ブリュッセルのカルティエ ブティック、ジュエリーをより輝かせる手仕事が生きたインテリア。
Jewelry 2025.01.27
パリ9区のレストラン「Colère(コレール)」でも紹介したパリをベースに活動する室内建築家デュオのFriedmann & Versace(フリードマン・ヴェルサーチェ)。彼女たちの現代的ビジョンとハイセンスで上質な仕事が求められるのは、レストラン業界だけに限らない。ベルギーのブリュッセルで昨年秋に改装オープンしたカルティエのブティックでも、彼女たちによるリノベーションが素晴らしい結果をもたらしている。
ブリュッセルといったら、カルティエのジュエリーと同じように自然が重要なインスピレーション源のアールヌーヴォーの建築で知られている。またシューレアリスム運動にも結びつく町である。ふたりはこの2つの要素に敬意を表する内装を作り上げた。そこには自然との接触により生まれる感情をビジュアル表現するルイ・ヴァン・リントなどベルギーの画家たちへの賞賛も込められているそうだ。
自然光に恵まれた店内。最初に目を和ませるのは、カルティエのジュエリーにインスパイアされてローランティーヌ・ペリユーが壁に描いた色彩豊かなマクラメの花々だ。次のスペースでは、ヴィクトール・オルタの師匠アルフォンス・バラの建築によるラーケン王宮温室に堂々たる姿を誇るパンテールに魅了される。これは漆喰の浅浮き彫りのように見えるものの実はパピエ・マシェで作者はブランデル&テリアン。ガウディがかつて用いた手法だという。時計売り場の壁には、カルティエの時計の文字盤に使用されているギヨシェ技法がアーティストのアントナン・ラモートによって象徴化されている。移り変わる季節を叙情的に表現した、現代的かつ男性的なグラフィックだ。
プライベートサロンを仕切る扉は、懐かしさと優しさにあふれたアールヌーヴォー調のステンドグラス。これはラファエル・コレットによる制作で、ベルギーのかつての女子寮だったウーシュリンのウインターガーデンにインスパイアされたデザインである。天井と壁の境の装飾は、1925年にクリエイトされたコレクションの中のトゥッティフルッティのブレスレットがインスピレーション源だ。バーカウンターの正面に花と植物を描くのはボージョレー・タイルの七宝技法を用いたセラミックのパズルで、手がけたのはトーリス・スタジオ。このようにカルティエの伝統と職人仕事とリンクするかのように、昔ながらのメティエダールが多く活用されて完成したインテリアである。
またLuc DruzのテキスタイルやOmexcoの壁素材など、フリードマン・ヴェルサーチェはエコ・レスポンシブルかつローカルな素材をあえて選んでいる。カーペットの素材はエコニルファイバーだし、睡蓮を描いた木製の寄木細工は100%FSC(森林管理協議会)認証を受けているものだ。ガラス屋根の下のウインターガーデン的スペースの床はリサイクルされた石砕から作られた小型レンガが用いられ、照明器具は植物がテーマのヴィンテージである。カルティエが重要視している持続可能な精神もこの改装に反映されているのだ。伝統と革新のメゾンであるカルティエの新しいブリュッセル店。この魅力的なブティックはショッピングと職人仕事を愛でるために、いつか訪問してみたい。
Cartier Bruxelles
Boulevard de Waterloo, 54 1000 Bruxelles Belgium
営)10:30~18:00
休)日
https://stores.cartier.com/en_bg/belgium/bruxelles/boulevard-de-waterloo-54
editing: Mariko Omura