—加藤さんは、宮大工をしていたそうですが、大工仕事から離れてうつわを作るようになったきっかけは?
加藤:宮大工として8年修業した後、独立したんですが、大きな機械を使う仕事よりも、ノミで彫ったり、カンナで表面をスムースに仕上げたりという仕事のほうが好きで、彫刻を作ったりもしていました。その頃、三谷龍二さんや須田二郎さんなど、木のうつわで生計を立てている作家がいたことも影響しているかもしれません。自分が好きなノミとカンナでやれる範囲で、作ることをしてみたいと思ったんです。それがうつわでした。
—宮大工の仕事で身につけたことは、うつわづくりにも生きていますか?
加藤:もちろん、生きていますね。お寺や神社の建造や修繕を行う宮大工の仕事は、住宅建築よりも長い期間、使われること、残ることを考えて作ります。ボルトを使わず木組みだけで建てますし、細部までとにかく仕上げの美しさを追求するんです。柱や手すりなどスベスベになるまでカンナをかけるんですが、それには、美しさと同時に、湿気に強くなるという役割もある。うつわを作る時も、工程のひとつひとつが、そのうつわを長く使うことにつながるように作っています。
—具体的には、どのように作っているのですか?
加藤:オーバル皿も、六角盆も、リム皿も、すべて最初に図面をひくことから始まります。かたちは完全に自分の好みからきていて、縦横の比率や見込みの深さ、リムの幅など、試作して少しずつ調整しながら、かっこよくて使いやすいバランスにたどり着く。輪花リム皿は、当初花弁が10弁でしたが12弁のほうが綺麗。作業は増えるけどそうしました。そうしてできた図面通りにノミで削っていきます。誤差はできるだけ少なくミリ単位で図面に合わせて、木の塊から、ひとつひとつ、うつわを削り出していきます。
—うつわの表面に彫り跡がほどよく見えていいですね。荒削りした木の塊から、ノミで彫ってかたちづくる「刳りもの」という技法ですね。
加藤:とにかく、ノミで刳りぬいたり、削ったりする作業が好きなんですよ。刳りぬくという動作には、想像以上に身体全体の動きが影響するんです。手先だけでやっていては、うまく削れない。大きく削る時は、腰や肩から動かさないとなりません。それは道具を「使う」というより「操る」感覚。その分、身体の使い方次第でいかようにもオリジナルなかたちを生むことができるのが、面白いですね。
—新作の刳り貫き丸深盆も、定番の細長いオーバル皿も、他にはないダイナミックなかたちです。どれも手を添える部分のエッジがキリッとしていて気持ちがいい。底に厚みがあるのもいいですね。無垢材の色味ですが、おもてなしなどハレの食卓でも使いたくなります。
加藤:うつわは、天に召すというか、神に捧げるものというイメージが僕のなかにあるのかもしれません。木材特有の手触りやぬくもりを残すこともできると思うんですが、僕は、もうすこし、きちんとしたものとして木のうつわを捉えたいんです。
—宮大工として木に関わるようになった加藤さんならではのものづくりですね。図面をひいて大きさをきちんと揃えると聞いて、買い足したい時も安心です。
加藤:図面をもとに、同じかたちで、大、中、小と、数センチ単位のサイズ違いを展開することも多いです。そういう職人仕事も磨きながら、作家として、自分にしか作れないオリジナルなものを生み出したいと思っています。
—仕上げにクルミオイルを染み込ませていますね。取り扱いの注意点があれば教えてください。
加藤:クルミオイルは、空気に触れると短期間で酸化し皮膜になりやすく、料理の汁や油が染み込むのを防ぎます。木のうつわは、油の多い料理に使うと自然に染みた油分がだんだんなじんで味わいになりますよ。うつわを使ったあとは、やわらかいスポンジに中性洗剤をつけて洗ってください。すぐに水気を拭き取り、よく乾かすことをおすすめします。ツヤがなくなってきたらクルミオイルやエゴマ油などを塗布してください。
※2020年10月3日まで「千鳥 UTSUWA GALLERY」にて「加藤良行展」を開催中です。