映画もトークもパリづくし! 『モネと時間旅行』特別試写会&美波を迎えたトークショーをリポート。

Culture

フィガロジャポンでは雑誌やオンラインでの情報発信に加え、メンバーシップ「メゾンフィガロ」会員向けにさまざまな体験の場を設けています。

9月8日には、映画『モネと時間旅行』特別試写会&トークイベントを開催。ゲストに俳優/アーティストとして活躍する美波を迎え、アートライターの宮崎香菜を聞き手に、フランスとアートの関係性やライフスタイルについて話してもらった。

ゲストの美波。東京、パリ、ロサンゼルスを拠点としながら俳優・アーティストとして活動する。

ヨーロッパや日本でヒットした『スパニッシュ・アパートメント』や、世界中で250万人を動員した『ダンサーイン Paris』を監督したセドリック・クラピッシュによる最新映画『モネと時間旅行』。パリとノルマンディーを舞台とした本作は、フランスの名所をまさに旅気分で楽しめる1本だ。現代と19世紀、それぞれの時代に生きる登場人物たちが織りなすドラマに心が温まる。

映像クリエイターとしてパリで暮らすセブは、仕事や恋人との関係に翻弄されながら日々を送っている。ある日、同居する祖父とともに一族会議に行くことに。曰く、彼らの先祖のアデルという人物の屋敷がノルマンディーに遺されたままだという。セブをはじめ一族代表に選ばれた初対面の4人が屋敷の調査に赴くと、そこには印象派らしき絵画があった。はたして、絵画のモデル、そして作者は誰なのか? 自分たちのルーツを辿りながら、4人は真相へと近づいていく……。

一族会議で代表に選ばれた4人。左から、養蜂家のギィ、定年間近の中学教師アブデル、エンジニアのセリーヌ、映像クリエイターのセブ。屋敷の調査をする中で、それぞれ人生を語り合い、心を通わせていく。

上映後、ステージに美波と宮崎を迎えてトークショーがスタート。まずは映画を観ての感想から。『ダンサーイン Paris』をはじめ、美波はクラピッシュ監督の作品に以前から親しんでいたという。

「おいしいワインを飲んだ後のような、ちょっとほろ酔いな気分。独特なユーモアというか、きっと監督も役者さんたちも楽しんで映画を作ったんじゃないかなと想像できました」(美波)

アートライターの宮崎(左)と美波(右)。

劇中ではエッフェル塔やセーヌ川をはじめ、19世紀と現代を繋げるようにパリの多様な街並みが映し出される。

「パリの石造りって本当に美しいですよね。歴史が重なって古びていくのも一つの味になるし。同じ石の上を歩いていると、時代が変わっても美しい景色の中に私たちはいるんだなと感じたことを、映画を観て思い出しました」と美波。

1895年、顔を知らない母に会いに、21歳のアデルはノルマンディーからパリへとやって来る。© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques
今夏からスタートした自身のジュエリーブランド「ANiMA」のアイテムを身につけて美波は登壇。

写真家のフェリックス・ナダールや作家のヴィクトル・ユゴー、画家のルノワールやセザンヌ、そしてモネ。文化芸術が大きく華開いたパリの美しい時代、ベル・エポックに活躍した芸術家たちが、本作には意外なかたちで登場する。モネの作風が生まれた背景について、宮崎が解説する。

「モネがパリで画家として活動した19世紀後半は産業化や都市開発など社会変革が進み、芸術も新しい時代を迎えようとしていました。劇中では写真家の卵のルシアンが『絵は消滅する』なんて言うシーンがありましたが、当時は写真機が普及し始めて、写実的に伝えるという絵画の役割のひとつは写真が担うようになっていきました。そんな状況のなかで若い画家たちは、新しい表現を求めて模索していました」

映画の鍵となる印象波やモネの作風について、宮崎が解説。
アデルがパリへ行く途中に出会う二人の芸術家の卵、画家のアナトール(左)と写真家のルシアン(右)。美波の推しはアナトールだそう。© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques

その中でも、頭角を表したのが印象派の若手たちだった。モネの表現について、宮崎はこう考える。

「日常の何気ない場面や都市風景を題材に、瞬間を切り取ったかのような表現で、センセーショナルに登場したのが印象派です。なかでもモネは代表的な画家として知られ、大胆な筆致で光や空気から受ける感覚そのものを絵画に落とし込みました。晩年に繰り返し描いた睡蓮の連作から穏やかな画風をイメージされる方も多いかもしれませんが、情熱と執念を持って、時間や季節によって移りゆく光の表現を生涯をかけて追求しました」

オランジュリー美術館やオルセー美術館、モネの『睡蓮の庭』など、登場人物たちが訪れるアートスポットも必見。

美波のフランス在住時の写真をスライドで見せながらトークショーは進行。モネが晩年の多くを過ごし、『睡蓮』を生み出したジヴェルニーへ、美波はこれまでに何度か訪れているという。ブロカントで購入したモネの絵がプリントされたワンピースを着て、今年も足を運んだそうだ。

ブロカントで買ったというモネの絵のワンピースを着てジヴェルニーへ。

フランスと日本にルーツを持つ美波は、俳優の仕事をしながら心の拠り所として創作を続けていたが、「自身が思い描いている世界をクリエイトしたい」と、数年前から本格的にアーティストとして活動を始めた。

