【インタビュー】ソフィー・マルソー、「女性として、母親として、ひとりの人間として」見つめる現代とは?

Culture 2026.04.19

フランス映画を代表する女優として長年第一線を走り続けてきたソフィー・マルソーが、最新主演作『LOL 2.0(原題)』(2026年、リサ・アズエロス監督、日本公開未定)とともに第33回フランス映画祭 2026のために来日した。

『ラ・ブーム』(1980年、クロード・ピノトー監督)にて13歳での鮮烈なデビューを飾ってから40年以上、母として、ひとりの女性として、時代の変化とともに歩んできたマルソーだが、『LOL 2.0』では50代の母親役を演じ、揺れ動く現代の家族のかたちと向き合う。SNSが日常を覆ういま、彼女は何を見つめているのか。女優としての現在地とその人生観を聞いた。

msrh_20317.jpg
Sophie Marceau/俳優。1966年、パリ生まれ。80年、フランスはもとより日本でも大ブームを巻き起こした映画『ラ・ブーム』で鮮烈デビュー。フランス映画、舞台のみならず英語圏での映画出演歴も多く、2002年には長編映画初監督作『Parlez-moi d'amour(原題)』でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を獲得。現在にいたるまでコンスタントに出演作を重ねる、フランスを代表する俳優。

――フランス映画祭には2008年以来の来日となりますね。今回上映された『LOL 2.0』も大変楽しく拝見しました。今日は新作のみならず、あなたのキャリアや人生観について、お話ししたいと思います。

私もまたお会いできて光栄です。映画も素晴らしいと言っていただけて本当にうれしいです。

――『LOL 2.0』は、2008年のヒット作『LOL〜愛のファンタジー〜』(日本は劇場未公開)に続く作品です。なぜいま、このストーリーを復活させようと思ったのでしょうか?

きっかけは純粋にリサ(・アズエロス監督)の中にありました。前作の『LOL〜愛のファンタジー〜』から今回の『2.0』までには17年の歳月が流れています。彼女はその間、子どもたちが育って家を出ていき、また戻ってくるという過程を通じて、世界の移り変わりを目の当たりにしてきました。SNSが登場し、世界の経済状況や社会情勢、環境、あらゆるものが変化しました。語るべきテーマは十分にあったのです。いまの時代、時間の流れは非常に速く、17年も経てば、ひとつの世代が入れ替わったと言ってもいいほどです。彼女は子どもたちの成長を見守り、変化を証言したいと考えたのです。ポジティブな"フィール・グッド・ムービー"としてのコメディといえますが、それでも、新しい世代について語るべきことはたくさんあるのです。

――リサ・アズエロス監督とは親しい間柄だそうですね。前作で30代の母親アンヌを演じたあなたが50代の母親を演じる、という設定は最初からあったのですか?

いつから考えていたのかは彼女に聞いてみないとわかりませんが、私たちはよくプロジェクトについて話し合うんです。リサには物事の本質を"掴み取る"不思議な力がある。彼女は人生をロマンティックに描くのが好きで、アメリカ映画やロマンティックな作品から多くのインスピレーションを受けています。同時に、彼女は現代のリアルな世界の一部でもあり、それを捉えるのが非常に上手い。一緒に手がけたすべての脚本には常に興味深い出発点があり、毎回こうして一緒に歩み出すことになるのです。

――ストーリーやキャラクター構築にはあなたの意見も反映されたのですか?

ええ、共同作業といってもいいですね。でもリサはよくセリフを変えるんです。本質的な意味は保ちつつ、日常的で"プロっぽくない"自然な響きを好みます。なので、撮影現場は少し混乱することもありますね。彼女はアドリブも大好きですから。それでも、物語の大きな方向性については常に合意しています。ただ、私自身は普段、脚本やテキストに忠実なほうです。書かれた言葉が正しいと感じられれば、やはりそのテキストを大切にしたいと思うタイプですから。

---fadeinpager---

「私の人生は、上の子が初めて携帯電話を持った日から地獄に変わりました(笑)」

――あなたの娘ルイーズ役をアズエロス監督の実娘であるタイス・アレッサンドランが演じています。ルイーズを取り巻く友人たちなど若者たちが葛藤を乗り越え成長していく姿も本作の見どころのひとつですが、Z世代の俳優たちとの共演はどうでしたか?

260417-lol2.0.jpg
『LOL2.0』より、母アンヌ(マルソー)と娘ルイーズ(タイス・アレッサンドラン)©2026 Unifrance

とても良かったです。率直に言って、彼女たちは素晴らしい。キャリアをスタートさせたばかりの若い俳優たちですが、非常にプロフェッショナルです。劇中では家族として25年を過ごしたという設定ですから、彼女たちをリラックスさせることが大切でした。タイスは非常にプロ意識が高く、自分に厳しい人です。撮影現場というものは互いに助け合う場所ですから、全員が最高の状態でいられるように雰囲気作りをしました。実際には存在しない"自然さ"を、映画の中で作り上げる。それが映画というものです。すべてがあたかも自然であるかのように振る舞わなければならないのです。

――鮮烈なデビュー作『ラ・ブーム』ではあなた自身が10代を演じ、そして2008年の『LOL』ではクリスタ・テレ、今回はタイスが若者世代を体現しています。若者たちは、どのように変化していると感じますか?

