—今回の個展では、青緑色の釉薬を用いた青瓷のうつわがとても美しいですね。
豊増:私は薪窯で焼物を作ります。電気窯やガス窯のように温度や火力が安定しない薪窯で青瓷を焼くときには、匣鉢(さや)という耐火性の容器に入れ、火炎などの影響を受けないようにすることで綺麗な色を出すのが一般的なんですが、私は匣鉢に入れずに焼くんです。薪窯のどの場所で、どのくらいの温度で焼くと釉薬が綺麗に溶けていい色になるのか、試行錯誤を重ねてきました。
—彫り紋様が盛り上がっているところには薄く、へこんでいる分には濃くというようにグリーンの濃淡の美しさに引き込まれます。
豊増:高温で焚くことで奥行きのある表情が出るんです。釉薬がよく溶けているところには細かい気泡が生まれ景色となる。そうした釉薬の変化は、窯の中のどこに置いたかによっても現れ方が異なるので、同じかたちの青瓷のうつわでも、ツヤが出るものもあれば、マットに落ち着くものもあります。
—手に取る方それぞれに好きな表情のもの、手持ちのうつわに合う質感のものなど選べる楽しみもありますね。
豊増:いろいろな表情が生まれるのは、薪窯で作る面白さのひとつですね。同じ窯で白瓷や染付も焼きますから、高温で焼かれた今回の白瓷は、これまでのものよりツヤがあってキンとした仕上がりに、染付の絵柄もはっきりとしたものになっていると思います。土は天草の陶石や有田の泉山陶石など、ものによって使い分けています。
—青瓷がよく焼けるように薪窯の状況を整えることで、白瓷や染付の方向性にも変化が生じる。焼物とはまさに一期一会のものですね。そう思うと、いまこの時に生まれたものを手に取る尊さを感ぜずにはいられません。
豊増:工房のある有田や近隣の唐津には江戸時代の窯跡があって、当時作られた陶器のかけら(陶片)を見ることができたり、私は中国や韓国の窯業地に出向いたこともあるのですが、そうした場所で見る焼物はどれもとてもシンプルです。土、木灰をベースにした釉薬、薪を原料とした窯という、自然由来のものだけでも味わいのあるうつわが生まれる。陶芸家の私がやるべきことの第一は、材料や環境、つまりいい装置を整えること。そうすれば、たとえ均一でなくとも、ひとつひとつに味のある美しいものが生まれるはずなんです。
—材料を整えるといえば、中国の宜興という地域で作られる質のいい急須を、豊増さんは日本で採れる材料を使って再現していますね。
豊増:中国茶の世界では、江蘇省の宜興で採れる紫砂(しさ)という土を使って作る急須が最高だと言われています。私は、二十数年前から中国茶に親しむようになり、詳しい方々にアドバイスをいただきながら急須や茶器を作っていますが、できるならばすべて日本の素材でと思って地質学の先生などに相談してみたところ、宜興の土と同じ頁岩(けつがん)という素材が唐津にあることが分かったんです。それを自分で精製し粘土にして唐津紫砂と呼び、急須や青瓷に使っています。
—豊増さんが陶芸を始めたきっかけを教えてください。
豊増:私は上海で生まれて10歳まで中国に住んでいました。父が陶芸家で景徳鎮陶瓷学院で講師をしていたこともあり、子供の頃は、おもちゃがわりに工場にある粘土でゾウやキリンを作ったりして遊ぶのが常でした。そういうものを職人さんに褒められた記憶は、陶芸を始めたきっかけのひとつなのではないかと思いますが、具体的に意識したのは有田に住むようになってからです。佐賀県立有田窯業大学校で研修コースを受けて焼物のメーカーに勤めたのですが、有田の焼物づくりは分業制。でも私はすべての工程を一人でやりたいと思うようになってしまって。京都で陶芸を学び直し、陶芸家に弟子入りをした後、有田で独立しました。
—どんなものを作りたいと思っていますか?
豊増:素材に教えられることが多いと日々実感しています。こうしたいと完成形を思い描くのではなく、どうしたら土や釉薬がいい状態を発揮できるかというところに感覚を研ぎ澄まして、作っていけたらと思っています。