GWは映画館へ。パルムドール受賞『シンプル・アクシデント/偶然』ほか、必見の話題作が続々公開!
2025年、カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した、イランの映画監督ジャファル・パナヒによる『シンプル・アクシデント/偶然』がついに日本公開。この作品はじめ、ケン・ローチ監督、自ら「最後の作品」と宣言した『オールド・オーク』、感動のミステリー『サンキュー、チャック』、リスボン映画祭2025で最優秀賞を受賞した喜劇『トゥ・ランド』と話題作がとスクリーンに登場する。
01. 『シンプル・アクシデント/偶然』
文:藤原帰一 国際政治学者

復讐の苦境から生まれる、驚くべきユーモアの特質。
イスラエルとアメリカの攻撃によってイランの人々が戦争の犠牲にされています。その人々は神権政治のもとで40年以上も苦しめられてきた。イランの人たちは何を考え、どう生きているんでしょうか。
ジャファル・パナヒは、映画製作を禁止された後も、政府の監視を潜り抜けて『これは映画ではない』(2011年)などの作品を発表してきた映画監督です。イラン政府に批判的な映画ばかりですが、政治的な映画ではなく、イランに生きる人の姿をそのままつかまえる映画を発表してきました。
自分に拷問を加えた男に出会ったので、復讐すべく誘拐したんですが、本当にその男が拷問者なのか、わからなくなった。知り合いを集めて相談してもはっきりしない。ではどうすべきか。陰惨な復讐劇になりそうですが、この映画、暗くない。それどころか、ユーモアがあるんです。
復讐するかしないかというジレンマに置かれた人々の姿から笑いが生まれています。この映画では政治弾圧を受ける人々はただの犠牲者ではなく魅力と限界を持つ人間として描かれていますが、さらに外から自分をとらえ、突き放す視点がある。政治的な映画で自己の客体化を見ることは稀ですが、パナヒ監督は自分たちの姿を外から描き、ユーモアを引き出した。目を見張るほど見事で、人間への愛を感じる映画表現です。
昨年6月にイスラエルと米国がイランを攻撃した時、パナヒはその攻撃とイラン政府の両方を非難し、イランの政府は外からの攻撃ではなく国内から変えなければならないと述べました。パナヒ監督も、国内からイランを変えるひとりとして自分のことを考えているのでしょう。激化する戦争を前に、いま是非ご覧いただきたい作品です。
『シンプル・アクシデント/偶然』
●監督・脚本/ジャファル・パナヒ
●出演/ワヒド・モバシェリ、マルヤム・アフシャリ、エブラヒム・アジジ、ハディス・パクバテンほか
●2025年、フランス・イラン・ルクセンブルグ映画
●103分 ●配給/セテラ・インターナショナル
●5月8日より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国にて順次公開
https://simpleaccident.com/
Kiichi Fujiwara
専門の国際政治、比較政治と並行し『映画のなかのアメリカ』(朝日新聞出版刊)ほか映画の文筆家として活動。NHK 「キャッチ!世界のトップニュース」のコーナーで月1回映画評を担当。
02. 『オールド・オーク』

胸苦しい危機の物語からあふれる希望の痛切さ。
かつて炭鉱で栄えたイギリス北東部の田舎町に立ち、以来住民の憩いの場となる旧きよきパブ、オールド・オーク。いまはしょぼくれた町にあって経営は苦しいが、親の遺志を継いで中年夫婦が灯火を消さずにいる。『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)の名コンビ、ポール・ラヴァティの脚本を得て、名匠ケン・ローチのアプローチには、シリア難民受け入れを受容するか排斥に立つか、その岐路に町全体が立たされる店内のひりつきに、積年の時間が温もりを帯びて流れ入るような空間醸成のふくよかさがある。店の奥には秘密の部屋。なじみの客とのやりとりから、生活をかけた鉱夫たちの運動のアジール(避難所)的な役目もここが果たしてきたと知れ、映画の感銘度が深みを増す。
『オールド・オーク』
●監督/ケン・ローチ
●2023年、イギリス・フランス・ベルギー映画
●113分 ●配給/ファインフィルムズ
●4月24日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://oldoak-movie.com/
text: Takashi Goto
03. 『サンキュー、チャック』

黙示録的な終わりから始まる、生きることの讃歌。
気候変動ゆえか、天災が頻発して今日は橋が壊れ、ネットも繋がらない。導入部はディザスターSF設定による都市のひとコマ。でも、なんかヘンだ。終末への諦めの念とともに、場違いに楽天的な広告が街のディスプレイを埋める。その謎を明かすべく、39歳で逝った会計士チャックの半生が遡行型ミステリーの形式で浮き彫りに。スティーヴン・キングが2020年に発表した小説の映画化で、『ショーシャンクの空に』(1994年)や『グリーンマイル』(99年)の系譜に連なる。極限状況を経て“ギフト”を得ること、映画への夢と憧憬が要となることが各々の共通項。本作ではチャックの運命的な出会いが至福のダンスとなり、マーク・ハミル演じる好々爺を介して宇宙の摂理と余韻豊かに結び合う。
『サンキュー、チャック』
●監督・脚本/マイク・フラナガン
●2024年、アメリカ映画 ●111分
●配給/ギャガ、松竹
●5月1日より、新宿ピカデリーほか全国にて順次公開
https://gaga.ne.jp/thankyou_chuck/
text: Takashi Goto
04. 『トゥ・ランド』

皮肉な人生に、あっけらかんとおかしみが滲む。
ジョーはロマコメを得意としてきた半ば引退状態の映画監督。洒脱な青春ものを連発して1990年代アメリカンインディーズの花形だったハル・ハートリーが、自身を戯画化してみせたような主人公だ。ひょんなことから、もう死期が近いのでは?とジョーの周囲が色めき立つ。TVシリーズの人気スターである恋人や別れた妻に加え、隠し子を騙る青年までが出現。新作プロジェクトや知的財産権を巡る恐喝含みのすったもんだが毒入りのコメディに差配され、映画はあくまでクールに寛いでいる。唯一邪念のない役として、姪っ子ヴェロニカの涼しげな顔立ちと距離感が、思わず笑っちゃうほどハートリー監督好み! 彼女がジョーにもたらす心境変化にオープンマインドな浄化力がある。
『トゥ・ランド』
●監督・製作・脚本・音楽/ハル・ハートリー
●2025年、アメリカ映画 ●75分
●配給/ポッシブルフィルムズ
●4月25日より、ユーロスペースほか全国にて順次公開
https://toland-movie.com/
text: Takashi Goto
*「フィガロジャポン」2026年6月号より抜粋