いま、多くのことが起きています。2008年にはSNSは存在しませんでしたからね。いまの若者にとって、SNSは素晴らしいコミュニケーションの手段であると同時に、誰もがどこにいても繋がってしまう道具でもあります。家族の形は多様化し、ひとり親家庭も増えました。失業問題や経済状況もそうです。以前は若者は早く自立して家を出ていきましたが、現在は物価も高く、非常に難しい。その中で、最終的な"避難所"は家族になるのです。欠点だらけであっても、そこが灯台のようになり、母親が家を守っている。この映画は若者たちの葛藤を描きながらも、そうしたバラバラになったピースをもう一度繋ぎ合わせようとしているのです。

――あなたが演じたアンヌは、自由で強い女性です。若者世代とも上手くコミュニケーションできているように見えます。ある意味、理想的な現代の女性像的ともいえると思いますが、今日的な50代の女性をアンヌが体現していると思いますか。

理想的かどうかはわかりません。彼女もまた葛藤を抱えていますからね。経済的に自立し、仕事も持っていますが、家計をひとりで切り盛りし、大人になった子どもたちの教育という問題にも悩んでいます。子どもを育て上げ、仕事を全うした後に、"自分自身のための時間はまだあるのか?"という問いもありますね。子どもたちが家を出たからといって、女性の人生が終わるわけではありませんから。一方で、娘役のタイスの世代にとっては、この過剰な情報社会は非常に大きな不安を生むものです。親の役割は、彼らを人生へ向けて備えさせること、そして同時に彼らを守ることだと思っています。

――あなたの10代、20代の頃のほうが幸せだったと思いますか。

もう少し能天気だったかもしれませんね。以前は私たちはいまほど"接続"されていなかった。私の人生は、上の子が初めて携帯電話を持った日から地獄に変わりました(笑)。それまでは連絡がつかなくても、「少し帰宅が遅れているけれど大丈夫だろう」と思えました。でもいまは携帯を持っているので、ちょっと帰宅が遅れれば電話をかける。でも出ないと「何かトラブルがあったのか?」と考えてしまう。そうして地獄のような心配が始まるのです。以前は人を信頼し、ある種の第六感を信じて生きていました。いまはあらゆる情報に繋がっているからこそ、すべてが怖くなるのです。

---fadeinpager---

「『ラ・ブーム』があったからこそ、いまがある」

――キャリアについてもお聞きしたいと思います。あなたのフィルモグラフィは、とても興味深い。このようなコメディタッチの作品も上手く演じられますし、ハリウッドの大作でも活躍しています。近年ではフランソワ・オゾン監督の尊厳死を扱った作品『すべてうまくいきますように』(22年)にも主演しました。出演作を選ぶ時、明確な指針があり、選んでいるのでしょうか? それともその時々の感情だったり、自身の考えに合わせて選んでいるのでしょうか。

脚本を受け取る時はいつも驚きがあります。それは、誰かが語ろうとしているビジョンだからです。その物語の中に入っていけるか、いけないか。非常にシンプルなことです。私は純粋に脚本を読んだ時の感覚で決めます。その登場人物たちが自分に語りかけてくるか、笑えるか、泣けるか。瞬時に自分を投影できるか。変化すること、変身することが好きです。喜劇も好きですし、悲劇も好きです。映画は子どもたちの"遊び場"のようなものです。ですから、常に脚本が最優先です。特にキャリアプランというものはありませんね。

――自分の人生を決定づけた作品はなんでしょうか。

『ラ・ブーム』ですね。これは間違いなし、否定しようがないです(笑) 。

msrh_20383.jpg
撮影協力:セルリアンタワー東急ホテル

――振り返ると、若くしてスターになったことは、あなたにとって幸せでしたか?それとも苦難の始まりだったんでしょうか。

コインに裏表があるのと同じですね。物事には常にふたつの側面があります。『ラ・ブーム』を巡る体験は私の人生にとって大きな衝撃でした。まったく心の準備ができていなかった。確かに困難でしたが、その経験が私を鍛え、世界に対して大きく目を見開かせてくれたのです。あの"火の試練"を乗り越えたからこそ、いまがあるのだと思います。

――少し抽象的な質問ですけど、あなたにとって"アール・ドゥ・ヴィーヴル(暮らしの美学)"とはなんでしょうか?

まず、健康であること。そして、愛し、愛されること。理想を言えば、自分が何かの役に立っていると感じられる何かを見つけることです。世界に対して、自分自身に対して、そして周囲の人々に対して。それがアール・ドゥ・ヴィーヴルの基本だと思います。それがあれば、私たちは"祝福されている"と言えるでしょう。

――そのようなアール・ドゥ・ヴィーヴルの概念というのは、いまだからそう思えるんでしょうか。

私にとって、アール・ドゥ・ヴィーヴルとは常に"自由"と同義でした。ただ、私たちは社会の中で生きていますから、自分を健全に保つためには、他者との関係、そして自分自身との関係を明快にしておく必要があると思います。あともうひとつ付け加えるなら、"創造すること"ですね。私にとって、何かを考え、創り、書いたり、あるいはおいしいケーキを焼いたり、何かが"新しく存在する"瞬間がある一日にしたいのです。これは小さな頃からずっと、ずっと変わらず思っていることです。

photography: Daisuke Yamada text: Atsuko Tatsuta

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
minori-kai
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.