「腹黒タイプの朝ドラ」!? 細木数子の一生を描くNetflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」

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現在配信中のNetflixシリーズ、戸田恵梨香主演の「地獄に堕ちるわよ」について書こう。割とインパクトのある作品なので、視聴者からのさまざまな感想が巷に飛び交っているようだ。ちなみに私は悔しいくらいにおもしろかった。

本作は細木数子の生涯を描いたドラマだ。彼女を知らない人のために補足すると、細木は「六星占術」と呼ばれるオリジナルの占術法で、2000年代に一世を風靡した占術家。大塚愛の『さくらんぼ』がヒットして、酒井順子の『負け犬の遠吠え』がベストセラーになっていた時期だ。懐かしく、つい数年前のことのように感じるけれど、もう20年以上が経過している。

数年間のすべての運気が下がる“大殺界”という言葉を生み出した人物と言えば、ピンとくる人もいるかもしれない。「六星占術」関連の書籍は合計で9000万部以上も売り上げ、携帯コンテンツの会員数は150万人超え。地上波の冠番組「スバリ言うわよ!」(TBS系・2004年)は最高視聴率が23.5%を記録。どんな鑑定依頼者に対しても、歯に衣着せぬ発言をするのが特徴の魔女で、ブラウン管を飛び出してきそうな圧力があった。ドラマタイトルの「地獄に堕ちるわよ」は、細木が鑑定を告げる際によく使ったセリフだ。他にも「あんた死ぬわよ」もあった。いま、地上波で放送されたらどうなるのか……。

戦後から高度経済成長期。魔女はこうして作られた

2006年から「週刊現代」で彼女の過去が連載され、2008年以降はメディアから姿を消し、2021年に亡くなっている。ドラマはその“過去”に迫った内容だ。絶頂期の細木を演じるのは戸田恵梨香。自伝小説を執筆するために、細木に近づく売れない作家の魚澄美乃里を演じるのは、伊藤沙莉。劇中の細木による自画自賛の語りが表であるとすれば、美乃里の取材は裏だ。エピソードは彼女の幼少期から始まる。

1938年生まれの数子は日本が極限状態の戦後に育った。飢えをしのぐためには大人を騙して金を奪い、ミミズも口にしてなんとか生き延びていた時代。耐えしのぎ、成長した数子は水商売に乗り出し、ヤクザとのつき合いも辞さない「銀座の女王」と呼ばれた。常に金の匂いを嗅ぎあて成功を手中にしていくが、男には翻弄され続け、騙されて10億円以上の借金を背負わされる羽目になったことも……。が、転んでもただでは絶対に起き上がらない性分、人生の後半は占術家として巨万の富を得る。

「あたし、占いなんて信じないの」

そう言って高笑いする数子。冒頭で記したように本作は配信直後からキャスティングや内容について、批判的な意見がSNSに流れている。良くも悪くも、それだけの注目を集めている結果だ。けして作品を全面擁護するわけではないけれど、ドラマを含むエンタメの反応として正解ではないだろうか。昨今のドラマに対する意見を眺めていると、共感圧力によって、ひとつの作品に同じような感想が並んでいるパターンをよく見かける。でも本来は「私は好き」「いや、私は嫌い」と好悪分明であって当然だし、それらが新しいエンタメを生み出していく素になる。そんな意見から生まれたナラティブなら、視聴欲がそそられる。

目に飛び込んでくるディテールも楽しい

さて、見どころに戻ろう。作品の舞台となった、昭和や平成の再現性を観ているのも楽しかった。リアリティのあるセットや、豪華かつ(令和から見れば)レトロテイストのインテリア。いまでも魅力的に映る数子のコーディネートやヘアメイクも、洗練されたものばかり。戸田恵梨香だからこそ叶った、キュートからエレガントタイプまでの着こなしだった。

さらに観る側を煽る、稲本響氏作の劇伴。俳優を囲むすベてに熱量が感じられる……と、私の頭の中で考えていた感想を「あらすじを知りたい」という、マッサージの先生に施術中に話した。すると「聞いていて思ったんですけど、朝ドラですね。観るのが楽しみです」と答えが返ってくる。そう、その通り。確かに「地獄に堕ちるわよ」は、ヒロインがとびきり腹黒タイプの朝ドラと表現すると、わかりやすい。 朝ドラもひとりの人物の生涯を映像化したもので、老若男女に愛される全視聴者に感動をもたらすもの。同じように本作もひとりの女性の人生を辿っているわけだが、現実社会を表現しているのではないだろうか。

戦後の日本には街娼たちがあふれていたように皆、明日を生き抜くために必死だった。実際は社会復帰をできず路頭に迷う人や、命を落としていく人のほうが多かったと聞く。その時代に立ちながら、数子は一般女性よりも強欲だっただけだ。そんな彼女を観て一緒に笑うのか、辟易するのか。自分の反応を確かめながら進めていくのも楽しい。

ちなみに私は「ああ、まだ自分はぜんぜんダメだな。もっと仕事も私生活も頑張ろう」と、戸田恵梨香の奥深い演技と、数子の生き様に鼓舞されてしまった。こんなことを書くと揶揄が飛んできそうだけど、エンタメは娯楽、至楽なのだから仕方がない。

Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」
2026年4月2日(木)からNetflixにて世界独占配信中
https://www.netflix.com/title/81700182

小林 久乃

コラムニスト/ライター/編集者

平成から現在に至る まで、毎クール連続ドラマを視聴し続けて、約3000本を網羅したドラマファン。趣味が高じて「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社)を上梓、準レギュラーを務めるFM静岡「グッティ!」にてドラマコーナーのパーソナリティーを務める。他、多数のウェブ、 紙媒体にて連載を持ち、エンタメに関するコラムを執筆中。