チカ キサダの出発点。バレエとパンク、相反するものが融合した唯一無二の世界観に迫る。

ダンスなど身体表現との親和性が高い服作りをするジャパンブランドにクローズアップ。踊り手と作り手が、相互にインスピレーションを与え合うかのようなチカ キサダの衣服には、繊細な美意識が宿る。

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Chika Kisada

©Noam Levinger
新国立劇場バレエ団の若手による『Young NBJ GALA 2025』中、コンテンポラリー作品の衣装を繊細な質感で表現。

幼少期からクラシックバレエの世界に身を置き、ダンサーとして舞台に携わったバックグラウンドがある幾左田 千佳が2014年に立ち上げたチカ キサダ。バレエのエレガンスとパンクの精神という相反するイメージを融合させた"強いエレガンス"をコンセプトとする衣服は、儚さの中に生命力あふれる躍動感を纏わせ、唯一無二の世界観を描き続けている。

「バレエダンサーになることが夢だったので、バレエを通して身体で表現することに夢中でした。一方で、子どもの頃から舞台衣装の美しさに心奪われていたこともあり、自然とファッションの世界に結び付いたように思います。踊る身体と衣服の関係性を、自分の手で形にしたいと考えるようになったのが出発点。バレエから得た、強さとしなやかさの共存という感覚を服作りでも大切にしています」（幾左田）

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バレエで培った身体表現を、ファッションとして形に。

"雪山"をテーマにした25年秋冬コレクションより。チュチュを新しい解釈で再構築したファーストルック。

黒とピンクはバレエの世界では特別な色。ジャケットの袖はバレエのアームスを意識して設計。

プリエしたシルエットになるパンツは、シーズンごとにデザインを変えて登場するイットアイテム。

バレエには絶対的な様式美というものがあり、優美なイメージがつきまとうものだが、そこに当事者ならではの視点で自由な解釈が加えられる。26年春夏シーズンを例にとっても、肩甲骨を引き寄せたシルエットのシャツや、骨盤の位置を意識したパニエ風のスカート、筋肉の動きを捉えるタイツ素材のアイテムなど、解剖学的なアプローチを加味したようなクリエイションが光る。また、バレエにおなじみのチュールを使ったアイテムは、リバーシブルにすることで、装飾としてだけでなくボリュームとしてのチュールを纏うことを提案。いずれも身に着け、動くことで美しさが発揮される。

「"トレース"をテーマにした、身体が語る美しさを意識したコレクションです。常に身体の曲線が美しく映えるバランスを追求していますが、ダンサーの呼吸を可視化するようなイメージで、輪郭を特に意識して、骨格や立ち姿のラインを捉えるようにしました。内面の強さや静かな緊張感がにじみ出るような造形にこだわっています」

26年春夏のルックより。ダンサーの上体を引き上げた姿勢を再現するパッチワークのシャツドレス。

黒のドレスにタイツ素材のレイヤードトップを合わせて。

近年はバレエの舞台衣装に挑戦したことも話題に。確かな手ごたえを感じ、次なる目標として、海外の劇場作品に携わることを視野に入れる。

「異なる身体性や文化を持つダンサーと対話することで、どのような表現ができるのか試してみたいです。チカキ サダを纏うことでどのような化学反応が生まれるのか。国や言語を超えたところで共有できたらすごくうれしい」

©Yuki Kumagai
バレエを現代的に解釈する『BALLET TheNewClassic』（22年、24年）では使い古された衣装に手を加え、蘇らせるといった新たな試みも。

＊「フィガロジャポン」2025年12月号より抜粋