ドリス・ヴァン・ノッテン、スタンディングオベーションとなった引退のラストショー。

Fashion 2024.06.24

ファッション界の詩人と呼ばれ、花や色を駆使して魅力的な服を作りだしてきたデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。デザイナーとして最後のファッションショーはパリ近郊で盛大におこなわれ、モード史に残る感動の瞬間となった。

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2024年6月22日、ラ・クルヌーブでの引退のファッションショー。photography : Imaxtree

今年の3月、ドリス・ヴァン・ノッテンは「友人たちに宛てた」感動的なレターを公開し、1986年に自ら設立したブランドのデザイナーを退任すると告げた。それは本人によれば「悲しくもあり、うれしくもあること」。ドリス・ヴァン・ノッテンは1980年代のファッション界に革命を起こしたベルギーの「アントワープの6人」のひとりだ。パリのファッションウィークではいつも、花と色と夢にあふれる素晴らしいショーで人々を魅了してきた。66歳のデザイナーは昨晩、2025年春夏メンズ・コレクションで友人たちやブランドを愛する人々にお別れの挨拶をした。

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ドリス ヴァン ノッテン2025年春夏メンズ・コレクション。photography : Imaxtree

6月22日の晩、パリ郊外のラ・クルヌーブにあるバブコック社工場跡地に人々が続々と集まってきた。ここではかつてボイラーが製造され、この地域の経済を担っていた。そんなユニークでクールな場所はアントワープ出身のデザイナーにふさわしい。RER B線沿いにあるコンクリートの建物は2004年10月にも、デザイナーにとって第50回目の記念すべきファッションショーの会場として使用されたことがある。その時はクリスタルのシャンデリアの下に全長140メートルの祝祭テーブルが設置され、驚く招待客の前でテーブルがランウェイと化した。

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多くのデザイナーが来場

昨晩のショーは華やかなカクテルパーティー形式でおこなわれた。約900人の招待客を迎えた会場内にはいくつもの巨大ビデオパネルが設置され、アントワープの巨匠の生い立ちや、今回で129回目となるこれまでのファッションショーの映像が流れていた。ポップスターや人気女優とはあまり縁がないブランドらしく、会場ではファッションデザイナーが目立った。アントワープ王立芸術アカデミー時代の同級生であるウォルター・ヴァン・ベイレンドンクやアン・ドゥムルメステール、そしてトム・ブラウン、ヴェロニク・ニシャニアン、帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズ、ハイダー・アッカーマン、ピエールパオロ・ピッチョーリらが来場。ヴィーナス・ウイリアムズや俳優のノーマン・リーダスもいた。シャンパンがなみなみと注がれる。会場は和やかな空気に満ちながら誰もがハイテンションで、なかなかいい雰囲気となっていた。

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デザイナーたちからのオマージュ

賛辞が飛びかい、思い出が口々に語られた。いつも物静かなドリス・ヴァン・ノッテンだが今日は彼が主役だ。アイコニックなベルギーのデザイナー、ダイアン・フォン・ファステンバーグは、彼の規律感覚や美的センス、エレガンス、誠実さを称賛した。Y / Project(ワイプロジェクト)やディーゼルのデザイナーであるグレン・マーティンスは、彼の完璧主義と詩情を称え、「色彩と美の巨匠を目の当たりにすると、インスピレーションが湧いてきます。これほどのモダンさ、センスの良さの持ち主は今後なかなか現れないでしょう」と語った。一方、ブランド「Ami(アミ)」を創設したアレクサンドル・マテュッシはこんなふうに感嘆する。「ドリスはひとつの基準点であり、エレガンスの象徴であり、服に対する真のセンスと着ることへのこだわりを持つデザイナーです。彼のようになりたいと心底思っています。ファッションに情熱を注ぎながら、私生活とのバランスをうまくとってきた点も尊敬しています。今の時代にあってそれは本当に粋なことです」。

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ドリス ヴァン ノッテン2025年春夏メンズ・コレクションのファースト・ルックにモデルのアラン・ゴシュアンが登場。photography: Spotlight

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銀箔のランウェイ

午後10時、黒いカーテンが開くと、招待客の前に銀箔を敷いた巨大なランウェイが現れた。銀箔はキラキラ光り、ふわっと舞いあがる。いよいよショーの始まりだ。1990年代を代表するアイコニックなベルギー人モデル、アラン・ゴシュアンがエレガントなブラックロングコートでオープニングを飾った。彼はドリス・ヴァン・ノッテンのファーストショーに参加したモデルで、カレン・エルソン、カーステン・オーウェン、レオン・デイム、ハンネ・ギャビー・オディールとともにドリス ヴァン ノッテンの顔として活躍してきた。彼ら全員が今回のショーに参加している。デヴィッド・ボウイの「ムーンエイジ・デイドリーム」の曲が流れるなか、彼ら以外にも幅広い世代の男女モデルがランウェイに登場した。

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ドリス ヴァン ノッテン2025年春夏コレクション。photography : Imaxtree

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ピンク、ピーチ、ライム

透けるオーガンザを使ったルーズフィットのトップスやパンツはまるで浮遊しているようだ。単色でカジュアルシックな雰囲気のスーツはカッティングが完璧で、ゴールドのモチーフ刺繍が際立つ。やがてランウェイは色彩豊かになり、素敵なピンクのシルクコート、ピーチのモヘア、ライムのラメなどが登場した。もちろん繊細な花も健在だ。軽やかなコットンや素朴なウール、クラシックな英国ヘリンボーン、くしゃくしゃのガラスのようなナイロンなどの素材が生き生きと、過去や未来の物語を語りかけてくる。ゴールドメタルを彫刻したかのようなバミューダパンツやジャケット、トップ、パンツは照明によってゴールドにもシルバーにも美しくきらめき、魅惑的な黒との組み合わせが秀逸だ。

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ラストショーで挨拶をするドリス・ヴァン・ノッテン。photography : Imaxtree

ドリス・ヴァン・ノッテンも深く感動しながら挨拶に立った。スタンディングオベーションが起こり、ランウェイに巨大なディスコボールが出現した。「こんな体験は本当に久しぶり」と百貨店のファッション・エディターがはしゃいでいる。さあパーティーの始まりだ。このショーが終わってもブランドは続いていく。そのことはデザイナーが明言している。本人は引退してアントワープの庭で花を愛でる生活をしていくにせよ、ブランドとの関係は続く。2018年に同ブランドの過半数株式を取得したプーチ・グループとともに後継デザイナーの名をもうじき発表するはずだ。

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ショウ・マスト・ゴー・オン

今回のショーについてドリス・ヴァン・ノッテンはこんなふうなメモを寄せている。「これは私にとって129回目のショーとなります。これまでのショー同様、未来を見据えたものです。今夜は盛りだくさんですが、これでグランドフィナーレというわけではありません。私が思い出すのはマルチェロ・マストロヤンニの言葉です。彼はある日、"未来のノスタルジー"というパラドックスについて語ってくれました。プルーストの失われた楽園を超えて、私たちは夢を見続けます。そしてどこかの時点で、そのことを愛おしく思い出すでしょう。私は自分の仕事が好きです。ファッションショーも、ファッションを通じて人々と関わっていくのも好きです。クリエーションというのは永続するなにかを残すこと。この瞬間に感じていることは、これが自分だけのものではなく、みんなのものだということです。いつまでも」

ありがとう、ドリス・ヴァン・ノッテン。

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text : Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr)

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