「作品をどのように観るかを自分自身に問いかけられるのがアートだと思います。フランス人は、自分はどう思うか、どう感じるかというのをすごく大事にしているので、日常の中に政治やアートの話、論争が普通にある。あえて『アートについて語ろう』と構えるのではなく、『あなたはこれを観てどう思うの?』っていうところから会話が始まります。フランスでは小さい頃からそうやって見方を養っていますね」

パリ在住時は、通っていたカフェの一角で創作活動も。

2014年に文化庁の留学制度で渡仏した美波は、東京・パリ・ロサンゼルスの3拠点でその後活動。今年の夏までは長くパリで暮らし、アーティストとしてさまざまな経験を積んだ。

「パリの11区にあるカフェでテーブルの上に板を置いて、2、3ヶ月ぐらいアトリエのように入り浸っていました。お店の人も面白がってくれたので、作った作品を図々しく飾らせてもらって(笑)。カフェのお客さんと会話をしたりコーヒーを飲んだり、一日の街の流れを眺めながら制作できて贅沢な時間でした。別の和食レストランでは、オーナーに壁画を描いてほしいと言われて3日間かけて仕上げました。お互いの心が通じ合えば意外となんでもできちゃうっていうところは、日本とフランスの似ているところかもしれないですね」

和食レストランのオーナーのリクエストで壁画を制作。日本の顔料を用いて、3日間かけて仕上げたという。

昨年、第一子を出産した美波は、今年の夏に日本に帰国し、9月にFEELSEEN GINZAで個展『アニマ-生き物たち-』を開催した。油絵をメインとした展示作品は、いずれも妊娠中にパリの共同アトリエで制作したそうだ。

「見たことも感じたこともない生き物が自分の体の中にいるというのがすごく不思議で、地球のサイクルにただただ感動しながら描き続けていました。元々廃墟だったビルを若いアーティストたちが無断でアトリエとして使っていて、寛容なパリ市が安い使用料で開放するようになった場所です。行くと色々なアーティストが作業していて、『こういうことをしたかったらこんな技術がいいよ』と教えてもらったり、たくさん先生がいるようでとても楽しい時間でした」

左:作品を制作していたパリの共同アトリエ。「アーティストが占拠した建物をアトリエとして市が貸しているというのがフランスらしく興味深かった」という参加者の声も。右:個展『アニマ-生き物たち-』の油絵は、いずれも虫を題材としている。「妊娠中、小さい生命に惹かれるようになった」と美波。
美波の衣装:ジャケット¥154,000/ガニー(ガニー 渋谷パルコ)03-6820-6215、ドレス¥172,700/イザベル マラン(イザベル マラン 青山店)03-6427-3443

アートの視点で観ても発見の多い『モネと時間旅行』だが、登場人物が織りなす人間ドラマも味わいがあって面白い。劇中ではさまざまな親子関係や恋愛のかたちが描かれており、驚くような展開もある。

たとえば、アデルはお金だけ送ってくる顔を知らない母親に会いに、故郷のノルマンディーを出てパリに向かう。母娘の関係が再構築されていく過程も本作の見どころだが、「妊娠・出産の経験を経て、表現活動に変化はありましたか?」と、出産後のイベント登壇は今回が初という美波に宮崎が聞くと、「自己中心的な考えが減りました!」との答えが。

「私は『狭間』というテーマをとても大事にしていて、どこにも所属しない、部類できないものたちをアートで表現できたらと思っています。一人称とか三人称とかじゃなく、ただそのものをようやく描けるようになった。おそらく子どもが生まれたおかげだと思っています」

仕事や恋人との関係に悩むセブはルーツを辿る中で自身に向き合い、気持ちを整理していく。© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques

フランスの恋愛観について話が挙がると、「その人の物語として面白けばいいんじゃないっていうところはある。波乱も含めて、その人の辞書が分厚くなればいいっていう解釈がありますね」と美波。まさしく、アデルやセブをはじめとする本作の登場人物たちの人生の厚みは、新たな出会いやハプニングによって増していく。終盤にかけての彼らの満足そうな笑みは印象的だ。

「『自分軸で生きる姿』や歴史の重なりに深く共感し、改めてパリの魅力に魅了された」「突然自分が一人で生まれて一人で生きてきたわけではない、家族との見えない繋がりを感じさせるストーリーがとても良かった」「必ずパリに行こうという気持ちが強まった」など、映画とトークを通して、参加者も自身の人生やパリに思いを馳せる時間となったようだ。

「映画『モネと時間旅行』は全国ロードショー中。作品を通じて、フランスのアートの変遷や人生観を、ぜひ楽しんでみてほしい。

『モネと時間旅行』
●監督・脚本/セドリック・クラピッシュ 『ダンサー イン Paris』
●出演/スザンヌ・ランドン、アブラム・ヴァプレ、ヴァンサン・マケーニュ、ジュリア・ピアトン、ジヌディーヌ・スアレム、ポール・キルシェ、ほか
●2025年、フランス映画、126分
●配給・宣伝/セテラ・インターナショナル
https://monetojikan.com/

  • photography: Mari Hamada