ・トクスヴィグ。世界中から駆けつけた受賞者の功績を、高揚感と愛情を持って称えた。一例を挙げると、バナナ繊維を原料とした生分解性生理用品の製造を通して月経衛生管理の持続可能な解決策を提供し、女性エンパワメントに取り組むインドのクリスティン・カゲツ、東アフリカ全域で救急車の応答時間を大幅に短縮する集中型緊急対応プラットフォームを開発したケニアのケイトリン・ドルカート、中東全域の子どもたちのアラビア語識字能力を向上させるデジタルプラットフォームを築き、学習貧困の改善に取り組むヨルダンのラマ・ケヤリらの活動が紹介された。
アルメニアのマリアム・トロスヤンは、モバイルとAIを活用したエコシステムにより性暴力のサバイバーを支援する。 ©Cartier
2006年に設立されたカルティエ ウーマンズ イニシアチブは、ビジネスの力で有意義な変化をもたらす女性起業家たちを表彰・支援しており、これまで66カ国のフェローに、1,200万ドルを超える助成金を提供。500名以上のチェンジメーカーからなるグローバルネットワークを構築してきた。国や状況を超えて活躍する女性の活気に満ちた授賞式は、世界の未来を明るく照らしていた。
collaboration:ブルネロ クチネリ ジャパン 03-5276-8300
text: Junko Kubodera styling: Mariko Kawada (Kyohei Sorita) hair & makeup: Mayumi Murata (Kyohei Sorita)